著者
片岡 祐子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.55-60, 2021 (Released:2021-07-31)
参考文献数
14

小児難聴の中で身体障害者に該当しない軽度・中等度難聴児は約30%を占める。2010年から導入された軽度・中等度難聴児への補聴器購入助成制度は現在すべての都道府県で実施され,その恩恵により補聴器を購入する児は増加している。ただし補聴器を装用しても正常聴力児と同等の聴取が可能なわけではなく,インクルーシブ教育を受ける中で問題に直面する児は多い。その問題は言語発達遅滞や学力の低下,友人とのコミュニケーション,心理面など多岐にわたり,年齢が上がるにつれて顕著化,複雑化する。それらの課題に対して,聴取の環境調整や視覚情報の提示,教育面,心理・社会面も踏まえて個別に介入や支援を行うこと,教育者や周囲の理解を啓蒙することが必要である。難聴児が成長し社会参加をするに当たり必要なセルフアドボカシースキルを確立できるような指導や支援を行うべきある。
著者
片岡 祐子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.543-548, 2022-12-28 (Released:2023-01-18)
参考文献数
13

要旨: 小児難聴のうち身体障害者に該当しない軽度・中等度難聴児は約60%を占める。近年新生児聴覚スクリーニングによる早期診断, 療育開始や軽度・中等度難聴児補聴器助成事業導入といった社会的制度が拡充されてきた。軽度・中等度難聴児は一般的に聴取や言語発達が良好で, 通常学校・級在籍児が多く, 通級も含めて聴覚に関する特別支援教育を受ける児は少数である。しかし一方で, 聴取能, 言語発達遅滞や学力の低下, 社会性の問題などが出現する頻度が高く, 年齢が上がるにつれて顕著化,複雑化する傾向がある。インクルーシブ教育においては一見コミュニケーションに支障がなさそうであるが故, 必ずしも適切な介入, 教育者等による適切な理解と支援が受けられていないことが多い。通学校での合理的配慮や課題の把握を行うとともに, 言語聴覚士や聴覚支援学校教師等による専門的検査や指導を併用できるよう, 連携した支援体制の構築,情報共有が望まれる。
著者
濵田 浩司 菅谷 明子 片岡 祐子 前田 幸英 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.23-28, 2012 (Released:2012-12-28)
参考文献数
10

生後11ヶ月で人工内耳埋込術を施行した髄膜炎後難聴の 1 例を経験したので報告する。症例は生後 8 ヶ月で,細菌性髄膜炎に罹患し,治癒後の聴性脳幹反応検査では両側 105 dBnHL で反応がみられなかった。内耳 MRI の 3D 再構築画像で右内耳は既に閉塞し,内耳内腔の骨化が急速に進行していると考えられた。左内耳は今後閉塞が高度となる可能性が考えられ,直ちに左人工内耳埋込術を施行した。髄膜炎後の難聴にはしばしば蝸牛内骨化を伴うが,中には髄膜炎罹患後約 2 週間から内耳骨化が進行するような,急速な骨化例もある。髄膜炎直後の乳児では難聴の早期発見のための ABR 検査や,難聴の存在を疑われた場合の迅速な MRI 検査は不可欠である。
著者
片岡 祐子 内藤 智之 假谷 伸 菅谷 明子 前田 幸英 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.727-732, 2017-05-20 (Released:2017-06-20)
参考文献数
12

近年の人工内耳は, 1.5T までの磁場であればインプラント磁石を取り出すことなく MRI 検査を行うことができる. ただ疼痛や皮膚発赤, 減磁や脱磁, 磁石の変位などの合併症が起こり得る. 今回われわれは MRI 後に人工内耳インプラントの磁石の反転を来した2症例を経験した. 2例とも磁石は180度反転してシリコンフランジ内に格納されており, 1例は極性を逆にした体外磁石を特注し, もう1例はインプラント磁石の入れ替え手術を行った. 人工内耳は適応の拡大, 高齢化などに伴い, 今後も装用者は増加すると見込まれる. 医療者として, 人工内耳患者が MRI を受ける上での留意点, 合併症が生じた場合の検査, 対応などを認識する必要がある.
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 中川 敦子 田中 里実 問田 直美 福島 邦博 前田 幸英 假谷 伸
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.87-95, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
24

