著者
磯部 祐子
出版者
高岡短期大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.159-170, 2004

小論は、2003年の現地調査に基づき、中国浙江省紹興における民間演劇の再燃について考察を加えたものである。改革開放後、経済の自由化と共に、それまで息を潜めていた民間の芸能活動は復興の兆しを見せた。爾来20年、今日、江南では、中華人民共和国成立以前の活況さえも紡彿とさせるほど民間芸能の盛んな地域も生まれ始めた。小論は、調査を行った5つの事例によって、今日の紹興における演劇の上演状況と宗教との関わり、伝統の継続性と異質性、そしてその背景にある人々の精神世界について明らかにする。
著者
磯部 祐子
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.73-89, 1994

本論は,瞼譜の発生と変化分化の歴史を考察し,瞼譜に多用される色彩のうち,紅と黒を中心とした瞼譜派生の法則性及び色彩のシンボリズムについて考察を加えたものである。儺祭の仮面などが母体と考えられる瞼譜は,唐の「塗面」「染面」を濫觴とし,宋の戯文に至り,「抹」「〓」などの描写法が出現する。次いで,金の侯馬董墓などによって,滑稽役者の隈取りが類推可能となる。『元曲選』中には副浄,〓旦を中心とした部分化粧の記載が見え,末や外などにも脚色人物本来の顔色が特記されるようになり,このことは内面的個性を顔色に表そうとする具体的意識の嚆矢と考えられる。明の伝奇は,浄とそれ以外の人物を明確に区分するために,浄に瞼譜が使用され,昆山腔の脚色名は瞼譜の施行方法に基づいて行われるようになる。以後,清になると,色彩ごとに登場人物の特徴が次々とシンボライズされていくが,清中葉では,脳門と両眉に具象的図柄を描くことによって人物の特定化が更に明確になされていく。京劇を中心にまさに瞼譜芸術の極みへと向かうのである。この背景には京劇など花部の広範で雑多な享受者が存在したこと,加えて民間の社火瞼譜の影響があったことを指摘する。一方,京劇瞼譜の洗練には,宮廷の瞼譜観も反映されていたと推論する。また,色彩的に多用される紅と黒の二色の考察によって,内面を表象すると考えられた瞼譜は,(1)類似した個性を同色の範疇に収めただけでなく,(2)親子襲用,(3)姓名或は色彩語との類似性,(4)音通による相関性などの要素によって数多い登場人物の色彩決定がなされていった。しかし,(5)反面的意味での色彩決定,(6)舞台上の色彩バランスによる色彩の特定化などの点も同時に指摘し得るのである。併せて,中国の瞼譜には日本の歌舞伎のような厳密な正邪の区分は存在せず,その発生と派生をみても曖昧なシンボリズムしか見いだすことはできないと結論する。
著者
磯部 祐子
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、江戸後期から明治初期の漢文笑話集および漢文小説に 収められた漢文笑話の所蔵・書誌の調査、訳読と作品の分析を行い、各話の特色、パロディ化された出典の変遷を導く。これにより、江戸後期および明治の漢文笑話が、江戸前期漢文笑話の特徴であった小咄の翻案や中国『笑府』の模倣の枠を超えて、風刺性・物語性が増加していくことを導き、その背景を考証するものである。本研究は、これまで、日本における漢文笑話作品集のうち、『笑門』(1797)、『胡盧百転』(1797)、『笑堂福聚』(1804)、『善謔随訳続編』(1798)、『奇談新編』(1842)の基礎的調査と訳読を終えたが、今年度は『善謔随訳続編』について、個々の笑話を『沙石集』の影響・先行小咄との関連性 ・中国由来の典故の使用実態・使用語彙の特質・仏教色等の側面から考察し、訳読・解説およびその考察結果を論文として発表した。