著者
岩本 康志
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.99-115, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
7

本稿では,政府債務が累増した後に再建を果たすか,デフォルトあるいは高インフレによって破綻の道をたどるのか,について歴史的にどのような経験が蓄積されてきたのかを検討する。Reinhart(2010)のデータベースを利用して,政府債務残高が高水準に達した事例を抽出し,その後の帰結を「破綻」と「再建」に分類する。先進国では破綻に至る事例の割合は32%,新興国では96%となり,その帰結は大きく異なっている。先進国では第2次世界大戦以降の事例の多くが再建を果たしている。しかし,大恐慌時やそれ以前の時期には財政破綻の比率は14事例中9例と,64%に及んでいる。先進国の最近時の状況は過去とは異なるものだという解釈のモデルによると,現状のわが国のような状況から今後破綻に至る確率は35%程度であると予測される。一方,現在の先進国にも過去の経験が当てはまるという解釈では,今後破綻に至る確率は80%程度であると予測される。
著者
岩本 康志 福井 唯嗣
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
no.28, pp.159-193, 2011-03

本稿は、医療・介護保険財政モデルの最新版(2009年9月版)を用いて、長期的な視野からの社会保障の公費負担の動向について分析する。今回のモデル改訂では、社会保障国民会議の医療・介護費用のシミュレーションの経済前提を取り入れるとともに、国民健康保険と全国健康保険協会管掌健康保険の加入者数を推計することで、これらの制度への公費負担を考慮に入れた。 社会保障国民会議による推計によれば、医療・介護費用に対する公費負担は、2007年度から2025年度までGDP比で1.8%増加する。本稿の分析では、2025年度以降も公費負担の増加がつづき、2050年度にかけてGDP比で2.3%(医療が1.25%、介護が1.05%)増加すると推計された。さらに、2050年度以降も約20年間にわたり、公費負担は増加を続ける。長期的視点にたった税制のあり方を検討する際には、このことを考慮に入れて、安定的な財源確保の手段を考えるべきである。 後期高齢者に重点的に公費が投入されていることから、将来の公費負担の伸び率は保険料の伸び率よりも高いことを今回の推計は示している。すでに混迷しつつある税による財源調達は、今後はさらに困難になることが懸念される。財源調達の重点を税から保険料に移す方向への改革も検討する必要がある。その際には、給付と負担の関係をより明確にし、国民の理解を得る制度上の工夫が必要である。医療・介護費用の事前積立はその工夫の一つである。
著者
岩本 康志
出版者
日本経済学会
雑誌
The Economic Studies Quarterly (ISSN:0557109X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.152-165, 1989-06-20 (Released:2007-10-19)
参考文献数
30

This paper analyzes the long run effects of budget deficits on capital formation and inflation using the concept of the real budget deficit. The paper shows that in the long run the real deficit has policy implications that are opposite to the traditional budget deficit adopted in previous theoretical work. Under the real deficit framework, budget deficits depress capital formation in the debt financing case or the constant expenditure case, but facilitate capital formation in the money finance case with constant tax revenue. The paper also considers how alternative specifications of the savings base affect these conclusions.
著者
岩本 康志 鈴木 亘 福井 唯嗣 両角 良子 湯田 道生
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

社会保障財政の議論では2025年度までの予測が使われているが,今世紀前半ではまだ高齢化のピークに達していないことから,人口高齢化の問題を扱うにはより長期の時間的視野が必要である。この研究では,急増する医療・介護費用をどのように財源調達するかを検討し,将来世代の負担を軽減するため保険料を長期にわたり平準化する財政方式の比較をおこなった。そして,そのなかで,世代間の負担を平準化する目的に合致した,実務上,合理的な実現方式を同定した。
著者
岩本 康志
出版者
日本経済国際共同センター
巻号頁・発行日
2009-05

本稿では,行動経済学で着目されている行動の誤りの存在が,合理的な個人を前提としていた規範的な議論にどのような影響を与えるかを考察する。行動経済学で着目されている行動の誤りは,ただちに温情主義的政策を正当化するわけではない。行動経済学の知見は実は自由主義よりも温情主義の方に大きな影響を与えると考えられる。自由主義はもともと個人の合理性の限界を認識し,自由の価値を認める立場であるので,個人が合理的に行動しないという知見は,政府の能力の限界を裏付けるものである。また,研究者が他者の非合理性を科学的・客観的に確認できたとされる範囲はごくわずかであり,政策に応用できる分野は現在のところ限定されている。さらに,経済政策の対象となるのは,個人の非合理性そのものではなく,その行動が経済全体に対してもつ影響である。したがって,個人の非合理的な行動が社会的に望ましくない結果をもたらすという主張がされたとしても,それは個人の非合理的な行動をするという仮説と,行動が経済に与える影響についての仮説が一体となっている。そして,後者の仮説の検証には,伝統的な経済学による分析が引き続き重要な役割を果たす。以上のような留意すべき事項の存在は行動経済学が政策にとって無価値であることを意味するものではなく,こうした留意点を理解した上で行動経済学を政策に適用していく議論は,政策を大きく進化させる可能性を秘めている。行動経済学者が提唱している新しい温情主義の考え方は,伝統的な経済学における温情主義的政策の議論を大きく進化させることが期待される。