著者
上遠野 輝義 福岡 義隆
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.94, 2003

1.はじめに これまでにも南関東地方から長野県東北部に至る大気汚染の長距離輸送に関する研究(栗田・植田、1986)や、南関東地方の小地域におけるオキシダント濃度と局地風についての研究(菊池、1983)などがあるが、関東地方全域のオキシダント濃度と局地風の関係についての研究例は、とくに最近10年間極めて少ない。温暖化にともなって最近、各地の光化学スモッグが高濃度化している。 そこで、本研究では、関東地方において特に注意報発令の多発した2000年夏半年について、全国的にみても高濃度日の多かった埼玉県に注目し、光化学オキシダント濃度分布と天気図型及び局地風(風向風速)の分布との関係について解析し考察を試みた。2.研究方法_丸1_使用した資料:2000年5月_から_9月夏半年における関東地方1都6県全域の大気汚染常時監視測定局の毎時データを用いた。オキシダント測定局数は約300局、風向風速は約350局であるが、栃木県の風データは欠測値が多かったのでアメダスデータを使用した。埼玉県における光化学スモッグに関しては1990_から_2000年についての傾向を調べてみた。_丸2_解析方法:光化学オキシダント濃度の分布図と風系図はArc View(GISソフト)を用いて1時間毎に描いた。全事例の中から、天気図型別に注意報発令日(120ppb以上)と非発令日(120ppb以下)の比較考察を行った。3.研究結果 今回は、全体的な傾向と事例研究として最も頻度の多かった天気図型(南高北低型)について、注意報発令日(7月23日)と非発令日(9月2日)とについて考察した結果を報告する。(1) 関東地方の月別光化学スモッグ注意報発令回数が最多県は埼玉(40件)で最少の神奈川の4倍である。(2) 過去5年間における埼玉県において注意報発令日の天気図型は、最も多かったのは南高北低型(33%強)で、移動性高気圧型と東高西低型(各12%前後)が次いでいる。(3) 注意報発令日7/23も非発令日9/2も南高北低型天気であり、後者では熊谷で39.8℃もの高温という残暑であったが、光化学オキシダント濃度分布と風系は異なる。前者では、海風の進入と気温上昇とともに埼玉県中部から群馬県にかけて120ppb以上の高濃度地域が発現している。一方、非発令日には海風などの風系は類似しているが陸風も強くオキシダント濃度は80ppb以下と低い。
著者
福岡 義隆 丸本 美紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.215, 2011

1.いま何故、平城京ヒートアイランドか 昨今の温暖化(平成温暖期とする)に類似の平安温暖期(奈良時代から平安時代にかけて)における都市の熱環境はどうであったか。それは平城京や平安京の繁栄の現われなのか。文献的な検証により、古環境とくに気候環境への適応工夫を見直してみて先人の知恵を学ぶ手がかりにしたい。2.研究方法2-1 古典的な気候学研究方法からの類推(1)SchmidtによるWienにおける都市気温の成因分析.1917,(2)福井英一郎による土地利用比率からの都市気温の推定回帰式とAustasch概念導入.1956,(3)高橋百之による家屋密度Dと気温Tの関係式,T=αD+βで概略描写.1959,(4)河村武による都市温度成因分析,熱的指数1/(cρκ1/2)で微差補正.1964,(5)田宮兵衛による団地の気温分布参考.1968,(6)オーク、福岡、朴らによる人口数Pとヒートアイランド強度HII=AlogP+Bの回帰式で京内外の温度差推定(1987・1992,など)。2-2 平城京内の居住環境と土地利用の推定 馬場基著(2010)『平城京に暮らす』(吉川弘文館)~主に「大日本古文書」「平城宮木簡」「平常京木簡」「平城宮発掘調査出土木簡概報」などに基づく著書、宮本長二郎著(2010)『平城京―古代の都市計画と建築』(草思社)~各種古文書のほか奈良国立文化財研究所や歴史民俗博物館などの模型などに基づき穂積和夫によるイラストでの復元図、奈良文化財研究所編(2010)『平常京―奈良の都のまつりごととくらし』など3.冬季夜間のヒートアイランド推定結果 上記の手法、先行研究方法からの概略図把握および各種文献による微差補正などで下図を得る。 根拠とした数値など;_丸1_平城京の人口は10万~20万人と推定されているので、オーク・福岡らの人口とヒートアイランド強度(HII)の相関図から、おおよそHIIは1.5~2℃とした。_丸2_人が集まりやすい区域、例えば市場(東市・西市)とか頻繁に宴会が催された朝堂院、大学寮(式部省近く)、広場(行基の布教活動支援の大衆集合)等は周辺より高温とした。_丸3_大極殿とか長屋王邸などの屋根のように著熱効果のある瓦が大量に使われている建物群区域もやや高温とみなした(平常京全体で500万枚の瓦が使われた)。_丸4_朱雀大路とか二条通りなどの街路樹(槐、エンジュ)や佐保川とか秋篠川、大極殿北隣の溜池あるいは苑内池付近などの蒸発散面区域でやや低温であったと類推される。
著者
福岡 義隆 中川 清隆 渡来 靖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.260, 2009

