著者
志村 勉 山口 一郎 寺田 宙 温泉川 肇彦 牛山 明
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.160-165, 2021-05-31 (Released:2021-06-25)
参考文献数
34

東京電力福島第一原子力発電所事故の影響は大きく,事故後10年が経過した現在においても多くの課題が残されている.事故からの復興には,専門家,一般市民,政府の間で相互理解や信頼関係を構築して政策を進めることが必要とされている.福島事故により生じた放射性物質を含んだ汚染水の浄化処理が進められているが,処理後も除去できない放射性トリチウムなどの扱いが国内だけでなく世界から注目されている.本稿では,放射線影響研究から明らかにされたトリチウムの生物影響と飲食品中のトリチウムの安全管理に関する知見を整理し紹介する.さらに,福島事故後の低線量放射線被ばくによる健康リスクに関する放射線の専門家の取り組みを紹介する.科学的知見は低線量放射線リスクを考える上での根拠となり,放射線のリスクコミュニケーションに活用することが期待される.放射線の健康不安対策として,適切な情報発信をつづけることが重要である.
著者
小林 淳 池田 啓一 寺田 宙 望月 眞理子 杉山 英男
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.281-285, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
23

For human safety, we investigated how metals (aluminum, cadmium, chromium, copper, lead, manganese and tin) are leaked from fused slags by contact with acid rain and basic concrete effluent. We obtained 13 fused slags prepared from general garbage. Elution tests (6 hours interval in the room temperature) by using diluted nitric acid (instead of acid rain), water, and diluted potassium hydroxide (instead of basic concrete effluent) were performed. As a result, it has been understood that the elution rates are greatly different according to both the kinds of metal and slag. The influence of aluminum was especially large. The elution concentrations of aluminum from the slags were ppm-level in alkaline. On the other metals, the elution concentrations were lower than that of aluminum. The elution pattern also differed from aluminum, and it seemed to influence the character of the metals (dissolubility in alkaline and ability to be an oxyanion).
著者
太田 智子 松崎 浩之 児玉 浩子 寺田 宙 野村 恭子 太田 裕二 王 暁水 飯田 素代 日比野 有希
出版者
公益財団法人日本分析センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

東京電力福島第一原子力発電所事故後、国民の間に放射性物質への不安が広がった。中でも放射性ヨウ素については甲状腺がんとの因果関係が心配され、特に感受性の高い乳児についての影響が懸念されている。本研究では乳児の主たる栄養源の母乳を対象に、数種類存在する放射性ヨウ素のうち半減期が最も長いヨウ素129(1570万年)の分析を実施した。母乳は脂肪分が多いため分析することが難しく、母乳中のヨウ素129を分析した例はない。今回、母乳中のヨウ素を分析する手法を確立し、健康な母親から採取した母乳中のヨウ素129を分析しバックグラウンドを把握すると共に、データを基に乳児の母乳摂取による内部被ばく線量評価を試みた。
著者
加藤 文男 寺田 宙 柴田 尚 杉山 英男 桑原 千雅子
出版者
東邦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1.キノコ生息土壌の調査:富士山麓のキノコ生息土壌を採取し、土壌pH,^<137>Cs, Cs, K量を測定した。土壌pHは3.5-5.5と大きく酸性に偏っていた。2.キノコ生息土壌に生息する微生物のCs感受性:13の土壌サンプルについて、生息微生物のCs感受性を調べ、一般に細菌のCs感受性は低く、放線菌は感受性が高いという結果を得た。三宅島で採集した土壌より200mMCsで増殖可能な高度耐性株Streptomyces sp TOHO-2を分離した。3.分離培地のpHの影響:分離培地のpHを5,6,7に調製し、分離される細菌、放線菌の数を測定した.細菌数はpH6で最も多く、pH7の1.6倍、pH5ではpH7の1.15倍であった。放線菌数はpHの低下と共に菌数が減少し、pH7のおよそ50%であった。4,キノコ生息土壌より分離した放線菌のCs取込:これらの菌株に蓄積されるCs量は20mg/g dry wt mycelia程度であった。K202株について菌体内Cs, K量および増殖についてpH5と7で比較すると、Csによる増殖阻害はpH7の方で強く現れ、Cs蓄積量の増加とK量の減少もpH7の方が強く現れた。5.チャンネル阻害剤4-aminopyridine(4-AP)の影響:4-AP存在下でのCs取込量の変化を調べた。4-APによる阻害作用はpH7で強く認められたが、pH5では4-APによるK量の減少は認められたが、Cs量は増加し、増殖にも影響は認められなかった。6.キノコ生息土壌より分離した細菌のCs取込:生息環境に近いpH5でCsによる増殖抑制が強く見られた。また、細胞内Cs蓄積量は調べたいずれの菌株でも5mg/g dry wt前後であり、放線菌の1/4程度であった。7.細胞内Csの局在化:土壌分離放線菌、細菌、いずれの場合も低真空SEMで輝点が観察され、輝点部分にはP. OとともにCsが認められた。輝点以外の領域には、Csのシグナルは観察されず、局在化による毒性の軽減が示唆された。8.ポリリン酸の関与:^<31>P-NMRによりS.lividanns TK24にポリリン酸が存在する事を確認した。ポリリン酸合成に関わるpolyphosphate kinaseをコードする遺伝子ppkの破壊を試みている。
著者
山口 一郎 浅見 真理 寺田 宙 志村 勉 杉山 英男 欅田 尚樹
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.471-486, 2020-12-25 (Released:2021-01-23)
参考文献数
48

