著者
曽我 洋二 黒川 学 衣川 広美 内野 栄子 白井 千香 河上 靖登
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.269-276, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
16

目的 病原体サーベイランスが経口生ポリオワクチン接種後の便中ポリオウイルスの保有状況を知る一指標として有用であるかを検討し,その現状を分析すること。方法 神戸市における報告例:2000年 1 月 1 日から2010年 6 月30日の10年 6 か月間に,便検体よりポリオウイルスが検出された例を抽出し,接種からウイルス検出までの期間,年齢,性別について検討する。  全国における報告例:2000年 1 月 1 日から2010年12月31日の11年間に,全国感染症サーベイランスの病原体検出情報システムに登録された糞便検体からポリオウイルスの検出報告があった例を抽出し,検出されたウイルスの血清型,年齢,性別を分析し,年齢とポリオウイルスの血清型別の関連についてさらに検討する。結果 神戸市における報告例:10年 6 か月間に,31症例33件の便からのポリオウイルス検出があった。年齢は 2 歳以下が96.8%を占め,性別では,女性が54.8%を占めていた。ポリオウイルスの検出は,ワクチン集団接種期間中および,接種後 2 か月間に限られていた。  全国における報告例:11年間に,全国感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報システムに,852件の報告があった。年齢は 2 歳以下が97.3%を占め,性別では女性が54.6%を占めていた。ポリオウイルスの血清型の分布を年齢別にみると 0 歳代の群では 1 型,2 型,3 型がそれぞれ33.2%,44.8%,22.0%,1 歳代の群では22.8%,27.6%,49.6%と 1 歳を境に排泄されるポリオウイルスの血清型の分布に違いがみられた。1 歳以上の群では 1 歳未満の群に比べ,便からの 3 型の検出が有意に高かった(オッズ比3.4,95%信頼区間2.5–4.6)。結論 神戸市および全国の病原体サーベイランスのデータは,経口生ポリオワクチン接種後の便中ウイルス検出に関する知見と矛盾していなかった。病原体サーベイランスは比較的幅広い対象から集積されていることから,その結果を地域における経口生ポリオワクチン接種後の便中ポリオ保有状況の間接的な指標として捉えることができる。生ワクチン接種者からの二次感染の現状を重く受け止めるべきであるとともに,将来の不活化ワクチン移行に向けサーベイランスの精度の向上等が期待される。
著者
清水 基之 田中 英夫 高橋 佑紀 古賀 義孝 瀧口 俊一 大木元 繁 稲葉 静代 松岡 裕之 宮島 有果 高木 剛 入江 ふじこ 伴場 啓人 吉見 富洋 鈴木 智之 荒木 勇雄 白井 千香 松本 小百合 柴田 敏之 永井 仁美 藤田 利枝 緒方 剛
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.271-277, 2023-08-31 (Released:2023-09-21)
参考文献数
22

目的:日本の新型コロナウイルス第6波オミクロン株陽性者の致命率を算出し,これを第5波デルタ株陽性者と比較する.方法:2022年1月に7県3中核市3保健所で新型コロナウイルス感染症と診断され届出られた40歳以上の21,821人を,当時の国内での変異型流行状況からオミクロン株陽性者とみなし,対象者とした.死亡事実の把握は,感染症法に基づく死亡届によるpassive follow up法を用いた.2021年8月~9月にCOVID-19と診断された16,320人を当時の国内での変異株流行状況からデルタ株陽性者とみなし,同じ方法で算出した致命率と比較した.結果:オミクロン株陽性者の30日致命率は,40歳代0.026%(95%信頼区間:0.00%~0.061%),50歳代0.021%(0.00%~0.061%),60歳代0.14%(0.00%~0.27%),70歳代0.74%(0.37%~1.12%),80歳代2.77%(1.84%~3.70%),90歳代以上5.18%(3.38%~6.99%)であった.デルタ株陽性者の致命率との年齢階級別比は,0.21,0.079,0.18,0.36,0.49,0.59となり,40歳代から80歳代のオミクロン株陽性者の30日致命率は,デルタ株陽性者のそれに比べて有意に低かった.また,2020年の40歳以上の総人口を基準人口とした両株の陽性者における年齢調整致命率比は0.42(95%信頼区間:0.40-0.45)と,オミクロン株陽性者の致命率が有意に低値を示した.結論:日本の50歳以上90歳未満のCOVID-19第6波オミクロン株陽性者の致命率は,第5波デルタ株陽性者に比べて有意に低値であった.
著者
大原 賢了 鈴木 マリ子 新潟 尚子 白井 千香 井戸口 泰子 川平 茉智子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2020-039-B, (Released:2020-12-19)