すでに発表公刊している「善謔随訳続編を読む(一)」(『富山大学人文学部紀要第67号』)に続編である、「善謔随訳続編を読む(二)」(『富山大学人文学部紀要第67号』)「善謔随訳続編を読む(三)」(『富山大学人文学部紀要第68号』)の二篇がそれである。その中では、『善謔随訳』と『善謔随訳続編』の相違とその背景にも言及した。また、『訳準笑話』作品と明代『笑府』の関係について、一昨年、中国寧波天一閣博物館・上海復旦大學古籍整理研究所共催の「明代的書籍與文學國際學術討論會」において発表した内容に基づき、中国の研究誌『文匯学人』第308期に、「從中國笑話到日本小咄」と題して発表した。この論考は、中国の笑話「笑府」の影響下にあると思われる『訳準笑話』作品を、『笑府』の原話と比較し、①用語の文言化、②内容の日本化、③ストーリーの合理化、④中日笑話の相違等の視点から考察したものである。他、『奇談新編』についても、訳読と解説を進めた。
著者
松家 裕子 小南 一郎 磯部 祐子
出版者
追手門学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、中国近世以来、今日にいたるまで民間で行われている、歌と語りによる唱導文藝である宝巻(宣巻)*について、実地調査(於浙江省紹興・平湖)と文献調査を行い、これらを総合したものである。個人宅や廟(神社の類)で行われる宗教的儀式に立ち会い、そのテキストを読み解くことによって、唱導文藝の担い手の性格-宗教者として、また芸能者としての-や、儀式における信仰の実相とテキストの内の信仰との関係-整合するとはかぎらない-など、中国文化史全体の問題にかかわる重要なことがらについて、いくつかの考えを提出した。*テキストとしてみるときには「宝巻」、パフォーマンスとしてみるときには「宣巻」を用いる。
著者
磯部 彰 金 文京 三浦 秀一 若尾 政希 大塚 秀高 新宮 学 磯部 祐子 鈴木 信昭 高山 節也 中嶋 隆藏 勝村 哲也 尾崎 康 藤本 幸夫 関場 武 栗林 均
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本領域研究では、共同研究及び個別研究の両形態をとって研究を進めてきた。研究組織を円滑に運営するため、総括班を設け、目的達成への道標として数値的目標を掲げ、構成員が多角的方法をとりながらも、本研究領域の目標を具体的に達成し得るようにした。本研究では、東アジア出版文化を基軸とする新学問領域を確立することを目標とし、その骨格をなす要素を数値的目標に設定した。それは、(1)東アジア出版文化事典の編纂準備、(2)東アジア研究善本・底本の選定と提要作成、(3)東アジア研究資料の保存と複製化、(4)日本国内未整理の和漢書調査と目録作成、であり、更に、(5)東アジア出版文化研究の若手研究者の育成、(6)国際的研究ネットワークの構築などを加えた。初年度には、総括班体制を確立し、ニューズレターの発刊、ホームページの開設、運営事務体制の設定を行い、計画研究参画予定者を対象に事前の研究集会を実施した。平成13年度からは、計画・公募研究全員参加の研究集会と外国研究者招待による国際シンポジウムを毎年開き、国内の研究者相互の交流と国外研究ネットワークの構築を推進した。前半2年は、総括班の統轄のもとで、主として東アジア出版文化をめぐる個別研究に重点を置き、共同研究の基盤強化を図った。新資料の複製化も同時に進め、東アジア善本叢刊4冊、東アジア出版文化資料集2冊を刊行する一方、展覧会・フォーラムなどを開き、成果の社会的還元を行なった。研究面では、後半は共同研究を重視し、調整班各研究項目での共同研究、並びに領域メンバーや研究項目を越えて横断的に組織した特別プロジェクトを4ジャンル設定し、総括班の指導のもとに小研究域として定着させた。年度末ごとに報告書を編集する一方、前後の終了時に研究成果集を作成している。研究領域の数値的目標は約四分之三達成し、窮極の目的である新学問領域設定も、概然的ながら構想化が具体的になった。