原子力災害は社会に対して広範なリスク管理を求める事態をもたらす.このリスク管理において混乱も生じた.このうち飲料水の安全は生活の根幹を支えるものであり,明確な説明が求められる.そこで,飲料水中の放射性物質に関する国内外の指標について根拠となる考え方の整理を試みた.緊急時及び平常時について,国内の各種指標と国外の指標(国際機関,欧州連合,米国)について検討を行った.東日本大震災時に発生した原子力発電所事故後に日本で用いられた指標は,国際的な考え方に基づき導入された.それぞれの指標値は,その性格や前提が異なり,値だけを比較することは適切ではなく,それぞれの指標の根拠を踏まえることが重要である.
著者
山口 一郎 寺田 宙 欅田 尚樹 高橋 邦彦
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.138-143, 2013-04

東京電力福島第一原子力発電所事故により,食品の放射線安全への懸念が国内外で高まり,そのために様々な対策が講じられた.対策の成果を評価するために,食品に由来した線量の推計が様々な方法により試みられている.ここでは,厚生労働省が公表している食品中の放射性物質のモニタリング結果に基づく線量推計例を示す.なお,事故直後から6ヶ月間の被ばく線量の評価例は,2011年10月31日に薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会放射性物質対策部会で報告されている.本稿では,その評価例に引き続くものとして,事故直後から2012年12月までの実効線量と甲状腺の等価線量を積算した評価例を示す.年齢階級別に東電福島原発事故後の食品中の放射性セシウムと放射性ヨウ素に由来した預託実効線量を推計した結果,中央値が最も高かったのは13-18歳で2012年12月20日までの積算で0.19mSvであった.95%タイル値が最も高かったのは1-6歳で0.33mSvであった.このような食品からの線量の事後的な推計は,ある集団や個人の放射線リスクの推計や放射線防護対策の評価に役立てることができる.また,今後の食品のリスク管理のあり方の検討にも役立てることができるだろう.
著者
三浦 勉 寺田 宙 太田 智子
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

海産物中のPb-210/Po-210測定の信頼性向上を目指した。金属鉛から調製したPo-210標準液、海産魚乾燥粉末を用いて既開発(Miura et al)のPb-210/Po-210分析法を評価した結果、全分離操作で90%以上のPo回収率が得られ、高い信頼性をもつことが実証できた。よって本分析法を基に標準分析作業手順書を作成した。予備実験で選定したかつお粉末といりこ粉末から調製した共同実験用試料を用いて、3機関が参加する共同実験を実施した。その結果、国内分析機関によるPb-210/Po-210測定値に有意な差は見られず、標準分析手順書の妥当性と国内分析機関の技術レベルが高いことが実証できた。