著者
尾池 和夫 JO 華龍 金 性均 慶 在福 全 明純 大倉 敬宏 久家 慶子 中西 一郎 入月 俊明 秋元 和実 山路 敦 鈴木 康弘 渡辺 満久 岡田 篤正 KIM Sung-kyun JUN Myang-soon JO Wha-ryong KYUNG Jai-bok
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

韓国南東部の梁山断層は,ほぼ北北東-南南西方向に約200kmにわたって走り,顕著な破砕帯を伴っている.この断層系において活断層変位地形を野外調査し,その主断層についてトレンチ掘削を実施した.この断層は河成段丘面群とその構成層を変位させ,東側の相対的隆起を伴う右横ずれの活断層であることを確認した(岡田ほか,1994).蔚山郡彦陽南方では,大規模な宅地開発が進められているので,その用地を利用して,主断層に伴われる地殻運動やそれ並行すると推定した副断層について多くのトレンチ調査を行った。こうした調査から,次のような事柄が判明した.彦陽南方の台地(高位面)は北東流していたかつての酌川川が形成した扇状地であり,初生的には北東へ傾いていたはずであるが,トレンチ地点付近では西方へ逆傾斜している.掘削調査の結果,高位面を構成する礫層が撓曲変形を受けていることが判明した.この高位面の撓曲による上下変位量は約5mである.いくつかの断層は認められたが,地表面まで切断するものは見当たらなかった.梁山断層の平均変位速度や高位段丘の形成時期を解明する必要があるので,梁山断層が通過する彦陽地域から太和江沿いに河成段丘面を追跡し,海成段丘面との関係を調べ,段丘面編年に関する資料を得るように努めた.それらの結果は,次のように要約される.河成段丘面はfH面群(fH1面・fH2面)・fH面群(fH1面・fM2面)・fL面群(fL1面〜fL3面)に,海成段丘面はm1面〜m3面に区分できる.海成段丘の旧汀線高度は,それぞれ53.3m・18.7m・3.4mである.fH面群やfM面群には赤色風化殻が形成されており,とくにfH面群で顕著である.fL面群の構成層は新鮮でほとんど風化していない.各河成段丘面は滑らかに蔚山湾周辺まで連続する.蔚山湾周辺では,fH2面は+10mの位置へ,fH1面は数mの位置へと連続してゆく.fL1面は下流部で沖積面下に埋没し,蔚山湾周辺での推定高度は-10mである.こうした資料からみて,fM1面が最終間氷期直前の氷期に,m2面が最終間氷期に形成された可能性が高い.fH面群はそれ以前の海面低下期に,m1面は最終間氷期以前の高海面期に形成されたと推定できる.南北〜北北西-南南東走向の蔚山断層系(延長約40km)は慶州市付近で梁山断層系に会合するが,この中央部に沿っても活断層変位地形の存在と,段丘堆積物を変位させる断層露頭が確認された.この特徴や関連現象について調べ,次のような事柄が判明した.蔚山断層系の断層線は著しく弯曲している.断層露頭表現や地形面の変形状態とから考えると,この断層の活動様式は典型的な逆断層である.第四紀後期に形成された地形面や堆積物が明瞭に変位を受けているので,蔚山断層は明らかに活断層である.この断層は高位段丘面を15m,中位段丘面を5m,上下方向へ変位させており,累積的な変位が認められる.断層崖や段丘面の変位方向からみて,東側の山地域が少なくとも第四紀の中ごろから継続的に隆起している.蔚山断層に沿って,明瞭な断層露頭が2ヶ所で観察された.末方里集落東方にある寺谷池北岸では,破砕した花崗岩が地形面を構成する礫層に,走向:ほぼ南北で,傾斜:25-30°Eの衝上面をもって接している.露頭上部では,上盤の花崗岩を被覆する礫層と砂礫層・腐植質層が急斜・逆転している.数本の断層が伴われ,幅数10cmの断層帯となっている.開谷里集落北東方の淵安川河床でも,やや風化した礫層の上に花崗岩が衝上している.末方里集落東方では,中位面を構成するシルト質層が液状化作用を受けて変形し,堆積直後の大地震発生を示唆する.その再来時間については,堆積物や地形面の年代解明を現在行っており,それらの結果を待って評価したい.こうした南北方向の逆断層性活断層の存在は,当域もほぼ東西方向の広域応力場に置かれていることを示唆する.これは北北東-南南西方向の梁山断層系が右ずれを示すこととも符号し,同じ応力場にあることを意味する.また,浦項市付近には,海成中新統が分布していることから,中新世以降の梁山断層の運動像を解明するために,地質調査を実施した.
著者
野村 律夫 高須 晃 入月 俊明 林 広樹 辻本 彰
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

