著者
志村 勉 山口 一郎 寺田 宙 温泉川 肇彦 牛山 明
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.160-165, 2021-05-31 (Released:2021-06-25)
参考文献数
34

東京電力福島第一原子力発電所事故の影響は大きく,事故後10年が経過した現在においても多くの課題が残されている.事故からの復興には,専門家,一般市民,政府の間で相互理解や信頼関係を構築して政策を進めることが必要とされている.福島事故により生じた放射性物質を含んだ汚染水の浄化処理が進められているが,処理後も除去できない放射性トリチウムなどの扱いが国内だけでなく世界から注目されている.本稿では,放射線影響研究から明らかにされたトリチウムの生物影響と飲食品中のトリチウムの安全管理に関する知見を整理し紹介する.さらに,福島事故後の低線量放射線被ばくによる健康リスクに関する放射線の専門家の取り組みを紹介する.科学的知見は低線量放射線リスクを考える上での根拠となり,放射線のリスクコミュニケーションに活用することが期待される.放射線の健康不安対策として,適切な情報発信をつづけることが重要である.
著者
大谷 真 牛山 明
出版者
日本動物遺伝育種学会
雑誌
動物遺伝育種研究 (ISSN:13459961)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.87-96, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
39
被引用文献数
1
著者
稲葉 洋平 牛山 明
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.144-152, 2020-05-29 (Released:2020-06-27)
参考文献数
27

2020年 4 月から完全施行された改正健康増進法は,望まない受動喫煙をなくすために施設の類型・場所ごとに対策を実施することで対応している.しかし,加熱式たばこは経過措置として,飲食可能な喫煙室での使用が認められている.その理由として加熱式たばこは日本で販売が開始されてから期間も短く,喫煙者の健康影響,受動喫煙に関しても科学的な根拠の蓄積が少ない状況が上げられる.この加熱式たばこは,加工されたたばこ葉を携帯型の装置で加熱することによって発生する煙(エアロゾル)を吸引するたばこ製品である.このたばこ製品は,燃焼を伴わないために紙巻たばこから発生する有害化学物質の発生量を抑制する.2014年に販売開始されたIQOSをはじめとする加熱式たばこの主流煙(エアロゾル)は,燃焼由来の有害化学物質が90%近く削減されている.しかし,低減されていない有害化学物質も存在している.特に加熱式たばこのエアロゾルの有害化学物質の数はそれほど低減されていないため,加熱式たばこを使用する限りは化学物質の複合曝露は継続されている.依存物質のニコチンは,加熱式たばこと紙巻たばこは同等の含有量が報告されており,加熱式たばこ喫煙者の禁煙は望めない.一方で,加熱式たばこ喫煙者について健康影響評価をまとめたところ,紙巻たばこから加熱式たばこへ変更することによって有害化学物質のバイオマーカー量は90%近く低減されている成分と,50%程度の削減にとどまるバイオマーカーも確認された.さらに,健康影響を指標とするバイオマーカーについては,削減されているという報告と統計的に有意差が認められないといった報告があった.これまでの研究成果から,加熱式たばこの使用によって有害化学物質の曝露量の低減は確認されているものの,健康影響の改善までは確定していない.現在,加熱式たばこに関する研究報告は,たばこ産業からの報告が多くされている.公衆衛生機関や中立的な立場の研究者から加熱式たばこの長期的な利用による健康影響に関する研究報告が積み上げていくことが急務である.
著者
牛山 明
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.224-232, 2023-08-31 (Released:2023-09-21)
参考文献数
28

我が国においてはデジタルトランスフォーメーションがうたわれているが,その実現においては高速大容量の通信が可能な技術が必要である.その中でも無線電波を使用した通信は重要な基盤といえよう.我が国では2020年に高速かつ大容量の通信が可能な第5世代の通信規格(5G)が導入されて,現在全国に展開されつつある.5G通信は第4世代よりもより高い周波数帯(6GHz帯,28GHz帯)を利用することで通信速度が第4世代より高速化され,その利点により自動車の自動運転技術,遠隔医療(遠隔手術)などの技術も導入される予定であり,私達の生活をさらに豊かにする可能性を秘めている.無線通信をする際には,当然ながら電波を利用することになる.また電力設備からの超低周波電磁波,テレビ・ラジオ放送による高周波電波も環境中での電磁環境を形成している.近年ではIH調理器の普及や,電気の充電のための無線電力伝送の実用化がみられるがいずれも電波の新しい利用形態である.これらの技術革新は私達の生活環境がますます電波や電磁環境によって溢れることを意味するため,市民の間にはこれらの電波が健康に影響を与えることに対する不安も一定程度存在する.一方で,科学的な根拠に基づき,生活環境中の電波の強さは管理されている実態もある.本稿では電磁環境の健康影響について現在の科学的根拠を整理し,電磁環境の健康に対するリスクを概説する.
著者
牛山 明
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

