著者
磯部 彰
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

明清時代以来、宝巻は民間秘密宗教の経典として見られて来た。そして、反体制の出版物であったがゆえに、原刻本は多く禁書とされたため、写本や清末民国の重刻本が残るにすぎず、出版文化史からは研究しにくい分野であった。しかし、実際に、中国やアメリカに残る明代の宝巻を調査すると、古宝巻は教派系と呼ぶ民間宗教経典と故事系と称する民間文学作品に大別され、明代前期以前は教派系宝巻が主流であったことが判明した。本計画研究の、前半2年間は、明代及び清初の教派系宝巻の原刻本の所在調査とその書誌研究に重点を置き、従来知られてはいなかった『普覆週流五十三参宝巻』という黄天道の教派系宝巻を発見し、その内容及びその製作者が華北の宣府(宣化県)出身で、出版は北京城内にあった経舗の一つ、党家に依託したことを明らかにした。後半2年の研究では、明刊教派系宝巻を刊行した版元の性格について分析を行なった。明代の宝巻は、かなりの種類が北京城内で出版され、版元は党家などの経舗が受け負い、施主は弘陽教の宝巻などが巻頭に記すような皇妃・宮女、皇親・官僚、或は、地方の地主や郷紳などが資金を提供しつつ、各教派の宗教活動を支援していたらしいことがわかった。経舗では、北蔵などの官版も印刷を受け負っていたので、宝巻と官版宗教経典とは版本としての体裁も似通うか、同類に属していた。つまり、版元から宝巻の性格を考えた時、明代から清初にかけて、経帖装の教派系宝巻は、王朝の出版統制の網にはかからず、禁圧されることになるのは、清の雍正時代以降のことであった。
著者
磯部 彰
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

山東を舞台とした信仰では、泰山信仰が最も普遍的ではある。主神は東嶽帝君であるが、羅祖教の流れにある黄天道などの新興宗門では、東嶽帝君に陪祀される夫人の泰山娘々を神格とした経典宝巻を作成している。明刊本としては、「天仙聖母源流泰山宝巻」西大乗教の萬暦刊「霊応泰山娘娘宝巻」(悟空編)の2種が伝わる。沢田瑞穂氏は後者で、両本を代表させるが、実際は両者の内容は異なる。前者の断簡を所蔵する一方、後者は『続刻破邪詳弁』巻1に邪教の一つとして著録され、複印本もある。古くから女神としては観音がいて、「香山宝巻」が作られてその出身の霊験談を記す。泰山娘宝巻も観音出身伝に倣って、泰山娘々の霊験談を作り出したと見える。同じ頃、やはり山東を舞台とする孟姜女宝巻も作られている。女性神の宝巻が目立つのは、教門の担い手に女性教祖や信者が多かったことと関係しよう。
著者
磯部 彰 金 文京 三浦 秀一 若尾 政希 大塚 秀高 新宮 学 磯部 祐子 鈴木 信昭 高山 節也 中嶋 隆藏 勝村 哲也 尾崎 康 藤本 幸夫 関場 武 栗林 均
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本領域研究では、共同研究及び個別研究の両形態をとって研究を進めてきた。研究組織を円滑に運営するため、総括班を設け、目的達成への道標として数値的目標を掲げ、構成員が多角的方法をとりながらも、本研究領域の目標を具体的に達成し得るようにした。本研究では、東アジア出版文化を基軸とする新学問領域を確立することを目標とし、その骨格をなす要素を数値的目標に設定した。それは、(1)東アジア出版文化事典の編纂準備、(2)東アジア研究善本・底本の選定と提要作成、(3)東アジア研究資料の保存と複製化、(4)日本国内未整理の和漢書調査と目録作成、であり、更に、(5)東アジア出版文化研究の若手研究者の育成、(6)国際的研究ネットワークの構築などを加えた。初年度には、総括班体制を確立し、ニューズレターの発刊、ホームページの開設、運営事務体制の設定を行い、計画研究参画予定者を対象に事前の研究集会を実施した。平成13年度からは、計画・公募研究全員参加の研究集会と外国研究者招待による国際シンポジウムを毎年開き、国内の研究者相互の交流と国外研究ネットワークの構築を推進した。前半2年は、総括班の統轄のもとで、主として東アジア出版文化をめぐる個別研究に重点を置き、共同研究の基盤強化を図った。新資料の複製化も同時に進め、東アジア善本叢刊4冊、東アジア出版文化資料集2冊を刊行する一方、展覧会・フォーラムなどを開き、成果の社会的還元を行なった。研究面では、後半は共同研究を重視し、調整班各研究項目での共同研究、並びに領域メンバーや研究項目を越えて横断的に組織した特別プロジェクトを4ジャンル設定し、総括班の指導のもとに小研究域として定着させた。年度末ごとに報告書を編集する一方、前後の終了時に研究成果集を作成している。研究領域の数値的目標は約四分之三達成し、窮極の目的である新学問領域設定も、概然的ながら構想化が具体的になった。
著者
磯部 彰 真鍋 俊照 新宮 学 金 文京 藤本 幸夫 山田 勝芳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

東アジア社会の構造及び将来のあり方を考える時、意志疎通、情報の伝達、文化の共有に多大な影響と役割を果たした出版文化は文化・政治・経済・宗教等の基本をなした。本研究は、中国・朝鮮・日本等の近世出版システムと文化形成との関係を解明すべく立案され、文学・歴史学・思想宗教学・書誌文献学・言語学・美術史学等の多方面から成る研究者を研究分担、もしくは研究協力者として結集し、十数回に及ぶ小地区会議、三回の全体会議を開催して検討した。その結果、近い将来、特定領域Aに企画案を申請することとし、今回なお検討を要する問題は継続検討課題とする一方、東アジア諸国における出版文化研究の現況成果を知るため、更に企画案に盛り込むべき外国調査、共同研究を実施することとし、明年の国際学術研究に申請することを計画した。研究の大綱は、次のように決定した。○研究会名称:東アジア出版文化研究機構○総括機構 五大地区・計画研究代表から組織五大地区・計画研究双方を統合して、一般市民も含めた研究シンポジウム・出版展示会・特別講演を指導する。総括機構に直属する情報図書インフォメーション支構を通して、インターネットで資料・情報・文献の提供を図書館・研究所に対して行う。○研究期間は5年間○地区は東北・京浜・京阪・中国・九州の5ブロック○計画研究は(1)出版交流研究、(2)出版形成・機構研究、(3)出版文化論研究、(4)出版環境研究、(5)出版政策研究、(6)出版物の研究の6本を基幹研究のもとに2〜3件づつ設ける。○公募研究は(1)〜(6)基幹研究(計画研究)の下でそれぞれ公募し、約八十の個別研究を計画研究の支柱とする。○外国研究機関との共同研究・調査も実施し、例えば中国では社会科学院文学研究所と共催で北京出版文化研究シンポジウムを開く。○事務局を総括機構に設ける。