著者
正富 宏之 百瀬 邦和 松本 文雄 冨山 奈美 青木 則幸
出版者
専修大学北海道短期大学
雑誌
環境科学研究所報告 (ISSN:13464736)
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-26, 2004
被引用文献数
1

タンチョウ Grus japonensis が生息する北海道東部と北部において、2004年4-5月に航空機を用いて繁殖状況を調査した。その結果、従来の分布域のほかに初めて道北のサロベツ原野に1繁殖番いを認めた。調査回数が前年より少ないにもかかわらず、繁殖番い数は282番いで8番い多く、前年比増加率2.9%を保ち、地方別では根室地方で減少したが十勝・釧路両地方で増加し、特に十勝では過去最多を記録した。繁殖番い密度は現存湿原面積1km2あたり平均0.54番いで、十勝と根室両地方で1.21-1.73番と高く釧路地方が0.45番いと低いのは従前と同様であった。営巣地点の環境は77.9%が、開けた湿原地や低・高木が散在する湿地などで、ハンノキを主とする湿地樹林内営巣は全体の5.2%(N=16)であった。また、営巣地点以外のツル目撃箇所のうち11.5%は、牧草地などの農地であった。5月の家族数は76組で、雛を98羽確認したが、根室地方では繁殖活動中番いのうち家族が37.3%に過ぎず、孵化の進行が他地方より遅れていた。今年の特色として、最初の営巣等に失敗して同一行動圏内で再営巣したと思われる例が33例あり、繁殖番いの11.8%と高い割合を示したが、原因等は不明であった。
著者
持田 誠 百瀬 邦和
出版者
浦幌町立博物館
雑誌
浦幌町立博物館紀要
巻号頁・発行日
vol.20, pp.35-37, 2020-03

ウズラ Coturnix japonica はキジ科ウズラ属に分類される小型の草原性鳥類である。もともと伝統的な狩猟鳥だったが、明治中期から家禽としての飼養「養鶉」がはじまり、一般には鶏卵と並んで食用卵として広く知られている(奥山 2005)。しかし、野生のウズラは、全国的には1960年代から狩猟シーズンの捕獲羽数が減少傾向にあり、特に1980年代に激減した(木村 1991)。一方、北海道での最多捕獲年代は1960年代と、本州以南よりも遅かったが、やはり以後同じような減少傾向にあるとされる(奥山 2004)。筆者のうち百瀬は、2019年夏に、浦幌町の静内川沿いでウズラに遭遇した。浦幌での確認事例は近年きわめて少ないので、記録として報告する。
著者
正富 宏之 百瀬 邦和
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.265-279, 1989
被引用文献数
1

1.1989年4月28日から5月2日にかけて,北海道東部の十勝,釧路,根室および網走の各管内で,セスナ機と一部にヘリコプターを用いて,タンチョウ<i>Grus japonensis</i>の巣の分布と繁殖状況を空から調査した。<br>2.延べ飛行距離は約3,000km,延べ飛行時間は22時間48分で,上記調査期間の前後に,地上からの調査と聞き取り調査も併せて行い,空中調査を補完する資料を収集した。<br>3.十勝地方では8巣(全体の8.2%),釧路地方で52巣(53.1%),根室地方で38巣(38.8%),合計で1回の調査ではこれまでの最高の98巣(内3巣は地点未確認)を見つけたが,網走地方では個体&bull;巣とも発見できなかった。<br>4.巣の分布状況はこれまでと基本的に変わりなかったが,新たな地点に営巣した例が各管内で若干みられた。同時に,開発により営巣の妨害されたと思われる箇所や環境条件の思わしくないところでの営巣も見受けられた。<br>5.最も接近した2巣の間隔を地形図上で測定したところ最短で400m,最長で17,100mあり,平均では3,101mであった。また,釧路湿原では湿原周辺部と中央部では巣の密度が前者で明らかに高かった。<br>6.空中調査時に繁殖活動をしていた番い(n=93)のうち,確実に雛連れのものは1例のみで,他はすべて就巣行動を示していた。<br>7.個体群の中の繁殖個体の割合は約70%と見積られたが,推定生息個体数283羽は越冬個体数のわずか63-68%でしかなかった。南千島へ移動するほかにどこで越夏する個体が多いのか,依然としてはっきりしない。
著者
小林 さやか 梶田 学 百瀬 邦和 米田 重玄 風間 辰夫
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.214-219, 2010-03-25 (Released:2012-03-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

