著者
鈴木 洋子 永田 智子 赤松 純子 榊原 典子 中井 昌子 野田 文子 矢野 由起
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.130-135, 2009-07-01 (Released:2017-11-17)
参考文献数
8

教育職員免許法上の指定科目と現行の学習指導内容及び教員養成上の必修科目が一致していることは必須であるが,教育職員免許法施行規則に設定されている家庭科に関する専門科目は,教科に求められている時代の要請に比べ,大幅な変革がなされていない。そこで,教育職員免許法施行規則に示された「教科に関する科目」と現行家庭科の学習指導内容の整合性を確認し,問題点の究明と改善の方策を探る際の示唆を得ることを目的に,高等学校教員の現行教育職員免許法施行規則に指定の「家庭」の教科に関する科目に対する意識を調査した結果,以下のことが明らかになった。・高等学校普通科における普通教科「家庭」の履修科目は,「家庭基礎」57%,「家庭総合」14%,であった。専門科目「家庭」の中の科目については「フードデザイン」と「発達と保育」の履修が多かった。・高等学校教諭普通免許状「家庭」の授与に指定されている科目・内容のうち,必要性が高かったのは食領域の「調理実習」「栄養学」「食物学」「食品学」と「保育学」であった。必要性が低かった科目・内容は「家庭電気・機械」「製図」「情報処理」「家庭看護」「家庭経営学」であった。不必要とされる理由に「他の教科で学習したほうがよい」「家庭総合・家庭基礎にない」の回答が多かった。「家庭電気・機械」「製図」「情報処理」は,中学校においては技術科の内容であることを考慮し,削除も含めて今後検討する必要があるのではないかと考える。・教育職員免許状では必要な科目・内容として指定されてはいないが,高等学校で家庭科を指導する上で教員養成上必要と思われる科目・内容に,「消費生活」「福祉」「環境と資源」「高齢社会」の回答が多かった。低かったのは「キャリア教育」,「ジェンダー」,「生活文化」,「少子化問題」であった。
著者
今村 律子 赤松 純子 山田 由佳子 潮田 ひとみ 與倉 弘子 深沢 太香子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

<b>1</b><b>.目的<br></b> 家庭科衣生活内容において、「衣服の手入れ」は、どの校種においても大きな位置を占めている。小学校学習指導要領解説家庭編の「洗濯ができる」は、手洗いを中心とした洗濯の基本について学習する、を意味するが、手洗いという表現は、「洗濯機で洗える物を手で洗う」と洗濯の絵表示にある「洗濯機で洗えない物を手で洗う」の2種類の解釈が可能である。そのため、児童・生徒だけでなく大学生にもこの2種類の手洗いを混同している者が多いようである。本研究では、取り扱い絵表示の方法が、JISからISOの規格に変更されるこの時期に、被服学を専門とする立場から、洗濯学習に関する授業ポイント(内容)を整理し、小学校で重点的に取り上げる必要のある内容を含んだ洗濯学習の教材化について提案したい。<br><b>2</b><b>.方法<br></b><b> </b>現行の小学校家庭科教科書(2社)における衣生活内容「洗濯」を省察し、学習内容(ポイント)を被服管理学の視点から整理した。次に、関西6府県の附属小学校及び県庁所在地の市立小学校を対象に、洗濯の学習内容及び実習の実態についてアンケート調査したが、ここでは和歌山県の結果の一部を記す。<br><b>3</b><b>.結果及び考察<br></b>(1)洗濯学習に関する授業ポイント(内容)と調査項目<br> 小学校において学習すべき内容を6分類:A.準備、B.「洗う・絞る・干す」に関すること、C.洗剤、D.汚れ、E.後片付け、F.手入れの必要性、に整理することができた。 A.準備は、衣服の点検、表示の確認及び洗濯物・洗剤液の準備に細分できる。B.では、洗濯の工程、原理(水・洗剤・力)、洗い方・絞り方・干し方、C.は洗剤の種類・使い方・量、D.は、汚れの種類・性質、E.は、用具の片付け方とアイロン、F.は、着心地であり、43項目の内容に整理できた。<br>(2)和歌山市(54校中26校、回収率48%)における調査結果<br> 1)学習内容の実態<br> 整理した43項目中、学習させている項目は、平均24項目であった。