著者
白水 智
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

江戸時代については、巷間、人と自然が優しく共存した時代であると称揚されることが多い。しかし、実際には自然の過剰利用による資源枯渇が発生するなど、必ずしも人は自然に優しく生きていたわけではない。 「御林書上帳」という史料がある。御林とは、庶民の利用に厳しい規制がかかった幕府・大名の統制林であったが、その日常的管理は、御林守などに任命された地元住民に委ねられていた。彼らは領主の指示により、森林の状況を詳細に調べ上げた報告書を作成し、「御林書上帳」として提出した。そこには、木の種類・太さ・高さ・本数などが列記されている。歴史学研究者にとっては、解読することはできるが、ひたすら退屈な史料である。しかし林学の研究者から見ると、この帳面は、今は見ることのできない何百年も前の森林状況のデータが埋もれた宝の山であり、当時の森林環境が鮮やかに復元できる素材である。長野県林業総合センターの小山泰弘氏に信濃国北部の森林について、これらの史料を利用して復元研究を行ってもらったところ、御林の多くは直径20~30センチほどのアカマツを中心とする疎林にすぎず、豊かな緑に覆われていたわけではないことが明らかとなった。一方で、同じ地域の栄村にあった「仙道御林」は、全く様相が異なっていた。そこはナラとブナが7割を占める13.5㏊の森で、幹周2丈(6m。胸高直径2mに相当)を超える樹木が56本もあった。環境省が「巨木」とする木は幹周3m以上をいうが、それに相当する目通り9尺以上の樹木は1615本もあり、まさに現代なら天然記念物級の「巨木の森」だったのである。わずか200年前の日本にこのような森があったのは驚きであるが、逆に言えば、こうした森を当たり前のように存在させたのが日本の自然だったのであり、それが失われた原因は紛れもなく人為による伐採であった。日本の自然を考えるとき、人間活動の痕跡を大きな要因として加えることの重要性を示す重要な一例といえる。 民有林に相当する林地では、当然ながら過剰な伐採は進行し、有用樹種の枯渇を招く事態となった。北信濃の秋山地区では、スギ・クロベなどの有用な針葉樹は19世紀初頭までに多くを伐り尽くしてしまい、史料には「残るのはブナ・ナラ・トチなど雑木ばかり」と、どうでもいい無用な木ばかりになってしまったかのように記されている。それまで秋山で生産されていたのは、桶・曲物など目の通った針葉樹材を材料にした器物であったからである。しかし人は窮地に陥れば知恵を働かす。今度は材料を豊富に存在する広葉樹に転換し、木鉢・コースキ(木鋤)などの木工品作りに精を出すようになった。「使えない雑木」だったものが主たる素材になったのである。こうして新たな樹種の利用方法を編み出し、窮地を脱することができたが、「人欲は限りなし」と自ら記録に記す伐採状況であったことは間違いない。 また一方、「御林書上帳」を子細に見れば、必ずしも真実を正確に書き上げたものとはいえない部分もある。歳月を経て提出された2冊の書上帳間で、樹木の本数が全く同数に揃えられているのである。森林管理の不備を問われることを恐れて、明らかに数字を調整したと見られる。書き残された古文書は、やはり「人くさい」社会の産物でもあるのである。この「人くさい」社会の営み(政治・経済・制度・心意・習俗)を明らかにするのが、歴史学の真骨頂である。そしてこの「人くささ」を前提とした古文書の内容・文言の吟味、すなわち史料批判を通じて、史料はデータとしての意味をより明確に捉えられるようになる。
著者
松井 利博 白水 智子 坂口 貴臣 金谷 太作 寺澤 和広 川﨑 健司
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.118-123, 2018-03-15 (Released:2018-03-20)
参考文献数
18

本研究で筆者らは,硬さの違うガムを噛んだ際の咀嚼効果の検討を行った.「硬ガム」を噛むと刺激時唾液量が「軟ガム」に比べて有意に多いことが確認された.「硬ガム」の咀嚼前後で有意に唾液中の菌数が減少していることが確認された.更に「軟ガム」と「硬ガム」を比較すると,唾液中菌数の減少率に有意な差が認められた.「硬ガム」を噛んだ後の方が噛む前に比べて,認知課題中の脳活動が有意に高くなることが確認された.これらのことから,硬さの異なるガムを噛んだ際の咀嚼効果に対する新たな知見が得られた.食品としてのガムは,硬いガムの方が軟らかいガムより,刺激時の唾液分泌量を増加させ,唾液中の菌数を減少させることが示唆され,口腔衛生への寄与が期待された.硬いガムは日常生活においてQOLを維持向上させる簡便なツールとして活用される可能性が期待された.
著者
西村 和久 平田 耕造 白水 智子 竹森 利和
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.187-196, 1993-12-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
29
被引用文献数
1

体脂肪率の違いにより体幹部と末梢部の皮膚温挙動が異なるか否かを検討するために, 16名の被験者を体脂肪率により2群 (L群: 10.7±0.6%, O群: 19, 4±6.3%) に分類し, 環境温22, 28, 34℃に90分間暴露中の皮膚温, 皮膚血流量, 体重減少量, 温冷感を測定した.その結果, 体幹部の皮膚温は環境温22, 28, 34℃においてL群に比較してO群の方が有意に低かった.また, 手部皮膚温は環境温22, 28℃においてL群に比較してO群の方が有意に高く, 足部皮膚温は環境温28℃においてL群に比較してO群の方が有意に高かった.体脂肪率の増加とともに体幹部の皮膚温は低くなり, 逆に末梢部の皮膚温は高くなることが認められた.これらの結果から, 皮下脂肪により物理的に抑制された体幹部からの熱放散量は, 末梢部からの熱放散量を生理学的な血流調節反応により促進することで, 全身の熱バランスを維持していることが示唆された.
著者
白水 智
出版者
中央大学
雑誌
中央史学 (ISSN:03889440)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.198-203, 2007-03
著者
田口 洋美 佐藤 宏之 辻 誠一郎 佐々木 史郎 三浦 慎悟 高橋 満彦 原田 信男 白水 智 佐藤 宏之 辻 誠一郎 佐々木 史郎 原田 信男 白水 智 三浦 慎悟 神崎 伸夫 前中 ひろみ 高橋 満彦 岸本 誠司 中川 重年 梶 光一
出版者
東北芸術工科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究が開始された翌年平成18年度においてクマ類の多発出没が発生し、捕殺数は約5000頭、人身事故も多発した。本研究はこのような大型野生動物の大量出没に対する対策を地域住民の歴史社会的コンテクスト上に構築することを主眼とし、東日本豪雪山岳地域のツキノワグマ生息地域における狩猟システムと動物資源利用を「食べて保全」という市民運動へと展開しているドイツ連邦の実情を調査し、持続的資源利用を含む地域個体群保全管理狩猟システムの社会的位置づけとその可能性を追求した。