A specimen of Rufous-chested Flycatcher Ficedula dumetoria was collected at Shidaihama, Seiro-machi, Kitakanbara-gun, Niigata Prefecture (38°01′ N, 139°17′E) on 15 June 2002. This is the first specimen of this species collected from Japan. However, it is unlikely that this individual had flown to Japan as a wild bird.
著者
佐藤 文男 百瀬 邦和 鶴見 みや古 平岡 考 三田村 あまね 馬場 孝雄
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-21_1, 1998
被引用文献数
5 6

現在,伊豆諸島鳥島で繁殖するアホウドリは約170つがいであるが,営巣地が不安定な地形にあるため繁殖率が低下している。本研究はアホウドリの個体数回復を促進させるために,より安定した場所に新しい営巣地を作ることを目的に行なった。<br>予備調査として,1991年11月に鳥島燕崎のアホウドリ営巣地でデコイ10体と音声を用いてアホウドリを新営巣地で繁殖させるための誘致調査を行い,アホウドリがデコイと鳴き声に反応し,近づくことを確認した。引き続き,1992年4月に鳥島初寝崎の新営巣地予定地にデコイ16体を設置,音声を再生して誘致実験を4日間行なった。その結果,通常アホウドリが飛来しない地域で9個体のアホウドリをデコイ上空に飛来させるのに成功した。同年11月からはデコイ41体を継続設置した(音声なし)。<br>これらの予備調査の結果を受け,1993年3月からはデコイを50体とし,太陽電池を用いた音声システムを併用,はじめてアホウドリ5個体(重複個体を除く)を新営巣地に着地させることに成功した。1993年の繁殖期から1996年にかけて誘致調査を継続させた結果,新営巣地への着地は重複個体を除き,1994年に5個体,1995年に29個体,1996年に41個体と増加した。また,年毎のアホウドリの滞在時間を示す滞留指数は,1993年:0.31,1994年:0.86,1995年:1.64,1996年:2.37となり4年間で7.6倍になった。アホウドリの着地は1993('92~'93)年にはデコイ区域に多く見られたが(78.9%),1994年からはデコイ区域の下部一帯に広がり,デコイ区域への着地数は1993年に比較し23.1%,1995年に8.3%,1996年には31.4%と減少した。この理由として1993年10月に音声システムの一部を変更し,スピーカーの向きを変更したことが考えられた。デコイ区域内に着地したアホウドリの着地地点と着地後に歩いて近寄ったデコイの型は成鳥型が多く,亜成鳥型は少なかった。また,音声との関係ではスピーカー近くの音量の大きい地域に着地地点が集中していた。着地したアホウドリは幼鳥•亜成鳥が多く,成鳥は少なかった。成鳥の着地は1996年の調査では41個体中4個体であった。着地個体の年齢は4•5•6齢が多く,1995年2~3月の調査では60%を占めていた。<br>新営巣地では1993年に2個体によるディスプレイダンスが観察されたのを始め,1994年には複数回のダンスと夜間も滞留する個体が,1995年には特定の場所に長時間座る個体が確認された。さらに,1995年11月には6歳の雄と5歳の雌との営巣産卵が確認され,1996年2月には雛の艀化を確認,6月10日に巣立った。また,1996年11月にはデコイ地域で3つがいの巣作りが確認され,うち2つがいで産卵を確認した。初繁殖したアホウドリの年齢は,4歳11ヶ月(♀),5歳11ヶ月(♂)•6歳11ヶ月(♂)で,いずれも1990•1991年生まれであった。1990年生まれの個体は1994年1月から複数回観察されており,繁殖開始は飛来しはじめて2年から3年かかることが示唆された。これらの観察を通し、アホウドリはデコイを海上から確認して,上空に飛来し,デコイと音声の両方の効果により着地,その後,おもに音声効果によって滞留が促されていると考えられた。また,初寝崎で繁殖しているクロアシアホウドリの存在もアホウドリの定着に効果的に作用したと考えられた。