- 著者
-
永田 智子
藤原 容子
潮田 ひとみ
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.58, 2015
<b>【研究目的】</b>永田・鈴木(2014)の研究において,家庭科の研究指定を受けている小学校の教員でさえ,ミシン指導に不安を抱えていることが示された.現職研修も必要であるが,本来は教員養成課程の段階で自信を持ってミシン指導できる知識や技能を身に付けている必要がある.しかし家庭科の学習内容における教育学部生のつまずきで最も多いものが「ミシンの使い方(54.8%)」であり,その要因として,「機会が足りない」「方法・手順が複数ある」「教え方が不適切だった」「コツが分からない」「役割やしくみが分からない」「内容や作業が複雑だった」などが挙げられた(小林・伊藤2013).<br> そこで本研究では,将来の小学校教員である初等教員養成課程の学生に対し,ミシン使用の技能と指導の自信を高めるため,つまずきの要因をできるだけ排除した授業を工夫し,実践を通して効果を検証することとした.<br><b>【研究方法】</b>研究対象は,2014年度にH大学で開講された小学校教諭の普通免許状授与のための必修科目「初等家庭科教育法」である.この科目を履修した学生(学部2~4年生,大学院生,計217名)のうち,被服実技に関する授業を2単位時間(1単位時間=90分)受講し,事前および事後アンケートの両方に回答した171名(2年137人,3年4人,4年1人,大学院29人.男78人,女93人)を分析の対象とした.<br> 被服実技に関する授業では,第1校時には,縫い始めたい場所にミシン針をおろしてから押さえをおろすといったミシンの縫いはじめと縫い終わりの動作説明に重点をおくため,糸をつけずに紙を空縫いすることから始めた.第2校時には,糸の通し方から説明をはじめ,上糸と下糸の色をかえ,糸調子や裏表がわかるようにするなど,ミシンの仕組みや役割がわかるように,2段階で指導することとし,最終的に直線縫いでポケットティッシュケースを完成させる授業展開とした.<br><b>【研究結果】</b>事前アンケートより,小学校家庭科における手縫いやミシン縫いは多くの学生が経験していたが,中学,高校と校種が上がるにつれ減少していた(小学手縫い88.9%,小学ミシン88.3%,中学手縫い58.5%,中学ミシン57.3%,高校手縫い25.7%,高校ミシン26.9%).また,針と糸は自分のものを所有している学生は多いが(80.1%),自分のミシンを所有している学生は少なく(3.5%),家族所有もないとする学生も4分の1いた(26.9%).一方,家庭でミシンを作った物づくりは半数強が経験していた(52.6%).<br> 授業の理解度について「わかった」を4点,「わからなかった」を1点とした4件法で尋ねた,平均点を算出したところ,手縫い3.3点,ミシン3.2点と,おおむね授業は理解できたことがうかがえた.<br> 手縫いとミシン縫いの技術と指導の自信について,授業前後でのアンケート結果を比較した.手縫いは2.8点から2.8点,手縫い指導は2.1点から2.7点,ミシン縫いは2.5点から2.7点,ミシン指導は1.9点から2.5点へと向上した.事前において他の項目に比べて高かった手縫い以外の3項目が有意に高くなった(p<.01).以上のことから,今回行った授業において,手縫いおよびミシン縫いの技術と指導の自信が高まったことが検証された.しかし,授業後も自信がないとする学生が少なからずおり,さらなる授業の改善が求められる.<br><b>【引用文献】 </b><br> 小林歩,伊藤圭子(2013)家庭科における子どもの「つまずき」要因の検討一大学生の学習経験をもとに一,初等教育カリキュラム研究 (1), 69-79, 2013-03-31,広島大学大学院教育学研究科初等カリキュラム開発講座<br> 永田智子・鈴木千春(2014)小学校家庭科教育研究指定校の教員が抱える不安,日本家庭科教育学会第57大会(岡山大学)