9割以上の小学校で取り上げている項目は、絵表示で洗い方を確認すること、洗濯の工程は、「洗う&rarr;絞る&rarr;すすぐ・絞る・干す」であること、干す時に洗濯物の形を整えてしわを伸ばすこと、洗剤の量は必要以上使うと環境に良くないこと、の4項目であった。逆に学習実態が2割未満であったのは、洗濯機を使った時は洗濯機の中や周囲を拭くこと、泥などの固形汚れは乾燥させてブラシなどで落とすこと、汚れによって洗剤液と固形石けんを使い分けること、汚れのひどい部分には固形石けんを使うと良いこと、石けんは冷水に溶けにくいことの5項目であった。石けんに関わる内容があまり扱われていないことがわかった。<br>&nbsp;2)洗濯実習の実態<br> 学校現場で洗濯実習を実施している小学校は84%と多く、2時間で実習している学校が多かった。靴下やハンカチを洗っている場合が最も多かったが、学校行事で使用されている鉢巻きやたすきを利用している学校もあった。使用洗剤の形状と種類を混合した設問で複数回答を求めた結果、粉末洗剤にのみ○を付けた回答が多く見られた。教師が合成洗剤と石けんの区別をあまり意識していないことがわかった。洗い方は、もみ洗いとつまみ洗いの両方を教えている学校が60%と半数を超えていた。<br>(3)手洗い教材への提案<br> 実生活では、洗濯機による洗濯がほとんどである。小学校における手洗い洗濯では、洗濯の工程及び原理を取り上げることにより、将来の効率的な洗濯機利用につなげたい。アンケート調査では、粉末タイプの合成洗剤を実習に用いている学校が多かったが、もみ洗いに加えて手洗いの利点である部分洗い(つまみ洗い)を効果的に指導するために、固形石けんによる手洗いを提案したい。小学校家庭科教科書には、洗剤液の水量が10~20倍であることが記載されているが、浴比が物理的な力に関連することは洗濯機による洗浄で取り扱うことなので、固形石けんを用いることによって取り上げる必要がなくなると考える。このことは、少量の水による手洗い学習となり、防災時の洗濯などにも応用することができると考える。
著者
今村 律子 西岡 真弓 赤松 純子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.68, 2016

<b>目的</b> 「アイロンかけ」を体験するだけの授業を、中学校家庭科のねらいである「実践的・体験的な学習活動を通して」科学的に学ばせる授業へと転換することで、生活の中で応用し生かしていける力をつける授業づくりを目指した。<br><b>方法</b> 題材名「アイロンを極めよう」(2時間)で「繊維や布の特徴を理解したアイロンかけができる」ことをねらいとする授業実践を和歌山県内の中学校3校の1・2年生対象(285名)に実施した。しわが伸びる三要素(熱・水分・圧力)を押さえ、種々の衣生活内容と関連付ける授業内容と効果的な指導方法を研究した。また、生徒の授業前後のアンケートなどにより授業の効果を確認した。<br><b>結果 </b>1.「アイロンかけ」実習授業(2時間)に衣生活の総合的な視点を取り入れ、1時間目は【基礎編】、2時間目は【応用編】として内容を整理した授業が実践できた。<br>2.「しわが伸びる原理を示す模式図」や「カッターシャツ解体見本」、「アイロンかけビデオ」などの視覚的教材を活用した指導の工夫ができた。<br>3.「アイロンかけ」実習は、1枚のカッターシャツを分担し相互評価をさせるグループ学習により、時間を有効に使いながら相互に学び合う効果的な学習ができた。<br>4.1時間目実習時に生徒が気づいた「しわを整えるとかけやすそうだ」などの意見を生かし、かけ方のコツについて科学的に考えを深める問題解決学習ができた。<br> 本研究の一部は、基盤研究(B)26282011による。
著者
西岡 真弓 今村 律子 赤松 純子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

