- 著者
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瀬戸 浩二
- 出版者
- 島根大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2001
本研究では,南極宗谷海岸の露岩域に分布する湖沼を,主に湖水の起源に着目し,3つのタイプに分類した.さらにそれらは地理的特徴,流出口の有無(涵養量)によってそれぞれ2つのタイプに細分した.これらの特徴は,湖水の塩分や堆積物の特徴に反映される.本研究において,粒度分析,CNS元素分析,安定同位体(有機物のδ^<13>C)分析を行うことによって,定量的にそれらの関係を解明した.それらの基礎データをもとに,6つの湖沼について柱状試料の堆積物を分析し,古環境の変遷の解析を行った.湖水面の標高が低い3つの湖沼では,柱状試料の下部に海棲の貝あるいは有孔虫化石を含む海成堆積物が見られる.親指池(Type 3a)やぬるめ池(Type 3b)のような塩湖では,貝化石を含む海成堆積物から黒色有機質泥に移り変わっている.淡水湖の丸湾大池(Type 1a)では,有孔虫を含む海成堆積物から黒色のラン藻質堆積物を経てコケを含む氷河性堆積物に移り変わっている.海成堆積物からラン藻堆積物に移り変わる年代は,約3800年前で,海洋〓塩湖に移り変わったことを意味する.また,ラン藻堆積物が存在することは,当時氷床から涵養を受けていないことを示唆する.ラン藻堆積物から氷河性堆積物に移り変わるのは,約3100年前でその間に氷床が拡大したことを示している.すなわち,南極の氷床は約3100年より前が最大の後退を示し,現在はその時より氷床が大きいことを示唆している.これによりヤンガードライアス以降後退し続けていると考えられている南極氷床も実際には前進・後退を繰り返し,氷床後退最大期からそれほど変化していないことが明らかになった.これは,8000年以降急速に隆起し続けている地殻変動が,最近では観測されていないことに関連するものと考えられる.