1.はじめに熊谷と多治見が日本一高温になった理由をヒートアイランドというlocal-climateのみならずmeso-climateのフェーン、macro-climateのラニーニャなどとの関係で考察し、WRFモデルによるシミュレーションの可能性と限界にも触れる。2.暑さの原因およびメカニズム 熊谷や多治見が暑いのは何故か、考えられる要因を次にいくつかあげてみよう。_丸1_内陸型気候説(海岸からの距離)_丸2_都市気候成因説_丸3_フェーン説~近くの山岳(高原)の影響(滑昇反転下降流)_丸4_谷地形(谷風循環反転下降流)_丸5_逆転crossover現象との関係_丸6_夏のモンスーンとラニーニャ 本稿では特に_丸2_の都市気候説と_丸3_フェーン説を中心に考察を進めた。3.都市気候形成のバックグラウンド 気候の内陸度については、大陸度(K:、ゴルチンスキーの式、A:気温年較差、Φ:緯度) K=1.7×(A-12sinΦ)/ sinΦ によると、東京が43.7であるのに対して熊谷は45.8と大きい。なお、名古屋は48.2、多治見は51.9 である。仮に海風で東京や名古屋の方からの熱移流があったとしても海岸からの距離や、低温の海風による昇温抑制効果などを考えると、臨海大都市の影響はあまり考えられない(東京37℃、34℃)。 さらに、2007年の夏だけについて考えられることは、かなり強く広範囲に及ぶラニーニャの条件下にあって西太平洋全般に高温状態にあったことも確かである。3.フェーン説に関する考察 2007年8月16日や2005年8月6日などの熊谷市の高温時には明らかに西~北西風が吹いていた。この2例以外でもかなりの割合で関東山地越えの風の時に猛暑になっている。明らかにフェーン風発生にともなう気温上昇と考えられる。まれにはウェットフェーン時のタイプもあるが、多くはドライフェーン時のタイプである。フェーンによる熊谷市など北関東の高温現象は、渡来靖ら(2008)のシミュレーション解析でも明らかにされている。参考文献河村武 1964. 熊谷市の都市温度の成因に関する二三の考察、地理学評論 37 560-565浅井冨雄 1996. 『ローカル気象学』 東大出版
著者
福岡 義隆 丸本 美紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1.はじめに<br> 日本では福井(1933),関口(1959)の区分をはじめ,鈴木(1962)や吉野(1980)らによる種々の気候区分図が考案されているが,各種の気候図にみる瀬戸内気候の範囲は微妙に異なっている。瀬戸内沿岸はGISによる環境容量図などでも特異な位置づけにある。しかし,瀬戸内気候についての定量的な評価はいまだされてない。本研究では福井英一郎(1966)による地中海気候発達度の計算法に倣って瀬戸内気候の発達度を算出することを試みた。一方,ローマやギリシャなどの高度な文明を生んだ地中海気候のように,奈良や京都の古代文明が瀬戸内気候のたまものかどうかを再認識するために,奈良と京都の瀬戸内気候度を求めることを試みた。局地気候災害的には旱魃の奈良の方が洪水の京都よりも瀬戸内気候度が高いと予想される(丸本,2014)が,そのことを確証付けてみたい。本研究の真の目的は福井気候学の哲学を再考・再興することにもある。<br>2.&nbsp; 研究方法<br> 福井英一郎編著『日本・世界の気候図』(1985)のうち,年平均散乱比図,年降水量図,年合計流出高図,郡別干害率図の4図における瀬戸内気候区の範囲(瀬戸内海沿岸線に平行に走る等値線など)を重ね合わせてみた。次に,『The Climate of Japan』(Ed.E. Fukui, 1977)に掲載されている気候区分図(関口武による図,1959,ソーンスウエイト法による気候区分図,1957)と対照させ,瀬戸内気候区の範囲を特定してみた。それらの定性的な分布をより定量的に評価するための福井(1966)の地中海発達度における三角関数を適応させてみた。瀬戸内沿岸では夏季の降水量に対して8月降水量がかなり少ないという特性から考えて,本研究では地中海気候発達度のtan&theta;を6-8月降水量R<sub>s</sub>に対する8月降水量R<sub>8</sub>の比で表わした。対象地域については,福井,岐阜,名古屋,津,和歌山,奈良,大阪,彦根,京都,神戸,岡山,広島,米子,松江,下関,高松,松山,徳島,高知,福岡,大分の21地点を選び,各地方気象台における各月降水量の1954~2014年平均値を使用した。m=瀬戸内気候度,&nbsp;<br> 3. 研究結果<br>関口の気候区分図では奈良盆地が瀬戸内気候区内,京都盆地は区外となっている。4つの気候要素の等値線は第2図のとおり瀬戸内気候区分内に収まっている。<br>&nbsp;瀬戸内海沿岸の主要都市の瀬戸内気候度mについては,値が大きい順に松山92.3,広島91.6,大阪・岡山・神戸・下関で90.0であった。奈良のmは87.3,京都は86.4であり,瀬戸内気候度は,奈良盆地が京都盆地よりも大きく,すなわち奈良の方がやや夏乾燥であることが示された。
著者
横山 太郎 福岡 義隆
出版者
Japanese Society of Biometeorology
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.145-151, 2007-02-01
被引用文献数
3