最近,出雲の巨石が注目されている。島根大学のくにびきジオパーク・プロジェクトが主催した10月下旬の探訪会には,30名を超す参加者が出雲市坂浦町にある立石(たていわ)神社を訪れた。そこには今,社殿はないが,12mを超す巨石がご神体として鎮座している。アニミズムの象徴といえるこの巨石は,単なる石ではなく,古来より磐座(いわくら)や石神とよばれる神そのもとして人々のなかに息づいている。ここでは島根半島にみるジオサイトとしての巨石の成因と我々のジオパーク活動の方針について報告する。 東西約70kmにも及ぶ島根半島を西の日御碕から東の美保関までみると,山塊が分かれて少しずつ雁行状に日本海側へずれていることに気がつく。この構造は,今から2000~1500万年前に西南日本弧が大陸から分離し,日本海が形成された地殻変動と密接に関係している。半島地域の変動は,1100万年前まで続いているので,日本海が広がった頃を1700~1500万年前とすると,約400~600万年かかって島根半島の構造的な原形が造られたことになる。この時の地殻は,北西-南東方向の圧縮応力場にあり,著しい変形と変異を受けたため,島根半島は全国でも有名な宍道褶曲帯として知られる。大社の山塊の南麓には,落差が1000mの巨大な大社断層があり,北側の平田付近には弓のように窪んだ向斜構造が形成され,その構造は宍道湖へとつながっている。鹿島町の古浦海岸から美保関にかけて存在する宍道断層も大社断層と同じ性格をもち,半島の形成に参加した。島根半島には,これら二つの断層と平行した多数の断層が形成されているのが特徴で,巨石形成の最も大きな要因の一つになっている。立石神社の巨石も宍道断層の西方延長上につくられていることが,巨石の裏面や大小の割れ目に発達する擦痕からも理解できる。このようなことから島根半島に見られる多くの巨石は,島根半島の形成に伴ってできた地殻変動の結果である。 古代出雲の人々は,1300年も前に島根半島の形成に基づいた地形を反映させて,国引き神話を語っていた。風土記時代から詳細な地形分析がなされていたことは驚くべきことである。
著者
入月 俊明 栗原 行人
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.355-369, 2023-07-08 (Released:2023-07-08)
参考文献数
56

瀬戸内区中新統の,従来,第一瀬戸内累層群と呼ばれた下部中新統上部〜中部中新統下部は様々な化石を豊富に含んでいることから,古くより地質学・古生物学的研究が盛んに行われてきた.これらの中新統からは,特に,前期中新世の明世動物群や中期中新世最温暖期(Mid-Miocene Climatic Optimum)の門ノ沢動物群を特徴づける貝化石が豊富に産出することで知られている.近年,微化石に基づく生層序学的研究が進み,瀬戸内区中新統の海成層は,相対的海水準が上昇した4つの期間に形成されたことが明らかにされた.このように,瀬戸内区中新統は,前期から中期中新世における汎世界的な気候変動や日本列島の構造運動に関連した古環境や動植物群の時間空間的変化を知る上で,最も適したフィールドである.本巡検では,近畿地方に分布する瀬戸内区中新統の代表的な地層である滋賀県甲賀市の鮎河層群と京都府綴喜郡宇治田原町の綴喜層群の分布域に赴き,これらの浅海成層と明世動物群を構成する貝化石群集の観察を通じて,両層群の対比や当時の古環境について理解する.
著者
増田 富士雄 宮原 伐折羅 広津 淳司 入月 俊明 岩淵 洋 吉川 周作
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.106, no.7, pp.482-488, 2000-07-15
被引用文献数
13 21

