著者
稲垣 秀輝
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.196-206, 1999-10-10
参考文献数
10
被引用文献数
4 7

1998年9月21, 22日にかけて台風8号, 7号が本州に上陸し, 中部地方を中心として大きな風災害を引き起こした.とくに, 岐阜県七宗町では台風が通過して二, 三日後に集中豪雨が発生し, 台風で緩んだ地盤の多くの箇所で表層崩壊が発生し, それを引き金とした土石流災害が起こった.ここでは, 台風による風被害が山地森林の新しい植林地に集中していたことを述べるとともに, 風倒木による地盤の緩み状況を調べ, それがその後の豪雨による表層崩壊を発生させた原因であることを示す.森林植生の違いが斜面地盤の安定性にどう関与しているのか研究成果が少なく, 不明な点が多いのが現状である.一般的には, 保水, 土壌侵食防止効果が高く, 根系による地盤の緊縛効果, 杭効果が総合的に発揮される壮年期の混交, 複層林が有利とされている~(1).今回の研究成果はこれらのことを裏付ける結果となった.以下に調査の結果をまとめて示す.1)調査地においては風倒木被害は植林に集中しており(40〜60%の被害), 広葉樹の林では被害が少ない(1〜2%の被害).2)倒伏の被害の大きかった植生は, 基盤岩が1m以浅に位置し, 根鉢の深さが制限される地盤であった.また, 植林で間伐の行われていないところについても倒伏被害が多かった.これは間伐の行われていないところは根系の発達が悪かったためと推定される.3)風倒木のあった植林の地盤は, 表土のNc値が2以下と緩んでいることが明らかになり, 倒伏被害のなかった広葉樹地盤ではその緩みはほとんどなかった.4)風倒木地盤で表層崩壊が発生したのは, 地下水や表流水の集中しやすいやや沢地形の部分であった.5)倒伏地盤の斜面崩壊は風倒木を多量に含んでいるため, 多くの土石流を発生させやすいと考えられる.
著者
稲垣 秀輝
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.306-315, 1999-12-10
参考文献数
21
被引用文献数
6 1

1998年8月台風4号の接近に伴う豪雨が福島県南部〜栃木県北部に集中した.この豪雨で多くの斜面表層崩壊が認められた.これらの崩壊は侵食前線より下方の急斜面で多発しているとともに, 地下水や表流水の集中しやすい地形・地質条件で生じている.この表層崩壊は厚さ1m未満の根系を含む表土だけの崩壊で, 崩壊面には割れ目のほとんどない低溶結火砕流堆積物が露出しており、根系の付着は全く認められないことを特徴としている.ここでは, 根系層だけからなるこのような表層崩壊をその崩壊形態から「根系層崩壊」と呼び, その崩壊状況を説明するとともに, 斜面崩壊に対する植生の根系の防災効果について述べる.調査は, 空中写真による地形解析, 地表地質踏査および簡易貫入試験による地盤調査により行った.調査の結果, 根系層崩壊の特徴は以下のとおりまとめられる.(1)崩壊厚さが1m未満ときわめて薄いこと, (2)斜面傾斜が40°前後と急であること, (3)表流水や地下水が集まりやすい地形・地質で生じること, (4)根系のある表層の直下に岩盤が分布し, N_c値が2以下から50以上に急変すること, (5)表層直下の岩盤に根系が入り込む割れ目がないこと, (6)崩土内の立木が立ったままで崩土全体が速い速度で流下する等である.
著者
下野 勘智 菊本 統 伊藤 和也 大里 重人 稲垣 秀輝 日下部 治
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題) (ISSN:21856621)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1-10, 2016 (Released:2016-03-20)
参考文献数
18
被引用文献数
2

本研究では,災害の頻度や程度を表す曝露と災害に対する社会や経済の脆弱さを表す脆弱性の掛け合わせで定義される世界各国の自然災害に対するリスク指標World Risk Index(WRI)の算出方法を分析し,その意義と課題について考察を行った.つづいて,我が国でも防災・減災対策の合理化に資する総合的な自然災害リスク指標が必要であるという観点から,都道府県レベルで自然災害や社会・経済の様々な要素の相互関係を考慮してリスクを定量化する指標の算出体系について考察を行った.また,リスク指標を構成する脆弱性の中間指標の一つである災害感受性を47都道府県について試算し,結果について考察を行うとともに,我が国における自然災害に対するリスク指標が備えるべきリスク評価体系について議論した.
著者
菊本 統 下野 勘智 伊藤 和也 大里 重人 稲垣 秀輝 日下部 治
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題) (ISSN:21856621)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.43-57, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
53
被引用文献数
1 2

