著者
田中 純一
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.83-92, 2014-02

欧州原子核研究機構(CERN)においてATLAS実験とCMS実験は2012年7月4日に「ヒッグス粒子らしい新粒子を発見した」として合同セミナー及び記者会見を行った.その粒子の性質については十分理解できていないことから学術的な正確さを期すため「らしい」という言葉を補ったが,この研究に携わった多くの研究者にとって約50年にわたって探し続けてきた「ヒッグス粒子」発見の歴史的な発表であった.素粒子の標準理論には12種類のフェルミオン(クォークとレプトン),4種類のゲージボソン,そして1種類のヒッグス粒子,合計17種類の素粒子が存在する.この17個の素粒子によりこの世界の物質とその間の相互作用が非常に上手く記述できることがこれまでの数々の実験から示されてきた.しかしながら,この17個の素粒子の中でヒッグス粒子は唯一その存在が実験で確認されていなかった粒子で,他の素粒子に「質量を与える」メカニズムの証拠となる素粒子である.そもそもゲージ不変性を基本原理としている標準理論では素粒子は一般に質量を持つことができない.そのためW/Zボソンや電子等の素粒子が質量を持っているという観測事実は標準理論では説明できないように思えるが,1964年にピーター・ヒッグスらは,標準理論に自発的対称性の破れを応用することでローカルゲージ不変性を保ちつつ,素粒子に質量を与えることに成功した.これがヒッグス機構であり,その副産物としてヒッグス粒子と呼ばれるスカラー粒子が予言された.したがって,素粒子の質量の起源であるヒッグス粒子を発見することは標準理論を完成させる上で必要不可欠であり,ある意味標準理論において残された最後の,そして最重要研究テーマであった.2012年7月,標準理論のヒッグス粒子探索の研究においてATLAS実験は統計的有意度5.9σ,CMS実験は5.0σの事象超過を質量126GeV付近に発見した.先に述べたようにこの時点では「らしい」という言葉を補っていたが,2012年12月まで取得したすべてのデータを使って研究を進めた結果,2013年3月に結合定数の強さが標準理論と無矛盾であることやスピン・パリティが0^+であるという強い示唆を得たため,この新粒子は「らしい」がとれて晴れて"a Higgs boson"となった.その根拠となる様々な結果は本文に譲って,ここでは3つの結果を挙げる.標準理論のインプットパラメータの一つであるヒッグス粒子の質量はATLAS実験125.5±0.2(stat.)^<+0.5>_<-0.6>(syst.)GeV,CMS実験125.7±0.3(stat.)±0.3(syst.)GeVである.標準理論のヒッグス粒子に対する信号の強さ(標準理論であれば1となるパラメータ)はATLAS実験1.33^<+0.21>_<-0.18>(125.5GeV),CMS実験0.80±0.14(125.7GeV)で標準理論のヒッグス粒子の信号と無矛盾である.また,この粒子のスピン・パリティについては0^+に対して0^-,1^±,2^+のモデルは97.8%CL(以上)で排除した.このヒッグス粒子が標準理論のヒッグス粒子かどうかをより精度良く見極めるためには更にデータが必要である.標準理論の素晴らしさをより一層実感するか,それとも標準理論を超えた物理を垣間見るか,LHC実験の再開が非常に楽しみである.
著者
大山 裕太 大井川 秀聡 大貫 隆広 指田 涼平 木倉 亮太 井上 雄貴 中里 一郎 廣川 佑 川口 愛 高屋 善德 藤原 廉 朝見 正宏 後藤 芳明 石川 久 宇野 健志 田中 純一 大山 健一 小野田 恵介 山根 文孝 安心院 康彦 三宅 康史 坂本 哲也 松野 彰 辛 正廣
出版者
一般社団法人 日本脳神経外傷学会
雑誌
神経外傷 (ISSN:24343900)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.44-49, 2021-12-20 (Released:2021-12-20)
参考文献数
11

Background: We experienced a case of head pene­trating injury caused by a crossbow that was initially treated in the Hybrid Emergency Room (ER).Case: A 25–year–old male who lost conscious­ness and was collapsed in his room with penetrating crossbow in his head, was transported to our hospital. After routine checkups, the pa­tient was immediately move to the Hybrid ER. A head CT and digital subtraction angio­graphy (DSA) was performed and no obvious injury in the intracranial major vessels was confirmed. The crossbow was safely removed there. The patient was then moved to the central operating room and underwent a relevant sur­gical procedure. Postoperative diffusion–weighted MRI showed a high–signal area in the corpus callosum and disorders of con­sciousness continued for a while. The corpus callosum lesion was determined to be cytotoxic lesion and the patient was followed up. His conscious state gradually improved and the ab­normal signal in the corpus callosum disappeared on the 40th hospital day. On the 91st hospital day, the patient was transferred for additional rehabilitation.Conclusion: A Hybrid ER is one of a surgical unit installing CT and DSA. The ability of multi­modal medical treatment is useful to traumatic brain injury, especially penetrating head injury for which we often need to carry out flexible surgical procedure.
著者
田中 純一
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会誌 (ISSN:13405551)
巻号頁・発行日
vol.140, no.5, pp.291-292, 2020-05-01 (Released:2020-05-01)
参考文献数
4

1.はじめに我が国の社会課題の一つである少子高齢化に伴う労働力不足は,喫緊の課題である。我が国産業の競争力強化のためには,IoTや人工知能などを活用した「生産性革命」が必要である(1)。この「生産性革命」を実現する手段として,産業分野においてIoTを活用した生産効率向上や,
著者
梅原 一浩 小林 恒 山崎 尚之 夏堀 礼二 田中 純一 佐藤 雄大 佐々木 智美 木村 博人
出版者
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
雑誌
日本口腔インプラント学会誌 (ISSN:09146695)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.49-55, 2018

<p>若年者に対するインプラント治療の適応や埋入方法は,個々の成長と発育に左右されるため,慎重な診断と成長予測に基づいた治療計画が必須となる.今回,16歳女性の上顎前歯部にインプラント治療を行い,20年以上の長期に渡って機能的・審美的に満足な結果が得られたので報告する.</p><p>本症例では,20年の間にインプラント上部構造と隣在する中切歯切端との間に約2.1mmの差が生じた.このような垂直的位置変化には,顎骨の成長,第三大臼歯の萌出,永久歯列の経年的変化など種々の要因が影響するものと思われた.確かに,成長が終了するのを待ってからインプラント治療を行う方が望ましいと思われるが,先天性欠損や外傷による少数歯欠損などの理由から若年者にインプラント治療を求められることもある.そのような場合は,各々の患者の成長曲線,骨年齢,第三大臼歯の萌出力などによる影響やセファログラムによる矯正的分析を考慮しなければならない.また,隣在歯の位置を確認した後,インプラント体を口蓋側寄りとし,深くなりすぎないよう慎重に埋入することも重要である.</p>