神戸沖の大阪湾底で掘られたコアの完新統の部分について, 堆積相解析を行い, 高密度の^<14>C年代値と相対的海水準変動から, 次のような完新世の大阪湾の海況変動を復元した.11000年前に海面高度は約-50 mにあった.海進に伴い後退する三角州はエスチュアリーとなった.海面高度が約-30 mに上昇した9700年前に, 明石海峡での潮流が発生した.海面高度が約-12 mになると, 淀川河口が河内湾に退き, 備讃瀬戸が繋がり, 現在のような瀬戸内海が成立した.この時から約3000年前まで, 大阪湾全体が強い潮流の影響下にあった.5300年前〜5000年前が大阪湾では最も海面が高い時期であった.1700年前頃に, 河内湾が埋め立てられ, 淀川三角州が大阪湾にまで前進し, 1000年前には神戸沖にまでその影響がおよぶようになった.
著者
藤原 治 鈴木 紀毅 林 広樹 入月 俊明
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.Supplement, pp.S96-S119, 2013-08-15 (Released:2014-03-21)
参考文献数
135
被引用文献数
9

本巡検では,東北日本の太平洋側新第三系の標準地域としての宮城県仙台市から名取市にかけて分布する新第三系を見学する.見学の要点は,シーケンス層序と奥羽山脈発達史などの研究成果を念頭においた観察にある.最下位の茂庭層では,同時期の地層では例の少ない岩礁性動物群化石を見る.時間が許せば,茂庭層-旗立層境界に見られる海緑石層を見学し,東北日本で同時期に海緑石層が形成されていた一端を紹介する.名取川下流の露頭が本巡検の主要な見学地で,これまでの巡検で詳細には紹介されたことがない,旗立層と綱木層の不整合と堆積サイクルを見学する.この見学地は,フィッション・トラック年代の測定用試料を採集した露頭でもあるため,旗立層・綱木層の見学地としては模式地に匹敵する重要地点である.青葉山丘陵の見学地点では,綱木層と梨野層の境界を見学する.梨野層は白沢カルデラの東縁を構成する地層とされるが,綱木層との層序関係については不整合か整合か決着していない.最後に,仙台層群を観察する.下位の名取層群とは対照的に水平層となっていることが分かるほか,竜の口層から向山層への層相変化を見ることができる.
著者
藤原 治 増田 富士雄 酒井 哲弥 入月 俊明 布施 圭介
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.41-58, 1999-02-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
49
被引用文献数
12 19

内湾(溺れ谷)の泥底に砂や礫を再堆積させるイベントが,完新世の三浦半島と房総半島南部で繰り返し発生したことが,沖積低地で行ったボーリング調査によって明らかになった.これらの再堆積層は,上方へ細粒化する淘汰の悪い泥質砂層や砂質礫層からなり,他生の貝化石や粘土礫を多く含み,生痕が発達し,自生の貝化石を含む泥層を削り込んで覆う.これらの再堆積層は,3ヵ所の沖積低地で掘削した6本のボーリング・コアで認められ,加速器質量分析計(AMS)による79個の14C年代測定値に基づいて,近似した年代をもつ7つの層(下位からT1~T7)にまとめられる.T3~T7は,水深10~20mの内湾中央部に堆積したものであるが,岩礁などに棲む貝化石を泥底の群集と混合して含む.また,貝化石は下位層と14C年代値が逆転するものがある.T1,T2は上述した異常堆積物と類似した堆積構造や化石を含み,特に貝形虫化石群集は外洋水が内湾奥の汽水域へ流入したことを示唆している.T1~T7の堆積構造,化石の種構成,14C年代値は,海底および海岸の侵食と削剥された堆積物の湾央への運搬が強い流れに起因することを示している.さらに,T3~T7は,相模トラフ周辺で発生した巨大地震に伴う海岸段丘の離水時期と年代が近似する.以上のことから,T1~T7は海底地震に伴う津波で形成されたことが強く示唆される.これらの津波は,過去約10,000年の間に,400年から2,000年の間隔で発生した.
著者
瀬戸 浩二 佐藤 高晴 田中 里志 野村 律夫 入月 俊明 山口 啓子 三瓶 良和
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