<strong>目的</strong> <br /> 家庭科の製作実習はこれまで,実習体験だけで終わりがちだった。しかし,現行の中学校学習指導要領においては「生活を豊かにしようと工夫する能力と態度を育てること」が求められ,さらに次期学習指導要領では,「何ができるようになるか」,「何を学ぶか」,「どのように学ぶか」が今まで以上に重要となった。本研究は,「アイロンかけ」実習を科学的知識に基づいた授業と位置づけ,生徒に3つの力(生活に生かせる知識・技能,工夫して実践する思考力,将来にわたって学びを生かそうとする意識)をつけさせる主体的・対話的で深い学びであるアクティブ・ラーニング型授業を具現化することをねらいとし,提案・実践・評価・分析する。<br /><strong>方法 </strong><br /> 「アイロンかけ」実習授業で学べる科学的知識を整理し構想図にまとめ,授業を立案した。授業展開については,アイロンかけの科学性すなわち,しわが伸びる3要素(熱・水分・圧力)および繊維の性質(霧吹き・スチーム)の理解に重点を置くことと,アクティブ・ラーニング型授業の特徴である主体的・対話的で深い学びに導く指導方法を確立することを重視した。指導の工夫は,①視聴覚教材の開発,②実感で納得させる体験,③グループ学習による学びあいのしかけ,④思考を深め授業を振り返る相互評価と自己評価の4点とした。それに基づいた授業をW県内3中学校9クラスで実施し,「生活に生かせる知識・技能」,「工夫して実践する思考力」,「将来にわたって学びを生かそうとする意識」の3点について授業効果を確認した。<br /><strong>結果</strong> <br /><strong>1.授業立案</strong> 「アイロンかけ」で学べる内容を整理し,科学的知識に基づく「アイロンかけ」実習をアクティブ・ラーニング型授業として立案,試行実践の後,基礎編(アイロンでしわが伸びる原理の理解と基本的なかけ方の習得)と応用編(繊維の水分特性と衣服の構成を理解したかけ方の習得)各1時間の授業提案ができた。<br /><strong>2.アクティブ・ラーニング型授業</strong> 基礎編では「繊維分子の紙芝居・かけ方ビデオの活用」および「アイロンのしわ伸ばし体験」を,応用編では「綿と毛の吸水実験」および「ワイシャツの解体見本提示」を行い,原理やかけ方の意味を考えさせた。また,グループで1枚のワイシャツを分担して実習する学習形態をとった。これらの指導の工夫により,「アイロンかけ」実習をアクティブ・ラーニング型授業として提案することができた。<br /><strong>3.3</strong><strong>点の授業効果</strong><br /><strong>(1)</strong><strong>「生活に生かせる知識・技能」</strong> 3要素の理解と霧吹き・スチームの使い分けは自己評価で9割以上が「わかった」と回答した。これは,視聴覚教材と体験を取り入れたアクティブ・ラーニング型授業の効果であると思われる。「アイロンかけ」技能の習得レベルは約9割がきれいに仕上げることが「できた」と回答しており,基礎的な技能はおおむね習得させることができたと思われる。<br /><strong>(2)</strong><strong>「工夫して実践する思考力」</strong> これまで各自で行うことの多かった「アイロンかけ」実習を,互いのかけ方を見て双方向に学びあう協働学習で行った結果,相互評価で「しわを整えるとかけやすそうだ」などの生徒の記述から,思考力の深化が認められた。<br /><strong>(3)</strong><strong>「将来にわたって学びを生かそうとする意識」</strong> 授業前後の意識変化調査から,今後のアイロンかけ意欲が8割以上の生徒にみられた。教師からの一方向的な指導ではなく生徒主体で考えさせる学習ができたこと,協働学習により友だちからよい刺激を受けたこと,自己評価により授業の振り返りと自己の到達度確認ができたことなどが,次の意欲へとつながったと思われる。このことは主体的で対話的な学びであるアクティブ・ラーニング型の授業展開に取り組んだ本研究の大きな成果といえる。
著者
永田 智子 赤松 純子 榊原 典子 鈴木 真由子 鈴木 洋子 田中 宏子 山本 奈美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

