著者
和田 明 杉本 隆成 落合 実 遠藤 茂勝 立田 穣 渡部 輝久
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)北極海を対象として3次元流動解析結果(開発済)を用い、事故時の放射性物質の濃度解析を行った。核種拡散モデルには海水の流動、拡散の他に物質間の吸着・脱着(スキャベンジング効果)、海水と海底堆積層(3層モデル)との相互作用を考慮したモデルの構築に努め、線量評価のための精度向上を図った。濃度解析は核種(Pu-239とCs-137)の放出シナリオに基づいて、局所域(カラ海、バレンツ海)と北極海全城を対象として実施した。濃度解析ではパラメータ(分配係数値、粒子の沈降速度、SS濃度)が海水及び海底土内の濃度におよぼす影響を検討した。Pu-239の場合、3つのパラメータが大きいほど、海水中濃度が低く、Cs-137の場合はパラメータによる濃度への影響はPu-239よりも小さいこと、どちらの核種においても海水に接する粒子層が最大値を示した。核種が放出されてから、10年後(局所域)及び1000年後(全域)の濃度は核種により異なり、Pu-234では海底土内に90%、残りは海水中に残存すること、Cs-137では海水中に60〜80%、残りは海底土に残存する事を確認した。(2)放射性核種の底質移行に係わる浮遊懸濁物の役割に着目し、懸濁物の放射性核種吸着量を支配する要因の一つである懸濁物の物理化学的特性を調べるためにPIXE法を用いた元素分析を実施した。試料は那珂湊の海水を用いた。1年間に亘る調査の結果、主要元素の濃度はほぼ一定であり、海洋中での生物活性の季節的変動にも拘わらず安定であることを見出した。更に、室戸沖の表・深層水、青森県を囲む3海域での懸濁物元素組成を比較した結果、元素濃度はほぼ一様であった。従って、浮遊懸濁物の元素組成は海域間及び季節間で大きな変動は無く懸濁物による核種の吸着効果は各海域で同様でスキャベンジング効果は濃度に依存することを確認できた。(3)生物への移行に関するデータを収集してプランクトン生態系による放射線核種の鉛直方向の輸送モデル化を検討した。14年度に構築した生物中のCs-137の濃度予測モデルについて検証データの取得を行った。検証データとしてIAEA・モナコの海洋研究所がモナコ沖合で観測したチェルノブイリ事故時のCs-137のデータを適用して、海産生物中Cs-137の動的濃度予測3次元モデルを検証した。
著者
杉本 隆成 澤本 彰三 福井 篤 岡田 喜裕 萩原 直樹 仁木 将人 郭 新宇 金子 新 郭 新宇 金子 新 田所 和明
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

駿河湾の急潮およびサクラエビの再生産環境に注目した流況と生態系の観測網を構築した。駿河湾を東西に横断するフェリーに搭載した音響ドップラー式流速鉛直プロ ファイラーADCPと、湾口および湾奥部における係留型の流速計による連続観測と、調 査船による水質およびプランクトンの隔週反復観測を中核としている。これらによって、後述するような成果が着々と得られつつある
著者
小松 輝久 三上 温子 鰺坂 哲朗 上井 進也 青木 優和 田中 克彦 福田 正浩 國分 優孝 田中 潔 道田 豊 杉本 隆成
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.127-136, 2009-02-27

海面に浮遊している藻類や海草のパッチは流れ藻と呼ばれ,世界の海で見られる.日本周辺では,ホンダワラ類がそのほとんどを占めている.ホンダワラ類は,葉が変形し,内部にガスを貯め浮力を得ることのできる気胞を有しており,繁茂期には数メートルにまで成長する.沿岸から波などにより引き剥がされた後,その多くは海面を漂流し,流れ藻となる.東シナ海の流れ藻の起源を,固着期と流れ藻期のアカモクの分布調査,遺伝子解析,衛星位置追跡ブイ調査をもとに推定した.その結果,中国浙江省沖合域の島嶼沿岸から流出している可能性が示された.ホンダワラ類の流れ藻は,漂流中も光合成,成長などの生物活動を行っている.伊豆半島下田地先のガラモ場での現地調査および陸上水槽実験を通じて,流れ藻の発生時期とその量,成長,成熟,光合成速度,浮遊期間を調べた.最後に,ホンダワラ類にとっての流れ藻期の生態的意義について議論した.
著者
平 啓介 根本 敬久 (1989) MULLIN M. EPPLEY R. SPIESS F. 中田 英昭 藤本 博巳 大和田 紘一 小池 勲夫 杉本 隆成 川口 弘一 沖山 宗雄 瀬川 爾郎 SPIES F. 清水 潮
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