南極地域において小氷期では乾燥的な気候であったと考えられる.その後,相対的に湿潤に変化したようだ.亜寒帯オホーツク海沿岸海跡湖群では,人為的環境変化以外では大きな環境変化は見られなかった.濤沸湖で湾口の閉鎖あるいは縮小が見られた.これはわずかな海水準低下に起因しているものかもしれない.温帯日本海沿岸海跡湖群では,小氷期終了前後(1600-1800年頃)に洪水堆積物が認められ,比較的大きな降雨があったことが明らかとなった.その後は人為的な環境変化が大きく,個々の汽水湖に個性的な環境変化を示している
著者
藤原 治 増田 富士雄 酒井 哲弥 入月 俊明 布施 圭介
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.489-501, 1999-12-01
参考文献数
47
被引用文献数
7 9

相模トラフ周辺で過去1万年間に発生した地震イベントを,房総半島南部と三浦半島に分布する4つの沖積低地の内湾堆積物から検出した.<br>堆積相解析の結果,基底に侵食面をもち,上方へ細粒化する砂層や砂礫層によって,自生の貝化石を含む均質な泥質層の堆積が中断されるイベントが,各沖積低地で10回以上識別された.また,一部の砂層では,海と陸の両方向の古流向が見られる.内湾堆積物に含まれるこれらの粗粒堆積物は,いわゆる"イベント堆積物"である.<br>タフォノミーの視点からの化石群集の分析によって,イベント堆積物の供給源や運搬・堆積プロセスが推定された.イベント堆積物は,内湾泥底と岩礁など,通常は共存しない異なる環境に棲む貝化石群集が混合しており,湾周辺からの堆積物の取り込みと内湾底への再堆積を示す.湾奥の汽水域や湾中央で堆積した泥層に挾まれる2枚のイベント堆積物は,外洋性の貝形虫化石を多量に含み,外洋水が湾奥に侵入したことを示す.これらは津波堆積物の可能性がある.<br>137個の高密度の<sup>14</sup>C年代測定によって,7枚のイベント堆積物が相模湾沿岸で広域に追跡され,乱泥流が南関東沿岸の広域で同時に繰り返し起きたことが推定された.5枚のイベント堆積物は,南関東に分布する完新世海岸段丘の離水と近似した年代を示し,津波起源であることが強く示唆される.<br>化石群集から復元した古水深変動から,イベント堆積物を挾む2つの層準で急激な海面低下が見いだされた.このイベントは海底の地震隆起と地震に伴う津波を示すと考えられる.<br>地層から地震イベントを検出することは,古地震研究に有力な情報を提供し,地震テクトニクスの新たな研究方法として貢献すると考えられる.
著者
松浦 康隆 入月 俊明 林 広樹
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.4, pp.312-320, 2013-04-15 (Released:2013-08-28)
参考文献数
51
被引用文献数
4 6

島根県松江市宍道町宍道高校付近に分布する中期中新世布志名層下部よりタコブネ類化石Mizuhobaris izumoensis(Yokoyama)が連続的に比較的多く産出した.これらの産出層準の堆積環境を明らかにするために,微化石を検討した結果,20種の貝形虫化石と12種の浮遊性有孔虫化石が産出した.これらの保存良好な微化石群集は,調査地点の環境が冷温~中間温帯のやや閉鎖的な環境であったことを示す.以上のことから,M. izumoensisの産出は,その産出地点が当時必ずしも暖流の影響を強く受けていた証拠にはならないことを示唆する.
著者
安原 盛明 入月 俊明 吉川 周作 七山 太
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.108, no.10, pp.633-643, 2002-10-15
被引用文献数
5 23

大阪平野南部の堺市で掘削されたボーリングコアから採取した33試料中から少なくとも72種群の貝形虫化石が産出した.クラスター分析の結果これらの試料は大きく6個のbiofaciesに区分された(PS,SBm,LS,PL,CL,LC).本研究では完新世における堆積環境と相対的海水準の変化を貝形虫群集に基づいて復元した.大阪平野南部では,約9,000-6,000年前(暦年)に急激に海水準が上昇し,その後,現在の海水準まで下降した.最高海水準期は約6,000-5,600年前(暦年)であった.この海水準変動の傾向は大阪平野中央部や大阪湾海域での海水準変動によく類似しているため,これらの傾向は大阪堆積盆地で高い普遍性を持つと考えられる.また,塩分濃度,海岸線からの距離,沿岸流や波浪による影響は相対的海水準変動と良く対応して変化する.