著者
生田 和良 小野 悦郎
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

ボルナ病ウイルス(BDV)は神径細胞親和性のマイナス鎖、一本鎖のRNAウイルスで、これまでに少なくとも6遺伝子が同定されている。感染細胞には、p40(ヌクレオプロテイン)とp24(リン酸化蛋白)が主要ウイルス蛋白として検出されるが、ウイルス粒子にはp40蛋白が主要で、p24蛋白はほとんど倹出されない。BDVは、ウマに脳炎症状を引き起こすウイルスとして分離された。ヒトにおいては、精神疾患患者とBDV感染との関連性が指摘されている。私たちはこれまでに、パーキンソン病(PD)患者の剖検脳(黒質領域)において、BDV感染が高率(9例中6例)に認められることを初めて見いだした。また、陽性であった6例中の4例において、新生仔スナネズミ脳内へのBDV伝播が可能であった。本研究では、PD病態におけるBDVの関与の可能性を検討した。BDVを脳内接種した新生仔スナネズミにおいて、接種BDVの感染価依存的にBDV脳内伝播が激しく、歩行異常等の症状後、死亡するまでの時間も速く経過した。接種したBDVの感染価にかかわらず、脳幹部でBDVが検出できる時期にほぼ一致して神経症状が観察された。このBDV接種スナネズミでは、抗p40抗体はほとんど検出されずに抗p24抗体が検出された。さらに、p24遺伝子をGFAP、ヒトセロトニン受容体遺伝子プロモーターの下流に導入することにより、脳内でp24蛋白を発現するトランスジェニックマウスを作出したところ、一部の系統で神経症状(首振りや歩様異常など)が認められ、BDV発現が海馬や小脳において認められた。以上、脳内の特定部位へのBDV持続感染が成立し、p24が発現することが神経症状出現へと導く可能性が示唆された。
著者
生田 和良 朝長 啓造 小野 悦郎
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

最近の研究によりボルナ病ウイルス(BDV)がヒトの脳内に感染していることが明らかとなった。私たちは、パーキンソン病患者の剖検脳にBDVの遺伝子が高率に検出されることを報告してきた。そこで本研究では、パーキンソン病の発症とBDV感染との関連性について検討を行うことを目的として、パーキンソン病のモデル動物の確立に向けたBDVの中枢神経病原性の解明に向けた研究を行った。BDV p24蛋白質はBDVの主要抗原であり、BDVの中枢神経病原性に深く関与していると考えられている。そこで、p24蛋白質を脳内のみに発現するトランスジェニックマウス(p24-Tg)数系統を作出し、その表現型ならびに脳内におけるp24蛋白質の発現について解析を行った。その結果、線条体を含む領域にp24蛋白質を発現した数匹のp24-Tgマウスにおいて、後肢麻痺などの神経症状が観察された。また、Tgマウスは脳内栄養因子(BDNF)の発現低下が認められ、神経症状との相関性が示唆された。さらに、p24蛋白質が神経細胞の機能に与える影響を探るため、p24蛋白質と結合する宿主側因子の同定を行い、p24蛋白質が神経細胞細胞の生存維持に関与していると考えられている神経突起伸張因子(amphoterin)と特異的に結合することを明らかにした。今回の解析により、脳内におけるBDV p24蛋白質の発現が、脳内栄養因子の発現ならびに神経細胞の生存維持に影響を与えている可能性が示唆された。このことは、BDVの感染がドーパミン産生ニューロン変性の促進要因のひとつとなっている可能性も示している。今後さらに、p24蛋白質の神経細胞死への関与を詳細に解析する必要があると考えられる。
著者
喜田 宏 河岡 義裕 岡崎 克則 伊藤 寿啓 小野 悦郎 清水 悠紀臣
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