本報では熱中症の発生は地方によってどのように違いが見られるのかを明らかにすることを目的とした.一般的には熱中症の発生は日中,特に昼間に集中しているが,人口流出入が一日の中の発生頻度に影響を及ぼしていると考えられる.また,全国各地の熱中症の発生頻度は34℃台で地方ごとの顕著な違いが見られ,同じ気温であれば北日本,東日本,西日本の順に高いことが分かった.同じような気候条件にも関わらず,西日本と東日本の発生頻度に差が見られた.60歳以上の高齢者は不快指数77から82にかけて急激に熱中症が増えることも分かった.<br>
著者
福岡 義隆
出版者
Japanese Society of Biometeorology
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.101-107, 1985

瀬戸内地域は, 平均値気候学の立場からは温和な気候を示す地域と考えられている.しかし実際には, 時折, 太平洋側や日本海側よりも夏に蒸し暑く冬に寒いことがある.とくに夏の夕凪は西日本で非常に有名で, かなり暑く, 心理的にも蒸し暑いと思われやすい.<BR>著者は夕凪の蒸し暑さ (YS) を次式のように表現することを試みた.<BR>YS=P1+P2+P3+P4<BR>ここに, P1, P2, P3およびP4はそれぞれ, 物理的要因, 人為的な熱汚染, 生理学的気候および心理学的気候を意味する.<BR>YSは広島, 岡山や他の都市で観測されたような都市温度により強められること, およびYSは明らかに不快指数の時間的変化によって認識されることなどが結論される.
著者
福岡 義隆
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.102, no.2, pp.119-124, 1993-04-25 (Released:2010-11-18)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