1.問題の所在と研究の目的  家庭科教員を取り巻く現状は厳しい。小学校においては継続的に家庭科の実践研究を行う教員は少なく,家庭科授業の手本を示してくれる先輩教員や情報交換できる同僚が身近にいないことが多い。別の方法で小学校家庭科の授業者を支援する手立てが必要である。  小倉ら(2007)は,全国の小中学校における日々の理科授業の改善に役立てるため,優れた特徴をもつ理科授業をビデオ収録するとともに,その実践の何が優れているかを具体的に示すことによって,理科を指導する教師が参考にすることを目的とした研究を行った。本研究の基本的な発想は小倉らの研究に依拠する。つまり家庭科授業をビデオ収録し,その指導案を集めるだけでなく,家庭科教育の有識者が,その授業の何が優れており,何が課題なのかを具体的に示すことによって,家庭科の授業実施や改善を支援できると考えた。  ただし,小倉らの研究では,授業ビデオと報告書に掲載された評価コメントを,視聴者自身が対応付けながら視聴しなければならない点で不自由がある。そこで,共有された授業風景動画の特定場面と討論中の発言内容の対応を明示化する動画共有システムVISCO(小川ほか2009)を利用することにした。VISCOではコメントを具体的な映像場面に直接付与すると,吹き出しのように表示することなどが可能になるため,視聴しやすくなることが期待できる。  そこで,小学校家庭科授業の実施・改善を支援することを目指し,優れた点や課題点などのコメントを授業ビデオとともに閲覧することのできる動画共有システムと家庭科授業ビデオを一つのパッケージとして開発することを本研究の目的とした。 2.パッケージの開発手順と特徴  今回開発したパッケージには,VISCOおよび7本の小学校家庭科授業の動画ファイル,各授業の指導案が含まれている。   VISCOはWindows7を推奨環境とするシステムで,動画の映像場面にコメントを付与すると,インターネットを通じてコメント情報がサーバに蓄積される。視聴時には,インターネットを通じて,蓄積された複数人のコメント情報を動画上に吹き出しの様に重ねて表示させることができる。またコメントはリスト表示され,そこからコメントを挿入した場面に動画を移動させることもできる。  小学校家庭科授業およびその指導案は日本家庭科教育学会近畿地区会の有志によって収集・編集された。授業は学習内容A~Dから各1本以上とし(A=1本,B=2本,C=3本,D=1本),題材(テーマ)は重ならないように調整した。授業は学校長の許諾を得た上で撮影し,かつ子どもの名前や顔にはモザイク加工を施した。音声が聞き取りにくい場面にはテロップを付け,授業内容がわかる程度の長さにカットした(最短約16分,最長約38分,平均約24分)。  このように編集された7本の授業ビデオに,教員養成系大学・学部で家庭科教育に携わる研究者7名が分担して,VISCOを使って優れた点や課題・助言,解説等のコメントを付与した。1本当たりのコメント者数は3名,コメント数は平均48.3±11.5件であった。 3.今後の課題 小学校と同様の手続きで中学校・高等学校家庭科教育のパッケージを開発するとともに,研究者の付与したコメントの妥当性や有効性を検証することが今後の課題である。 本研究はJSPS科研費 24531124の助成を受けたものである。参考文献 小倉康ほか(2007)優れた小中学校理科授業構成要素に関する授業ビデオ分析とその教師教育への適用,平成 15 年度~18 年度科学研究費補助金 基盤研究(A)(1) 研究成果報告書 小川修史・小川弘・掛川淳一・石田翼・森広浩一郎(2009)協調的授業改善を支援するための動画共有システムVISCO 開発に向けた実践的検討,日本教育工学会論文誌,Vol.33, Suppl., 101-104
著者
今村 律子 赤松 純子 山本 奈美 川嶋 径代 北又 寿美
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

小・中学校家庭科教科書における衣生活の「安全・安心」表記は実験・実習に関わる機器や用具の使い方が中心であり、高等学校も含め、食・住と比較して表記が少なかった。しかし、「安全」という表記がない文章や図中にも種々の視点のリスクが含まれており、授業者が「安全」を意識した授業展開が出来るよう配慮すべきであることがわかった。そこで、着衣着火事故から衣服の手入れや繊維の性質を学習する授業提案をおこなった。さらに、住生活をも関連させた授業展開が可能となった。