大気中の二酸化炭素の増大やオゾン層の破壊などグロ-バルな地球環境の変動の可能性が広く注目を集めるようになり、大気中に放出された二酸化炭素の50%を吸収することに示される海洋の役割とその変動を解明するために、東京大学海洋研究所は太平洋の対岸に位置する米国スクリップス海洋研究所と平成1ー3年度にわたって共同研究を行った。これに先だって1968年5月に東京大学(海洋研究所)とリフォルニア大学サンディゴ分校(スクリップス海洋研究所)は学術研究協力協定を締結して、太平洋における地球圏変動(グロ-バルチェンジ)にともなう海洋の生産力、生物資源および海底の動態に関する協力研究に着手することに合意していた。平成1年、本研究の発足に当たって、根本敬久(当時、研究代表者)と小池勲夫がスクリップス海洋研究所を訪問して、全体の研究計画ならびに海洋上層における炭素・窒素の生物的循環を対象として研究する方法について討議した。同年11月に新造された白鳳丸がスクリップス海洋研究所に寄港して、海洋物理学、海洋化学、海底物理学、海洋生物学そして水産学の全分野について研究計画の打ち合わせを行った。また、スクリップス海洋研究所のヘイワ-ド博士を東京大学海洋研究所に招き、杉本隆成が渡米して地球規模の生物環境問題、特にイワシ類の資源変動の機構解明の方策が話し合われた。瀬川爾朗がスピ-ス教授を訪問して、東太平洋海膨の海底活動荷ついて電磁気学的特性について討論し、それぞれの海域で観測研究を実施することを打ち合わせた。平成2、3年度は上記の方針に沿って、カタクチイワシ、マイワシ類の稚仔魚の変動については、平成2年、3年の冬季に薩南海域で実施したマイワシの資源調査の結果ならびに既存資料とスクリップス海洋研究所がカルフォルニア沖で40年以上継続している調査結果と比べて大規模な地球的変動であるエルニ-ニョに対する応答を明かにした。物理的(温度、塩分、雲量、光量、海流)、化学的(栄養塩量、溶存酸素)パラメ-タ-によって資源変動を予測するための海洋環境変動モデルをそれぞれの海域について構築することができた。これらの資源環境学的研究は英文モノグラフとして刊行することになった。海洋における栄養塩の量的変動と微生物食物連鎖の研究も実施された。海洋物理学では、CTD観測に基づく海洋構造の観測と中立フロ-トの追跡によって太平洋の深層循環の研究を実施した。スクリップス海洋研究所は1987年2北緯24度と47度の太平洋横断観測を実施し、東太平洋の南北測線の観測を1990ー91年に実施した。後者についてはスクリップス海洋研究所のデ-ビス教授が南極環海と熱帯海域においてアリスフロ-トの追跡実験を、東京大学海洋研究所では平啓介が中心になって四国海盆ならびに黒潮続流域でソ-ファ-フロ-ト追跡実験を実施しており、デ-タ交換を深層流の統計学的特性を明らかにした。海底磁力計と電位差計による海底観測は東京大学海洋研究所では瀬川爾朗が中心に、スクリップス海洋研究所ではスピ-ス教授のグル-プが実施しており、相互のデ-タ交換を行い、海底ステ-ションによる長期観測法を確立した。海洋の炭素循環について、国際共同研究の一環として白鳳丸による北西太平洋における観測を平成3年5月に実施した。また、太平洋熱帯域ではスクリップス海洋研究所が8月に観測を実施した。これらのデ-タ解析により、溶存炭素の循環に関する研究をとりまとめた。