著者
座本 綾 辻 正義 川渕 貴子 魏 強 浅川 満彦 石原 智明
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.919-926, 2004-08-25
参考文献数
29
被引用文献数
4 29

日本にはこれまでに2つの新型のBabesia microti様原虫(穂別,神戸型)が見つかっていたが,北米およびユーラシア大陸の温帯地域に広く分布する北米型の原虫についての報告はなかった.本研究では北海道および東北地方を調査し北米型の探索を行った.調べた野生小型哺乳動物の総数は10種197匹で,このうち,アカネズミ,エゾヤチネズミ,ミカドネズミ,ハタネズミ,オオアシトガリネズミ,エゾトガリネズミから,血液塗沫検査およびBabesia属原虫の小サブユニットrRNA(rDNA)とβ-tubulinの両遺伝子を標的としたPCRの陽性例が見つかった.陽性個体の血液を実験動物へ接種することにより得られた23株(アカネズミ16,エゾヤチネズミ4,ミカドネズミ,ハタネズミ,オオアシトガリネズミ各1)をrDNAとβ-tubulin遺伝子の塩基配列に基づいて型別したところ,20株の穂別型に加え,3株の北米型が見つかった.しかし,日本で分離された北米型原虫のβ-tubulin遺伝子は米国分離株のそれと同一ではなく,ウエスタンブロットでの抗原性も明らかに異なっていた.以上の結果から,北米型のB. microtiはわが国にも存在するが,遺伝子性状や抗原性は米国のものとは異なること,また,野生齧歯類だけではなく食虫目の動物も,わが国のヒトバベシア症病原体のレゼルボアとなる可能性が示唆された.
著者
生田 和良 西野 佳以 今井 光信 石原 智明 関口 定美 小野 悦郎 岸 雅彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

精神疾患の原因は明らかにされていない。現在、精神分裂病やうつ病などの精神疾患の原因として遺伝因子と環境因子の両方が関わると考えられている。本研究では、精神疾患との関連性が示唆されているボルナ病ウイルス(BDV)に関する検討を行った。これまでのドイツを中心に行われた疫学調査から、BDVはウマ、ヒツジ、ウシ、ネコ、ダチョウに自然感染し、特に、BDVに感染したウマやヒツジではその一部に脳炎を引き起こすことが明らかにされている。私達は、日本においてもドイツとほぼ同じ状況でBDVがこれらの動物に蔓延していること、さらに末梢血単核球内にBDV RNAが検出しえることを報告してきた。また、同様の検出法により、精神分裂病に加え、慢性疲労症候群においてもBDVとの関連性を認めている。しかし、献血者血液においても、これらの疾患患者に比べ低率ながら、BDV血清抗体や末梢血単核球内のBDV RNA陽性例が存在することを報告した。そこで、本研究では安全な輸血用血液の供給を目的として研究を行い、以下の結果を得た。1) 健常者由来末梢血単核球への精神分裂病患者剖検脳海馬由来BDV感染により、明らかなウイルス増殖の証拠は得られなかった。2) ヒトの血清抗体ではBDV p24に対する抗体が主に検出され、ヌクレオプロテインであるp40に対する抗体検出は稀である。同様に、ヒト由来末梢血単核球内のBDV RNA検出においても、p24 mRNAが主であり、p40 mRNAは稀である。この現象を検討するため、ラットおよびスナネズミ脳内へのBDV接種実験を行った。その結果、新生仔動物への接種ではp24抗体が主として産生され、成動物への接種ではp24とともにp40に対しても上昇することが判明した。