著者
田口 文広 松山 州徳 森川 茂 氏家 誠 白戸 憲也 座本 綾 渡辺 理恵 中垣 慶子 水谷 哲也
出版者
国立感染症研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

1)SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に関する研究SARS-CoVは通常エンドゾーム経由で細胞内へ侵入することが報告されているが、我々はSARS-CoVのS蛋白の融合活性を誘導するプロテアーゼ(trypsin, elastase等)存在下では細胞膜径路で侵入することを明らかにした。更に、この径路による感染は、エンドゾーム径路感染より100-1000倍感染効率が高いことが判明した(PNAS,2005に発表)。SARSの重症肺炎の発症機序は、ウイルス感染を増強する様なプロテアーゼの存在が重要ではないかと考え、マウスに非病原性細菌感染で肺elastaseを誘導し、SARS-CoVを感染させることにより、ウイルス増殖及び肺の組織障害が高くなることを観察した。今後、更に重症肺炎に至るウイルス側及び宿主側因子の同定を進めたい。2)マウスコロナウイルス(MHV)に関する研究神経病原性の高いMHV-JHM株は受容体発現細胞に感染し、その細胞から受容体を持たない細胞に感染することが知られている。我々は、JHM株を直接受容体非発現細胞へ吸着させることにより、感染が成立することをspinoculation法(ウイルスが接種された細胞をウイルスと共に3000rpmで2時間遠心)により証明した。また、受容体非依存性感染にはJHM株のS蛋白の自然条件下で融合能が活性化されるという性質によることも明らかにされた(J.Viro1.2006発表)。
著者
座本 綾 辻 正義 川渕 貴子 魏 強 浅川 満彦 石原 智明
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.919-926, 2004-08-25
参考文献数
29
被引用文献数
4 29

日本にはこれまでに2つの新型のBabesia microti様原虫(穂別,神戸型)が見つかっていたが,北米およびユーラシア大陸の温帯地域に広く分布する北米型の原虫についての報告はなかった.本研究では北海道および東北地方を調査し北米型の探索を行った.調べた野生小型哺乳動物の総数は10種197匹で,このうち,アカネズミ,エゾヤチネズミ,ミカドネズミ,ハタネズミ,オオアシトガリネズミ,エゾトガリネズミから,血液塗沫検査およびBabesia属原虫の小サブユニットrRNA(rDNA)とβ-tubulinの両遺伝子を標的としたPCRの陽性例が見つかった.陽性個体の血液を実験動物へ接種することにより得られた23株(アカネズミ16,エゾヤチネズミ4,ミカドネズミ,ハタネズミ,オオアシトガリネズミ各1)をrDNAとβ-tubulin遺伝子の塩基配列に基づいて型別したところ,20株の穂別型に加え,3株の北米型が見つかった.しかし,日本で分離された北米型原虫のβ-tubulin遺伝子は米国分離株のそれと同一ではなく,ウエスタンブロットでの抗原性も明らかに異なっていた.以上の結果から,北米型のB. microtiはわが国にも存在するが,遺伝子性状や抗原性は米国のものとは異なること,また,野生齧歯類だけではなく食虫目の動物も,わが国のヒトバベシア症病原体のレゼルボアとなる可能性が示唆された.