我々は鳥類,動物および人のインフルエンザウイルスの生態を研究し,得られた成績に基づいて,1968年に人の間に出現した新型インフルエンザウイルスA/HongKong/68(H3N2)株のヘマグルチニン(HA)遺伝子の導入経路を推定し,提案した。すなわち,渡り鴨の間で継持されているH3インフルエンザウイルスが中国南部で家鴨に伝播し,さらにこれが豚に感染した。豚の呼吸器にはそれまでの人の流行株でうるアジア型(H2N2)ウイルスも同時に感染し,両ウイルスの間で遺伝子再集合が起こって,A/HongKong/68株が誕生したものと結論した。今後もこのような機序による新型ウイルスの出現が予想されるので,渡り鴨と豚のインフルエンザの疫学調査と感染実験を継続することによって,新型ウイルスを予測する研究を計画した。インフルエンザウイルスの供給源として,北方から飛来する渡り水禽および中国南部の家禽集団が考えられて来た。毎年,秋に飛来する渡り鴨からウイルスが高率に分離され,春に北方に帰る鴨からはほとんど運離されないことから,北方圏の鴨の営巣地が一次のウイルス遺伝子の貯蔵庫であると推定した。そこで,本学術調査では1991年および1992年の夏に,米国アラスカ州内の異なる地域で水禽の糞便を収集し,これからウイルスの分離を試みた。マガモとオナガガモ計1913,カナダガン1646,白鳥6,シギクおよびカモメ7合計2579の糞便材料から75株のインフルエンザウイルスおよび82株のパラミクンウイルスを分離した。インフルエンザウイルスはほとんどがアラスカ中央部ユコン平原の湖に営巣する鴨の糞便材料から分離されたが,南部のアンカレジ周辺や北部の材料からの分離率は極めて低かった。分離されたインフルエンザウイルスの抗原亜型はH3N8が14,H4N6が47,H8N2が1,H10N2が1,H10N7が11およびH10N9が1株であった。抗原亜型およびウイルスの分離率は,糞便材料を収集した鴨の営巣地点によって異なっていた。1992年には湖沼水からのウイルス分離をも試み,鴨の糞便から得られたものと同じH4N6ウイルスがそれぞれ2つの異なる湖の水から分離された。鴨の営巣地でその糞便から分離された14株のH3インフルエンザウイルスのHAの抗原性をモノクローナル抗体パネルを用いて詳細に解析した結果,A/HongKong/68ならびにアジアで鴨,家鴨および豚から分離されたH3ウイルスのHAと極く近縁であることが判明した。この成績は水禽の間で継持されているインフルエンザウイルスの抗原性が長年にわたって保存されているとの先の我々の見解を支持する。以上のように,鴨が夏にアラスカの営巣地でインフルエンザウイルスを高率に保有しており,湖水中にも活性ウイルスが存在することが明らかとなった。従って,北方の鴨の営巣地が一次のインフルエンザウイルス遺伝子の貯蔵庫であるとの推定が支持された。秋に鴨が渡りに飛び発つ前に,糞便と共に湖沼中に排泄されたウイルスは冬期間,凍結した湖水中に保存され,春に帰巣する鴨がこれを経口摂取して感染し増殖することを繰り返して存続して来たのであろう。秋,冬および春に一定の鴨の営巣地点で水,氷および凍土を検索することによって,自然界におけるウイルスの存続のメカニズムならびに遺伝子進化を知ることができるであろう。水禽の糞便から分離されたパラミクンウイルス82株のうち81株はニユーカッスル病ウイルス(NDV)であった。これらNDVのHNおよびF糖蛋白の抗原性をモノクローナル抗体パネルを用いて詳細に解析した結果,ワクチン株と異なるものが優勢であった。水禽の間に高率に分布しているNDVが家禽に導入される可能性が考えられるので,渡り鴨の糞便から分離されるNDVの抗原性ならびに鴨に対する病原性を継続して調査する必要があろう。
著者
小野 悦郎 大竹 正剛
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

アフリカ豚コレラ(ASF)や豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)は、多様な抗原性を示すウイルスによる感染症であり、有効なワクチンの開発は極めて困難である。本研究課題では、そのような感染症の新たな制圧方法として、遺伝子改変技術によるAFSおよびPRRS抵抗性ブタの開発を目的に、先ず、CRISPR/Cas9システムを利用して、両ウイルスのレセプター分子であるCD163を本来のスカベンジャー機能は保存し、レセプター機能を削除するゲノム編集により両ウイルスに対する感染抵抗性を付与した細胞株を樹立する。次に、ゲノム編集細胞の核移植による体細胞クローン技術により、ASFおよびPRRS抵抗性MMPを作製することを目的とする。平成29年度は、以下のような成果が得られた。1. ゲノム編集マイクロミニピッグ(MMP)胎仔線維芽細胞(PEF)株の樹立にピューロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを使用するとプラスミド配列のブタゲノムへの導入が起こり、体細胞クローンを作製するに当たり、予期せぬ副作用が生まれる可能性があったので、プラスミドに変えて、sgRNA、Cas9蛋白およびピューロマイシン抵抗性DNA断片を使用する方法を確立した。2. 1の方法により、抗ウイルス作用が期待される可溶型CD163を発現するゲノム編集MMP PEF株を樹立した。3. PRRSウイルスに対するレセプター活性を有するCD163の5番目のScavenger receptor cysteine-rich (SRCR5)ドメイン内のレセプター活性に重要と考えられるアミノ酸に点変異を導入するためのプラスミドおよびゲノム編集用sgRNAを構築した。4. MMPのPEFのiPS細胞への誘導では、ES細胞様の形態を有する細胞を樹立したが、初期化因子としては、Oct-4AおよびSox2の発現を確認するに留まっている。
著者
生田 和良 西野 佳以 今井 光信 石原 智明 関口 定美 小野 悦郎 岸 雅彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