要旨: 先天性難聴の早期発見,早期療育, 人工内耳手術の低年齢化などに伴い, 難聴児の聴取能, 言語発達は向上し, 近年地域の学校でインクルーシブ教育を受ける者が増加しているが, それに伴う問題も挙げられている。我々は, 小学校5年生以上25歳未満のインクルーシブ教育を受けた経験のある両側難聴者89名に, 学校生活で抱える問題に関して質問紙での実態把握調査を実施した。 対象者の多くは, 授業中の支障に加え, グループ学習や雑音下, 距離が離れた場所からの聞き取りの支障を抱えており, また英語, 音楽, 体育をはじめとする教科学習での課題や, 友人関係での問題も挙げていた。難聴の程度が重いほど頻度が高い傾向がみられた。 個々の学校生活における状況と問題を正確に把握した上で, 視覚情報を用いたコミュニケーション, 支援員の配属, 学習面でのサポート, 専門家による心理的負担へのアプローチといった個々に対応した介入の必要性が示唆される。
著者
片岡 祐子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.314-315, 2022-09-05 (Released:2022-12-16)
被引用文献数
1
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 前田 幸英 假谷 伸 大道 亮太郎 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.131-136, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
参考文献数
13

2012年4月難聴遺伝子検査は保険収載され, 現在19遺伝子154変異の検索が行われている. 難聴遺伝子検査は, 聴力型や聴力予後, 随伴症状の予測, 難聴の進行予防といった情報が得られる可能性があるため, 診断や介入, フォローアップを行う上での有用性は高い. 今回遺伝子検査で複数の難聴遺伝子ヴァリアントが検出された症例を経験した. 検索可能な遺伝子数が増加することにより, 診断率の向上が見込める一方で, 複数の遺伝子ヴァリアントが検出され, 結果の解釈に難渋する例も増えることが推測される. 臨床情報との照らし合わせや家族の遺伝子検査も検討し, 患者, 家族が理解, 受容できるように遺伝カウンセリングを行う必要がある.
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 福島 邦博 前田 幸英 假谷 伸 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1258-1265, 2018
被引用文献数
2

<p> 新生児聴覚スクリーニング (以下 NHS) を全例公費で実施した場合と, 全例実施しなかった場合で, NHS および要精密検査例を含めた難聴児の診断にかかる費用, その後に必要となる教育, 福祉, 補聴等にかかる公的費用について岡山県のデータをもとに試算し, NHS の費用対効果について検討を行った. 義務教育機関については NHS 実施例の方が非実施例よりも地域の公立学校 (難聴学級, 支援学級を含む) 進学率は7.6%高かった. また NHS 実施例の方が特別児童扶養手当受給開始は4.3カ月早く, 障害児福祉手当受給率は8.8%低く, 人工内耳装用率は6.9%高かった. NHS と精査, 教育, 福祉, 補聴にかかる公的費用は, 年間出生数16,000人の自治体を想定すると, NHSを実施した場合では795,939,526円, 非実施では807,593,497円であり, NHS を実施した方が11,653,971円低く, NHS を全額公費負担にしたとしても償還できる可能性が高いという結果であった. また NHS と以後の精査にかかる費用としては, 1段階 NHS と確認検査まで実施する2段階 NHS を比較すると, 2段階 NHS の方が経済的効率は高かった. 教育および福祉費用の軽減の背景には難聴児, 障害児の義務教育の受け入れ状況の年代による変化も関与している可能性はあり, 統計学的な限界はあるものの, NHS を全額公的助成で行う意義は十分あると考える.</p>
著者
片岡 祐子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.124, no.12, pp.1590-1593, 2021-12-20 (Released:2022-01-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

難聴児の早期発見・療育, 人工内耳装用に伴い, 聴取能や言語発達は向上している. 加えて, 障害児の共生に向けた社会的体制の変化も伴い, 近年地域の学校でインクルーシブ教育を受ける児は増加している. しかし, 難聴児の聴取は補聴器や人工内耳を装用しても正常聴力児と同等ではなく, 大勢でさまざまな方向からの聴取を要する学校生活の環境において多くの場面で支障がある. また学年が上がるとともに学習面の限界や学力低下, 友人との関係性の問題などが出現する頻度が高く, 留意や配慮を要する. 加えて, 新型コロナウイルス感染症拡大予防策のマスク着用やソーシャルディスタンスにより, さらにコミュニケーションの支障は増大している. しかしながら, 担任教師であってもそれらの問題を正確には把握しにくく, 適切な配慮や支援が施されないことが多い. われわれはこれまでに実施した難聴児・者への質問紙による調査結果をもとに, 難聴児の直面している問題と支援について教師が実際に活用しやすい形式でまとめたパンフレット「難聴をもつ小・中・高校生の学校生活で大切なこと 先生編」を作成した. 難聴児の抱える問題は成長の段階で変化するため, 乳幼児期の補聴機器のフィッティングや言語訓練を中心とした指導で完結すべきではなく, 学齢に達しても専門的支援を継続する必要がある. 本冊子が難聴児の育成の一助となることに期待するとともに, 今後学齢期以降の支援を充実させるよう努めたい.