自然事象の頻度や程度を表す危険源,自然災害にさらされる人口割合を表す曝露,自然災害に対する社会や経済の脆さを表す脆弱性を定義し,規準化した過去の災害記録や統計データの重み付け線形和により計算し,それらの掛け合わせとして自然災害に対するリスクを評価する統合的指標を提案した.そして47都道府県を対象としてリスク指標を算出し,各都道府県が内包するリスクの特徴を考察するとともに,指標の意義を説明した.最後に,指標を用いたリスクの分析と管理の方法について議論した.
著者
下河 敏彦 稲垣 秀輝
出版者
一般社団法人 日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.72-77, 2013-06-10
参考文献数
10

2011(平成23)年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は,東北地方から関東地方の広範囲にわたり甚大な被害をもたらした.<br> 今回筆者らは,液状化しやすいとされていた臨海部埋立地のひとつである千葉県の稲毛海岸を中心に,東北地方太平洋沖地震による液状化発生地点の分布状況を調査した.<br> その結果,液状化発生地点は埋立て前の澪筋や古い埋立地の境界などに集中する傾向が認められた.澪筋の堆積物は<i>N</i>値5以下の砂質堆積物である.<br> このように,微地形分布状況と土地利用履歴,地質情報との関連を明らかにすることは,今後の地域防災計画にとっても重要な情報となる.
著者
稲垣 秀輝
出版者
Japan Society of Engineering Geology
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.196-206, 1999-10-10 (Released:2010-02-23)
参考文献数
10
被引用文献数
3 7

1998年9月21, 22日にかけて台風8号, 7号が本州に上陸し, 中部地方を中心として大きな風災害を引き起こした. とくに, 岐阜県七宗町では台風が通過して二, 三日後に集中豪雨が発生し, 台風で緩んだ地盤の多くの箇所で表層崩壊が発生し, それを引き金とした土流災害が起こった.ここでは, 台風による風被害が山地森林の新しい植林地に集中していたことを述べるとともに, 風倒木による地盤の緩み状況を調べ, それがその後の豪雨による表層崩壊を発生させた原因であることを示す.森林植生の違いが斜面地盤の安定性にどう関与しているのか研究成果が少なく, 不明な点が多いのが現状である. 一般的には, 保水, 土壌侵食防止効果が高く, 根系による地盤の緊縛効果, 杭効果が総合的に発揮される壮年期の混交, 複層林が有利とされている1). 今回の研究成果はこれらのことを裏付ける結果となった. 以下に調査の結果をまとめて示す.1) 調査地においては風倒木被害は植林に集中しており (40~60%の被害), 広葉樹の林では被害が少ない (1~2%の被害).2) 倒伏の被害の大きかった植生は, 基盤岩が1m以浅に位置し, 根鉢の深さが制限される地盤であった. また, 植林で間伐の行われていないところについても倒伏被害が多かった. これは間伐の行われていないところは根系の発達が悪かったためと推定される.3) 風倒木のあった植林の地盤は, 表土のNc値が2以下と緩んでいることが明らかになり, 倒伏被害のなかった広葉樹地盤ではその緩みはほとんどなかった.4) 風倒木地盤で表層崩壊が発生したのは, 地下水や表流水の集中しやすいやや沢地形の部分であった.5) 倒伏地盤の斜面崩壊は風倒木を多量に含んでいるため, 多くの土石流を発生させやすいと考えられる.
著者
稲垣 秀輝
出版者
公益社団法人地盤工学会
雑誌
土と基礎 (ISSN:00413798)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.27-29, 2001-04-01
参考文献数
8
被引用文献数
5

This paper describes the land use and natural disaster with related to the topography and geology in Kozu island, Izu islands. There are three types of disasters based on the topography and geology except the damage from volcano eruption. Moreover, I summaries features of the damages from many volcanic earthquakes hit around the area of off shore near Kozu island on July, 2000. Finally, many investigations on the disaster protection and the way of living at various volcanic regions are expected.
著者
下河 敏彦 稲垣 秀輝 大久保 拓郎
出版者
一般社団法人 日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.345-349, 2010-02-10
参考文献数
4
被引用文献数
2

近年, 豪雨や地震による自然災害およびそれらに関連する情報の増加によって, 市民の防災意識が高まり, 既存の宅地や斜面・構造物の維持管理に強い関心が向けられている. これに伴い, 市民からの地形・地質調査依頼も増えてきている. 筆者らは, 宅地や近接する擁壁の点検や, ハウスメーカーの地盤調査結果に対する再調査, 災害の危険性をめぐる近隣住民間での訴訟など, 市民からの依頼調査に携わってきた. 本報告は,これらの事例をもとに, 市民の相談窓口の設置や, 地形発達史・地質的背景を踏まえた調査の価値を高めるための取り組みや, 地質技術のアウトリーチのあり方についてまとめた.