著者
吉岡 奈月 井上 瑶子 小島 隆浩 犬尾 千聡
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.392-397, 2019-05-25

はじめに 近年,新生児のスキンケア方法について,さまざまな方法が検討されている1−3)。アレルギー疾患のハイリスク群ではない一般集団の1カ月健診において,皮膚の異常所見を4割近く認めたこと3)や,新生児の皮膚ケアについて不安を抱いている母親が約3割いたこと4)が報告されており,新生児のスキンケア方法は改善が望まれる状況にある。しかし標準的なスキンケアの方法は定まっておらず,方法の選択は各施設に委ねられているのが現状である5)。 新生児の従来の一般的な沐浴方法は,児を片手で保持しながらもう一方の手で洗浄し,桶に汲んだお湯で石鹸を流すといった方法である6−9)。具体的には,まず沐浴槽にお湯をため児に沐浴布をかけ,頸部と臀部を保持し湯の中に入れる。仰臥位の姿勢を片手で保持し,もう片手に洗浄剤をつけて顔,頭髪,胸腹部,四肢の順に洗う。次に腹臥位の姿勢にし,背部を洗い,再度仰臥位にしたら陰部を洗う。最後に児を沐浴槽より持ち上げてかけ湯をするといった方法である。 新生児の沐浴では,頸部や腋窩などの皮膚の重なり合う部分は,汚れや石鹸成分が落ちにくく皮疹の原因となりやすいため十分に洗い流す必要があると言われている7)。しかし,従来の沐浴方法のように沐浴槽につかりながら洗浄する場合,片手で児を洗浄するため皮膚の重なり合う部分を丁寧に洗浄することは困難である。 また産後入院中の母親に対する調査では,沐浴方法について不安を感じる初産婦は33%,経産婦は25%であった10)。母親にとって従来の沐浴方法のように,片手で保持し,もう一方の手で洗浄する方法は容易ではない。沐浴指導内容を検討する際には,児の安全性や養育者にとって難しい手技ではないという視点も重要である。 この30年間のわが国の入浴に関する環境は大きく変化している。家庭のシャワーの普及率は1985年に70%,2005年にはほぼ100%となり11),どの家庭でも新生児の沐浴にシャワーを利用することが可能になった。かけ湯よりシャワーで洗浄剤を流す方が退院後の生活環境に類似しており,手順が少なく実施しやすいと考えられる。 アレルギー疾患のハイリスク児に対して保湿剤を毎日塗布することでアトピー性皮膚炎の症状出現率が有意に低下したことをHorimukaiら12),Simpsonら13)が相次いで報告した。またヨーロッパの正常新生児のスキンケアの勧告14)では,適切な組成の保湿剤は皮膚バリア機能を良好に保つため,一般集団の新生児に対しても保湿剤の塗布を推奨している。 以上より,養育者が不安なく丁寧に洗い,洗浄剤を十分に流し,保湿剤塗布をするスキンケアが,1カ月健診における皮膚状態に良好な影響を与えるのではないかと考えた。 A病院ではこのような背景を元に,2015年から児を寝かせた状態で両手を用いて洗い,洗浄成分をシャワーで流し,保湿剤塗布を行う沐浴指導内容に変更した。そこで,1カ月健診における皮膚異常の有症率を変更前と変更後で比較し検討した。
著者
犬尾 千聡 宇理須 厚雄
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

牛乳アレルギー患者に対して、牛乳を摂取して寛解を獲得する免疫療法の有用性が数多く報告されてきた。しかし、牛乳を用いた経口免疫治療中は皮膚症状、消化器症状、呼吸症状が頻繁に誘発される。本研究では、ペプチドミルクを使った免疫療法の安全性と効果を検討した。重症の牛乳アレルギー患者での検討では、血液中の末梢血好塩基球活性化はペプチドミルクが普通ミルクで低く、二重盲検食物負荷試験では、普通ミルクよりペプチドミルクの方が摂取可能量は多かった。ペプチドミルクを用いた経口免疫療法を行い、8割の患者で摂取可能量が増加したことを確認した。
著者
川田 康介 高増 哲也 犬尾 千聡 相川 博之 栗原 和幸
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.1403-1407, 2007
被引用文献数
7

症例は15歳の男児.平成12年(小学4年時)から外出時に顔面の発赤腫脹,水様性鼻汁を認めるようになった.平成15年(中学1年時),野球部に入部し,グランドでの練習中に喉が苦しい,息がしづらい,運動が続けられない,顔が腫れる,などの症状を経験するようになり,某病院にて喘息と診断され吸入ステロイド薬などの処方を受けたが改善しなかった.症状は夏に悪化し,冬には消失していた.平成16年12月,診断の再考目的で近医より当科を紹介された.肺機能(流量-量曲線)は正常で,ヒスタミンおよびアセチルコリン吸入試験は10000μg/dlまで陰性,運動負荷試験も陰性であった.血液検査で特異IgEは,カモガヤ56.2UA/ml,ハルガヤ48.2UA/ml,オオアワガエリ47.2UA/mlなどイネ科花粉が強陽性であった.以上より,喘息を合併しないイネ科花粉症と診断した.抗ヒスタミン薬内服とステロイド点鼻薬で部分的な症状の改善を認めた.平成18年3月より,花粉(オーツ麦,スズメノチャヒキ,スギ,ブタクサ)治療ワクチンを用いた急速免疫療法を開始し,良好な結果を得ている.