目的:病気を理由とした退職(転職)は,病気の種類や障害の程度,職場の支援など,様々な要因の影響を受ける.指定難病を理由とした退職(転職)防止のため,介入すべき要因を明らかにする.対象と方法:2019年度(7~12月)に枚方市保健所に医療費助成の更新申請を行った全指定難病患者3,210人にアンケート調査を行い,この内,発病時に正社員,契約社員・派遣社員,パート・アルバイトであった20~59歳の539人を分析対象とした.指定難病を理由とした退職(転職)をイベントの発生,調査時に指定難病の理由で退職(転職)していない者を打ち切り例として,発病後就労期間別の退職(転職)者の割合の推移をKaplan-Meier法により求めた.また,対象者の性,発病時年齢,疾患群,日常生活動作(ADL),発病時雇用形態,発病時の会社で経験した支援内容(勤務時間の短縮,時間単位の休暇の取得など),発病時の会社で病気治療に関する解決できない困りごとといった要因と指定難病を理由とした退職との関係について,Coxの比例ハザードモデルを用いて検討を行った.結果:指定難病を理由とした退職(転職)者の割合は19.4%であった.指定難病を理由とした退職(転職)に有意につながりやすい独立した要因は,発病時年齢50歳代(30歳代基準,HR=2.55,95%CI(1.21–5.37)),外出介助必要以上(一人で外出可能基準,2.31(1.13–4.71)),契約社員・派遣社員(正社員基準,2.66(1.20–5.89)),解決できない困りごとあり(困りごとなし基準,4.15(2.43–7.09))であった.経験した会社の支援には,有意に退職(転職)防止につながる支援はなかった.結論:指定難病を理由とした退職(転職)は,発病時年齢,障害の程度,雇用形態,会社での治療上の困難の存在と有意に関連していた.会社による患者支援と退職(転職)との関連は明確では無かったが,会社での治療上の困難を減らすため,支援を拡大する必要がある.仕事と治療の両立支援は,事業者の義務ではない取組であり,支援拡大のためは事業者が取り組みやすい制度の構築が望まれる.
著者
白井 千香 内田 勝彦 清古 愛弓 藤田 利枝 上谷 かおり 木村 雅芳 武智 浩之 豊田 誠 中里 栄介 永井 仁美 矢野 亮佑 山本 長史
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.292-304, 2022-10-31 (Released:2022-11-18)
参考文献数
7

保健所は2022年 4 月時点で全国に468か所設置されており,「地域保健法(1994年)」に基づき,健康危機管理の拠点となる役割をもち,災害時や感染症対応には主体的に関わることになっている.新型コロナウイス感染症対応が始まってから,自治体はこの 2 年半,第 1 波から第 7 波の現在に至るまで,流行状況およびウイルス変異及び重症度等に応じて,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づき様々な感染症対応に模索を繰り返してきた.基本的には全国的に共通する感染症対応業務(相談,検査,発生届受理,入院調整,患者の移送,健康観察,積極的疫学調査,入院勧告や就業制限通知等)を行うが,都道府県単位で,感染症の発生状況や医療資源の違いもあり,具体的な業務内容や方法は全国一律ではなく,現実的には地域の実情により,それぞれの自治体で工夫されてきた.流行状況を振り返ると,第 1 波,第 2 波,第 3 波は全国的に行動制限を要請され,PCR検査の需要と医療体制の供給がミスマッチであった.新型コロナウイルスは変異以前の特徴として呼吸器機能を低下させる病原性を持ち,有効な薬剤やワクチンがまだ普及せず,診療可能な医療機関も不足していた.第 4 はα株で高齢者の施設内感染で医療提供が困難となり,第 5 波は東京オリンピックの後でδ株の変異ウイルスが主となり,首都圏での流行が目立った.第 6 波および第 7 波はο株が中心で感染性が高く,病原性は低いが感染者数の急増かつ膨大なため,保健所の能力を大きく上回る対応が求められた.全国的にどこの自治体でも保健所の負担軽減策について外部委託も含めて対応するようになった. 2 年半の間に厚生労働省からの通知も多く,全国保健所長会は要望や提言などの意見活動も行った.日本は自然災害の多い国であるが故に,健康危機管理として災害や感染症においては,保健所が平時から備えとしての仕組みづくりや危機発生時の対応,被害からの回復という過程において,主体となることが期待されている.新型コロナウイルス感染症対策で得た教訓を生かしパンデミックとなりうる感染症対策を地域単位で行っていくため,住民の命と健康を維持する「保健所」を,医療機関や福祉施設等と有機的に連携し,持続可能な社会の枠組みとして活かしていくことを提言する.