インフルエンザは感染力が強く、毎年多くの感染者を出し、その社会的影響力は大きい。例年同時期に流行が始まる以上、その季節性変化がウイルスおよび感染を受ける側の生体に対しどのような影響を与えているのかを研究・調査する必要がある。本研究は疫学的研究を基に組織学的研究、分子生物学的研究によりインフルエンザの流行メカニズムの一部を明らかにするものである。本研究課題の成果により流行メカニズムを知ることで新たな対策を立てる基礎的知見を提供する。
著者
稲葉 洋平 内山 茂久 戸次 加奈江 牛山 明
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】リトルシガーは葉巻であるが、その外観、使用法は紙巻たばことほぼ変わらないたばこ製品である。リトルシガーは、2019年から市場に多く投入されている。この一因として、シガー(葉巻)は、紙巻たばこよりもたばこ税が低く、20本入りの1箱の価格が400円程度となっている。紙巻たばこが1箱500円程度であることを考えると安価な紙巻たばこ製品と考えられる。現在、国内で販売されているリトルシガーの主流煙に含まれる化学物質量は、公表されていない。そこで、本研究では、リトルシガー主流煙のニコチン、一酸化炭素、タール、たばこ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の分析を目的とした。【方法】測定対象のたばこ製品は、echoとわかばの紙巻たばこ、リトルシガーとした。さらに数銘柄のリトルシガーを対象とした。主流煙捕集の喫煙法は、紙巻たばこ外箱表示に採用されているISO法とヒトの喫煙行動に近いHCI法の2種類を採用した。リトルシガーと紙巻たばこの主流煙は、自動喫煙装置に設置したガラス繊維フィルターに捕集し、振とう抽出後、GC/FIDへ供しニコチンの分析を行った。一酸化炭素、TSNAsに関してもWHO TobLabNetが定めた標準作業手順書に基づいて分析を行った。【結果及び考察】ISO法で捕集した主流煙のニコチン量(mg/cigarette)は、紙巻たばこのechoとわかばが0.96と1.33となり、リトルシガーのechoとわかばが1.08と1.53となった。リトルシガーで上昇しているのが一酸化炭素(mg/cigarette)で、echoが13.2から18.3、わかばが16.4から24.5へ上昇していた。一方で、たばこ特異的ニトロソアミン(TSNAs)は低減されていた。リトルシガーの喫煙者は、紙巻たばこと同様の喫煙行動となると予想される。ヒトの喫煙行動に近いHCI法で捕集した主流煙の化学物質量は、ISO法より高くなることも確認された。リトルシガーが安価なたばこ製品としての定着によって、たばこ対策が後退することが懸念される。また、リトルシガーはタール量も高いことから、燃焼によって発生する多環芳香族炭化水素、カルボニル類、揮発性有機化合物の分析を継続的に進めていく計画である。
著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 牛山 明
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.138-143, 2020-05-29 (Released:2020-06-27)
参考文献数
24

喫煙による健康被害は,有害成分を含む喫煙者本人の主流煙による一次喫煙をはじめ,喫煙時に発生する副流煙や喫煙者が吐き出す呼気中のたばこ煙(呼出煙)による受動喫煙(second-hand smoke),そして洋服や部屋に吸着したたばこ煙(残留たばこ煙)による三次喫煙(third-hand smoke)が知られている.特に三次喫煙については,受動喫煙と比べると一般的な認知度は低く,その有害性についても現時点で人への有害性は立証されていないものの,室内に吸着する残留たばこ煙には,揮発性が高く悪臭を伴うピリジン類をはじめ,揮発性の低いニコチンやたばこ特異的ニトロソアミン類(TSNAs)等多岐に渡る成分が含まれている.三次喫煙は,室内におけるこうした成分に,空気やハウスダストを介して非意図的に曝露を受けることであり,受動喫煙と同様,特に感受性の高い乳幼児や幼児期の子供への健康影響には注意を払う必要がある.我が国で2020年 4 月 1 日から全面施行された改正健康増進法の中では,受動喫煙対策の強化が主な目的にもされていることから,今後,室内での喫煙機会は大幅に減少していくものと推定される.しかしながら,喫煙可能な場所も未だ半数以上を占めており,これまでの実証実験による報告からも,従来の喫煙場所を禁煙区域に変更するだけでは,残留たばこ煙による三次喫煙の影響を完全に除くことは困難である.さらに,近年普及する新型たばこにおける健康影響や環境汚染への影響については未解明の問題も多く残されていることから,喫煙による室内汚染問題への対応として,今後は,長年の課題である受動喫煙をはじめ,三次喫煙も含めた微量なたばこ煙成分に対する高性能な分析技術と生物学的な影響評価手法を確立することで,喫煙の有害性に関する基礎的な情報を得る必要がある.さらに,短期及び長期に亘る実際の人への健康影響を明らかにしていく上でも公衆衛生分野における継続した疫学的調査研究の実施が必要である.
著者
欅田 尚樹 牛山 明 TIN・TIN Win・shwe
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

家庭用IH 調理機器が普及する中、その使用における電磁界曝露の生 体影響を懸念する声がある。ここでは、Merritt type coil を用いた成獣マウスあるいは妊娠 マウスへの電磁界曝露を行い、種々の生体影響評価を行った。その結果、国際非電離放射線防 護委員会が定める国際ガイドラインを越える磁界強度で電磁界曝露を行った際に、何らかの中枢神経系へのリバーシブルな刺激作用を有する可能性が示唆されたが、器質的な変化は観察さ れなかった。