Informations on the cold weather and climatic disasters during part of the Little Ice Age for 17th to 18th Century in Japan were obtained from tree ring widths and some kinds of historical documents.Tree rings were analyzed both at Northeastern Japan (Fukushima Pref.) and Southwestern Japan (Okayama Pref.) mostly in Shinto Shrines' precincts. The daily weather records described in old personal documents such as diaries were inquired into at Hirosaki City (Aomori Pref.) for Fukushima's tree rings and at Tsuyama City (Okayama Pref.) for Okayama's tree rings. In this study, the snowy days' rate is used as an indicator of winter coldness. It is defined as the percentage of the number of days with snowfall to that with precipitation, that is, the total of rainy and snowy days.As a result, it could be concluded that the tree ring widths are narrower in the year of larger snowy days' rate. In Southwestern Japan, it is also considered that the drought summer as well as coldest winter caused the worse growth of trees.
著者
福岡 義隆 後藤 真太郎
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

この研究は3つのサブプロジェクトからなる。第1のプロジェクトでは、都市の温暖化の実態と影響についてまとめた。具体的には埼玉県熊谷市を対象として研究を進め、温暖化による熱中症と植物季節の異常を明らかにした。熱中症に関しては気温が30℃超えると発生し始め35℃以上では急増すること、男女・年齢・生活内容・時間・季節によって異なることなどが明らかになった。また、植物季節に関しては温暖化で桜の開花は早まり紅葉は遅れることなどが解明された。第2のサブプロジェクトでは、屋上緑化によるヒートアイランド緩和を調査し、その緩和効果は屋上緑化の規模によることを解明した。すなわち、スポットタイプの屋上緑化よりはガーデンタイプの方が体感温度(WBGT値など)を下げる効果が大きく、ガーデンタイプよりもフォーレストタイプの方が効果が大きいことが分かった。心理効果についてはアンケート調査である程度まで把握できた。最後の第3のサブプロジェクトでは、立正大学構内に設置した特殊舗装面での熱収支観測により、透水性(セラック)と保水性(エコプレート)の舗装面がアスファルトやコンクリート面に比べて温熱緩和効果が大であり、より芝生面に近いことを見出した。歩道や駐車場などに適用でき温暖化緩和に役立つものとの確信を得た。
著者
中根 周歩 山崎 裕実 根平 邦人 福岡 義隆
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.111-118, 1988-03-01
被引用文献数
3

最近2年以内に山火事が発生した, 広島県芸南地方の宮島等の5カ所で, 1986年4〜11月に, 焼止まり線(山火事の延焼が止まつている部分)の植生およびその構造を各層(I〜IV層)の植生とその被度(5段階)によってタイプ分けし, 全焼止まり線と地表火跡地の林分を類別化した。また, 焼止まり線の地形を調べるとともに, 出火時の気象も考察した。山火事の発生しやすい気象条件として実効湿度とともに土壌含水率を目安とするとよいことがわかった。一方, 全焼止まり線のうち, 85%が森林で, 残りの15%が川, 道路や農耕地であった。焼止まり線になっている林分の98%はシダ(コシダやウラジロ)の植被率(C_S)は25%以下, さらに同林分の94%はI〜III層の被度の合計(C_H)に占めるアカマツ・スギの被度の割合が30%以下であった。また, 地表火跡地でもC_Sが25%以下であったが, A_O層中のアカマツ葉の割合が高く, そのため地表を火が走ったものと思われた。地形的には焼止まり線は谷部が最も多い(56%)が, 尾根や斜面上部(合計24%)でも見られた。さらには, 焼止まり線はこれらどの地形でも常緑広葉樹が優先する林分の頻度が高かった。