著者
熊本 博之
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.432-447, 2016 (Released:2018-03-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

本稿の目的は, 普天間基地移設問題を事例に, 米軍基地をめぐる政治が沖縄に何をもたらしてきたのか明らかにすることである. 補完性原理を理念的背景にもつ地方自治法第1条の2が定めている国家存立事務には, 外交や防衛が含まれている. それを根拠に, 政府は, 沖縄県の強い反対があるにもかかわらず, 名護市辺野古区への普天間代替施設の建設を進めている.そして辺野古区は, 条件つきで普天間代替施設の建設を容認している. 米軍基地と深い関係をもっている辺野古区は, 米軍基地への反対を主張しづらい地域である. それに加えて, 沖縄県が米軍基地についての決定権をもっていないため, 反対しても建設を止められる保証はない. だから辺野古区は, 条件つきで受け入れを容認し, 政府との交渉を進めているのである. こうした辺野古区の行動は, 沖縄県が米軍基地に対する決定権をもっていない以上, 沖縄がおかれている状況を集約したものであるといえよう.このような政治的環境のもと, 沖縄の人たちが米軍基地問題をどのように経験しているのか描き出していくこと, そして政治が沖縄社会にもたらしているものの意味を捉え, そこから政治がもつ問題性を析出することが, 社会学には求められている.
著者
熊本 博之
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究 (ISSN:24340618)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.22-40, 2015-12-25 (Released:2018-10-26)

普天間基地の移設予定地である辺野古には,「政治の時間」「運動の時間」「生活の時間」という3つの時間が流れており,辺野古が「政治の場」となったことで前2者が支配的になり,「生活の時間」が不可視化されている。本稿の目的は,軍事施設としての普天間代替施設に着目しながら,不可視化をもたらす構造を明らかにしたうえで,「生活の時間」を可視化することの必要性とそこから拓かれる地平を提示することにある。辺野古住民の「生活の時間」は,米海兵隊基地キャンプ・シュワブとの歴史を通して形成されたものであり,それゆえに辺野古は米軍基地の全面撤去を主張できない。普天間代替施設については「来ないに越したことはない」と考えているが,「生活の時間」に基づいた未来のことを考えると条件つきでの受け入れ容認の立場をとらざるを得ない。しかしこの複雑な態度は,「生活の時間」を共有しようとしない反対運動参加者からは理解され得ず,対立にまで発展し,ついに辺野古は反対運動の撤退を要請するに至った。だがその行為は結果的に辺野古から反対の選択肢を奪ってしまうことになる。そのような「統治への荷担」へと帰結しないためには,「生活の時間」を可視化し,共有することで,「政治の時間」への抗いを「統治への抗い」にしなければならない。
著者
熊本 博之
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究 (ISSN:24340618)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.7-17, 2019-12-05 (Released:2022-10-18)
参考文献数
14

本特集は,2018年12月9日に開催された第58回環境社会学会大会シンポジウム「環境社会学からの軍事問題研究への接近」をもとに編まれたものである。特集の総説論文にあたる本稿では,それぞれの論文の概要を紹介したうえで,そこから析出された,環境社会学が軍事環境問題に取り組むにあたって留意すべき課題をまとめた。そしてこれらの課題の背景には国家による軍事の独占があること,それゆえに加害の主体である国家についての論及が不可欠であること,しかしそこには「統治の道具」となってしまう危険性が潜んでいることについて指摘した。そのうえで環境社会学は,「国家の論理」に対抗できるような「環境の論理」を,社会に生きる人びとの視点に立ちながら彫琢していくことで,脱軍事化した社会へと至る道筋を描き出すことができること,それは軍事問題研究への独自の貢献であり,そして環境社会学がもつ可能性を広げるものであることを提起した。
著者
熊本 博之
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究 (ISSN:24340618)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.219-233, 2008-11-15 (Released:2018-12-18)

普天間飛行場の代替施設の建設予定地である名護市辺野古(へのこ)区は,1959年に米軍基地キャンプ・シュワブを受け入れた。以来,辺野古の社会構造にはシュワブが深く埋め込まれていき,それゆえに現在辺野古は,新たな米軍基地の受け入れを拒絶することができずにいる。本稿では,環境正義の観点から,この辺野古においておきている問題を描出していく。環境正義には,環境負荷の平等な分配を要請する分配的正義としての側面と,環境政策の決定過程への地域住民の民主的な参加を要請する手続き的正義としての側面とがある。本稿では分配的不正義が手続き的不正義を地域社会にもたらし,そのことがさらなる分配的不正義を地域社会にもたらす「不正義の連鎖」が辺野古において生じていることを明らかにした。また,手続き的正義を,制度レベルと行為レベルとに区別し,行為レベルでの手続き的正義を地域社会において実現することが最優先されなければならないことを指摘した。なお「不正義の連鎖」の描出は,分析概念として環境正義を捉えることで可能になった。
著者
熊本 博之
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
vol.14, pp.219-233, 2008

<p>普天間飛行場の代替施設の建設予定地である名護市辺野古(へのこ)区は,1959年に米軍基地キャンプ・シュワブを受け入れた。以来,辺野古の社会構造にはシュワブが深く埋め込まれていき,それゆえに現在辺野古は,新たな米軍基地の受け入れを拒絶することができずにいる。本稿では,環境正義の観点から,この辺野古においておきている問題を描出していく。</p><p>環境正義には,環境負荷の平等な分配を要請する分配的正義としての側面と,環境政策の決定過程への地域住民の民主的な参加を要請する手続き的正義としての側面とがある。本稿では分配的不正義が手続き的不正義を地域社会にもたらし,そのことがさらなる分配的不正義を地域社会にもたらす「不正義の連鎖」が辺野古において生じていることを明らかにした。また,手続き的正義を,制度レベルと行為レベルとに区別し,行為レベルでの手続き的正義を地域社会において実現することが最優先されなければならないことを指摘した。</p><p>なお「不正義の連鎖」の描出は,分析概念として環境正義を捉えることで可能になった。</p>
著者
和田 修一 岡本 智周 熊本 博之 麦倉 泰子 丹治 恭子 大日方 純夫 大藪 大藪 竹本 友子 大平 章 笹野 悦子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

後期近代社会としての日本社会は「リスク社会化」という社会構造の変動過程の文脈の中にあるが、こうした「リスク社会化」が生み出す社会環境のあり様にの下で「共生社会」という理念的枠組みを明らかにすることによって、「リスク社会」における「共生」問題の論理的構造を分析し、そのリスク回避へ向けての社会施策を考究するための理論の構築を目指した。この目的のために、初年度では従来の共生社会論の抱える問題点を摘出し、その理論的問題点を実証的に論じるための意識調査を二年度目に実行し、三年度目にそのデータ解析に基づく理論研究を行い、リスク社会における「共生」問題の理論的解明を行った。
著者
熊本 博之
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

辺野古では、既存の米軍基地に由来する軍用地料の故に、区の意思決定権が旧住民に偏在していることから、普天間代替施設の受け入れを拒絶できずにいる。東洋町では、周辺に核施設をもたなかったことによる核への不安と、外部からの支援者が県内世論の喚起につとめていたことが、核廃施設の拒絶を可能にした。両事例の比較の結果、行為レベルにおける手続き的正義の実現がNIMBY施設を拒絶する上で重要であることが明らかになった。