著者
福井 唯嗣
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 = Acta humanistica et scientifica Universitatis Sangio Kyotiensis (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
no.49, pp.61-80, 2016-03

いわゆる団塊の世代が75 歳以上を迎える2025 年が、高齢化進展の一里塚とみなされている。「社会保障・税一体改革」において、政府は医療・介護サービスの提供体制の見直しとともに、医療・介護保険財政の改革を進めている。今後全国レベルで高齢化が進展し、介護給付費が増大していくことが見込まれるが、高齢化の進展速度には地域差がある。今後、地域ごとの高齢化の進展が介護保険料にどの程度のインパクトを持つか、また、保険料の地域差はどのような傾向を辿るかについて、可能な限り長期的な視野を持って推測しておくことには一定の意義がある。本稿では、介護保険財政の都道府県別長期推計モデルを構築し、2040 年度までの介護給付費および65 歳以上被保険者が負担する介護保険料について都道府県単位で推計する。本稿の分析から得られた知見は以下の通りである。(1)現状の介護費用には、年齢構成の違いによる影響を取り除いてもなお残る地域差があり、その多くは要介護(要支援)認定率の地域差以外の要因に起因する。(2)高齢化の進展に伴い、すべての地域で介護給付費は2040 年度まで増大を続けるが、高齢化の進展速度の違いにより、介護給付費の地域間格差は少なくとも2035 年度ごろまでは長期的に拡大していく。(3)第1号被保険者の1 人当たり保険料の動向は、介護給付費の動向と必ずしも連動しない。調整交付金による国庫負担の傾斜配分の仕組みは、一定程度機能している。
著者
岩本 康志 福井 唯嗣
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
no.28, pp.159-193, 2011-03

本稿は、医療・介護保険財政モデルの最新版(2009年9月版)を用いて、長期的な視野からの社会保障の公費負担の動向について分析する。今回のモデル改訂では、社会保障国民会議の医療・介護費用のシミュレーションの経済前提を取り入れるとともに、国民健康保険と全国健康保険協会管掌健康保険の加入者数を推計することで、これらの制度への公費負担を考慮に入れた。 社会保障国民会議による推計によれば、医療・介護費用に対する公費負担は、2007年度から2025年度までGDP比で1.8%増加する。本稿の分析では、2025年度以降も公費負担の増加がつづき、2050年度にかけてGDP比で2.3%(医療が1.25%、介護が1.05%)増加すると推計された。さらに、2050年度以降も約20年間にわたり、公費負担は増加を続ける。長期的視点にたった税制のあり方を検討する際には、このことを考慮に入れて、安定的な財源確保の手段を考えるべきである。 後期高齢者に重点的に公費が投入されていることから、将来の公費負担の伸び率は保険料の伸び率よりも高いことを今回の推計は示している。すでに混迷しつつある税による財源調達は、今後はさらに困難になることが懸念される。財源調達の重点を税から保険料に移す方向への改革も検討する必要がある。その際には、給付と負担の関係をより明確にし、国民の理解を得る制度上の工夫が必要である。医療・介護費用の事前積立はその工夫の一つである。
著者
福井 唯嗣
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集 社会科学系列 = Acta humanistica et scientifica,Universitatis Sangio Kyotiensis. Social science series (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
no.31, pp.75-100, 2014-03

2013年8月にまとめられた社会保障制度改革国民会議報告書には、後期高齢者医療制度存続という医療保険制度に関して一つの大きな方針転換があった。現在示されている政府方針には、市町村国保の都道府県単位化による財政基盤強化、被用者保険の後期高齢者支援金について全面総報酬割の導入により節約される国庫負担を財源とする市町村国保支援などがある。本稿では、これらが今後の市町村国保財政に及ぼす影響を、長期推計モデルによって定量的に考察した。 また、後期高齢者医療制度廃止を前提とすれば、現行の保険者間財政調整に代わるさまざまな財政調整が可能となる。本稿では、長期推計モデルを用いた政策シミュレーションにより、それぞれの財政調整が将来における市町村国保の所要保険料に及ぼす影響を推計し、望ましい財政調整のあり方について検討した。 現行制度、とくに前期高齢者納付金(交付金)の下では、高齢化率の低い自治体の保険料を高める一方、地域の医療費の多寡は保険料には反映されない。一方、制度平均の1人当たり保険料と1人当たり給付費によるリスク構造調整を導入した場合には、地域の医療費の多寡は保険料に強く反映されるため、医療費適正化を自治体に促す場合には有効な選択肢であるといえる。
著者
岩本 康志 鈴木 亘 福井 唯嗣 両角 良子 湯田 道生
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

社会保障財政の議論では2025年度までの予測が使われているが,今世紀前半ではまだ高齢化のピークに達していないことから,人口高齢化の問題を扱うにはより長期の時間的視野が必要である。この研究では,急増する医療・介護費用をどのように財源調達するかを検討し,将来世代の負担を軽減するため保険料を長期にわたり平準化する財政方式の比較をおこなった。そして,そのなかで,世代間の負担を平準化する目的に合致した,実務上,合理的な実現方式を同定した。