著者
濵田 浩司 菅谷 明子 片岡 祐子 前田 幸英 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.23-28, 2012 (Released:2012-12-28)
参考文献数
10

生後11ヶ月で人工内耳埋込術を施行した髄膜炎後難聴の 1 例を経験したので報告する。症例は生後 8 ヶ月で,細菌性髄膜炎に罹患し,治癒後の聴性脳幹反応検査では両側 105 dBnHL で反応がみられなかった。内耳 MRI の 3D 再構築画像で右内耳は既に閉塞し,内耳内腔の骨化が急速に進行していると考えられた。左内耳は今後閉塞が高度となる可能性が考えられ,直ちに左人工内耳埋込術を施行した。髄膜炎後の難聴にはしばしば蝸牛内骨化を伴うが,中には髄膜炎罹患後約 2 週間から内耳骨化が進行するような,急速な骨化例もある。髄膜炎直後の乳児では難聴の早期発見のための ABR 検査や,難聴の存在を疑われた場合の迅速な MRI 検査は不可欠である。
著者
片岡 祐子 内藤 智之 假谷 伸 菅谷 明子 前田 幸英 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.727-732, 2017-05-20 (Released:2017-06-20)
参考文献数
12

近年の人工内耳は, 1.5T までの磁場であればインプラント磁石を取り出すことなく MRI 検査を行うことができる. ただ疼痛や皮膚発赤, 減磁や脱磁, 磁石の変位などの合併症が起こり得る. 今回われわれは MRI 後に人工内耳インプラントの磁石の反転を来した2症例を経験した. 2例とも磁石は180度反転してシリコンフランジ内に格納されており, 1例は極性を逆にした体外磁石を特注し, もう1例はインプラント磁石の入れ替え手術を行った. 人工内耳は適応の拡大, 高齢化などに伴い, 今後も装用者は増加すると見込まれる. 医療者として, 人工内耳患者が MRI を受ける上での留意点, 合併症が生じた場合の検査, 対応などを認識する必要がある.
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 中川 敦子 田中 里実 問田 直美 福島 邦博 前田 幸英 假谷 伸
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.87-95, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
24

要旨: 先天性難聴の早期発見,早期療育, 人工内耳手術の低年齢化などに伴い, 難聴児の聴取能, 言語発達は向上し, 近年地域の学校でインクルーシブ教育を受ける者が増加しているが, それに伴う問題も挙げられている。我々は, 小学校5年生以上25歳未満のインクルーシブ教育を受けた経験のある両側難聴者89名に, 学校生活で抱える問題に関して質問紙での実態把握調査を実施した。 対象者の多くは, 授業中の支障に加え, グループ学習や雑音下, 距離が離れた場所からの聞き取りの支障を抱えており, また英語, 音楽, 体育をはじめとする教科学習での課題や, 友人関係での問題も挙げていた。難聴の程度が重いほど頻度が高い傾向がみられた。 個々の学校生活における状況と問題を正確に把握した上で, 視覚情報を用いたコミュニケーション, 支援員の配属, 学習面でのサポート, 専門家による心理的負担へのアプローチといった個々に対応した介入の必要性が示唆される。
著者
藤吉 昭江 福島 邦博 伏見 久未子 北野 朱里 菅谷 明子
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.136-142, 2021-05-20 (Released:2022-05-20)
参考文献数
12

人工内耳装用を行った言語習得期前難聴児で、知的な障害がなく、音に対する反応も良好であるにもかかわらず言語発達の遅れを呈した児(disproportionate language impairment:DLI)に対して、音韻処理過程を考慮した言語指導を実施した 2 例について報告した。いずれも知的な遅れなく、また人工内耳装用下での聴取閾値も 20 − 30 dBSPL で良好な反応を示していたが、言語発達では 3 歳以上の遅れを呈していた。両症例とも非語の復唱で著しい困難さを呈しており、音韻認識の障害の合併を推定した。種村の既報をベースにした音韻認識をターゲットにした言語指導を行い、それぞれ指導後の 1 年間で順調な言語発達の伸びがみられた。音韻障害に起因する DLI 児に対しては、病態に応じた言語指導が有効である可能性が示された。
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 前田 幸英 假谷 伸 大道 亮太郎 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.131-136, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
参考文献数
13

2012年4月難聴遺伝子検査は保険収載され, 現在19遺伝子154変異の検索が行われている. 難聴遺伝子検査は, 聴力型や聴力予後, 随伴症状の予測, 難聴の進行予防といった情報が得られる可能性があるため, 診断や介入, フォローアップを行う上での有用性は高い. 今回遺伝子検査で複数の難聴遺伝子ヴァリアントが検出された症例を経験した. 検索可能な遺伝子数が増加することにより, 診断率の向上が見込める一方で, 複数の遺伝子ヴァリアントが検出され, 結果の解釈に難渋する例も増えることが推測される. 臨床情報との照らし合わせや家族の遺伝子検査も検討し, 患者, 家族が理解, 受容できるように遺伝カウンセリングを行う必要がある.
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 福島 邦博 前田 幸英 假谷 伸 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1258-1265, 2018
被引用文献数
2

<p> 新生児聴覚スクリーニング (以下 NHS) を全例公費で実施した場合と, 全例実施しなかった場合で, NHS および要精密検査例を含めた難聴児の診断にかかる費用, その後に必要となる教育, 福祉, 補聴等にかかる公的費用について岡山県のデータをもとに試算し, NHS の費用対効果について検討を行った. 義務教育機関については NHS 実施例の方が非実施例よりも地域の公立学校 (難聴学級, 支援学級を含む) 進学率は7.6%高かった. また NHS 実施例の方が特別児童扶養手当受給開始は4.3カ月早く, 障害児福祉手当受給率は8.8%低く, 人工内耳装用率は6.9%高かった. NHS と精査, 教育, 福祉, 補聴にかかる公的費用は, 年間出生数16,000人の自治体を想定すると, NHSを実施した場合では795,939,526円, 非実施では807,593,497円であり, NHS を実施した方が11,653,971円低く, NHS を全額公費負担にしたとしても償還できる可能性が高いという結果であった. また NHS と以後の精査にかかる費用としては, 1段階 NHS と確認検査まで実施する2段階 NHS を比較すると, 2段階 NHS の方が経済的効率は高かった. 教育および福祉費用の軽減の背景には難聴児, 障害児の義務教育の受け入れ状況の年代による変化も関与している可能性はあり, 統計学的な限界はあるものの, NHS を全額公的助成で行う意義は十分あると考える.</p>