精神疾患の原因は明らかにされていない。現在、精神分裂病やうつ病などの精神疾患の原因として遺伝因子と環境因子の両方が関わると考えられている。本研究では、精神疾患との関連性が示唆されているボルナ病ウイルス(BDV)に関する検討を行った。これまでのドイツを中心に行われた疫学調査から、BDVはウマ、ヒツジ、ウシ、ネコ、ダチョウに自然感染し、特に、BDVに感染したウマやヒツジではその一部に脳炎を引き起こすことが明らかにされている。私達は、日本においてもドイツとほぼ同じ状況でBDVがこれらの動物に蔓延していること、さらに末梢血単核球内にBDV RNAが検出しえることを報告してきた。また、同様の検出法により、精神分裂病に加え、慢性疲労症候群においてもBDVとの関連性を認めている。しかし、献血者血液においても、これらの疾患患者に比べ低率ながら、BDV血清抗体や末梢血単核球内のBDV RNA陽性例が存在することを報告した。そこで、本研究では安全な輸血用血液の供給を目的として研究を行い、以下の結果を得た。1) 健常者由来末梢血単核球への精神分裂病患者剖検脳海馬由来BDV感染により、明らかなウイルス増殖の証拠は得られなかった。2) ヒトの血清抗体ではBDV p24に対する抗体が主に検出され、ヌクレオプロテインであるp40に対する抗体検出は稀である。同様に、ヒト由来末梢血単核球内のBDV RNA検出においても、p24 mRNAが主であり、p40 mRNAは稀である。この現象を検討するため、ラットおよびスナネズミ脳内へのBDV接種実験を行った。その結果、新生仔動物への接種ではp24抗体が主として産生され、成動物への接種ではp24とともにp40に対しても上昇することが判明した。
著者
喜田 宏 清水 悠紀臣 岡部 達二 関川 賢二 見上 彪 笠井 憲雪 小野 悦郎 大塚 治城 喜田 宏
出版者
北海道大学
雑誌
試験研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.オーエスキー病ウイルス(ADV)の前初期(IE)蛋白IE180の機能ドメインを解析した結果、初期および後期遺伝子の転写活性化に関与する領域、IE遺伝子の転写抑制に関与する領域および核への移行シグナルが明らかになった。2. ADVの初期蛋白EP0が感染細胞の核に局在し、IE、初期TKおよび後期gX遺伝子の転写を増強することが明らかになった。この転写増強作用には、EP0分子のN末端に存在するRINGfinger領域が必須であり、酸性アミノ酸を多く含む領域も関与することが判明した。3.蛋白工学手法によって、ADVのIE遺伝子の転写抑制因子を作出した。これら因子の転写調節作用を解析し、以下の成績を得た。1) IE180のDNA結合ドメインとヒト単純ヘルペスウイルスのトランスアクチベータ-VP16の結合ドメインとのキメラ蛋白は、ADVのIE遺伝子の転写を抑制した。このキメラ蛋白はウイルスの増殖を著しく阻害した。2) IE180およびEP0のdominant-negativemutantはウイルスの増殖を抑制した。4.ウイルスの増殖を最も強く抑制した3-1)キメラ蛋白遺伝子をC57BL/6マウス受精卵にマイクロインジェクション法によって導入した。1系統のF1マウスに本遺伝子が導入されたことを確認した。現在、このF1マウスを用いてトランスジェニックマウスの系統を確立しつつある。今後、系統化されたマウスが本遺伝子を発現していることを確認してウイルス感染実験を行う予定である。
著者
生田 和良 小野 悦郎 岩橋 和彦 LUFTIG Ronal RICHIT Juerg 鐘 照華 ARUNAGIRI Ch
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1)HIV-1はウイルス遺伝子変異が容易である。実際、HIV-1は幾つかのサブタイプに分かれる。しかし、これまでの大部分のHIV-1に関する知見は欧米や日本に蔓延しているB型ウイルスを用いて行われた結果である。HIV-1感染により引き起こされるAIDS病態を理解するためには、サブタイプ間に共通する現象とそれぞれのサブタイプにのみ認められる現象を正確に把握する必要がある。タイにおけるHIV-1E型感染者から得られた末梢血単核球(PBMC)と健常者由来PBMCとの共培養により2株のウイルス(95TNIH022および95TNIH047)を分離した。これらのウイルスを感染させたPBMCから抽出したプロウイルスDNAを用いて、HIV-1全長にわたりPCR増幅を大きく3領域に分けて行った。これらのPCR産物を用いて全長のHIV-1E型の遺伝子配列を決定した。さらにこれらのPCR産物を用いて、HIV-1E型ウイルスの感染性DNAクローンを作製した。また、このウイルスのnef遺伝子を大腸菌で発現し、Nef蛋白に対する免疫応答能を検討した結果、B型感染者の約40%で検出されたが、その大部分がB型HIV-1に特異的な抗体であった。一方、E型感染者での大部分では抗Nef抗体が極めて低かった。2)コスタリカにおいて、ウマおよびうつ病患者においてボルナ病ウイルス(BDV)感染例が認められた。また、中国の精神分裂病患者末梢単核球内のBDV遺伝子検出を試み、約40%に認めた。これらの多くに抗BDV抗体も検出した。3)米国の神経疾患患者の剖検脳サンプルを入手し、現在BDVおよびHIV-1遺伝子の検出を行っている。