著者
木村 誇 後藤 聡 佐藤 剛 若井 明彦 土志田 正二
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.43-49, 2016 (Released:2016-04-27)
参考文献数
15
被引用文献数
3

平成25年台風26号の通過に伴う豪雨によって,伊豆大島火山のカルデラ外縁斜面では,火山砕屑物層の表層崩壊と崩土の長距離移動が発生し,元町地区で甚大な土砂災害を引き起こした。このような火山地域特有の土砂災害を防ぐためには,崩壊予備物質となる火山砕屑物の層厚分布を把握する必要がある。伊豆大島火山の噴火史研究(小山・早川,1996)に記載されたデータをもとに,クリギング法を用いて斜面に堆積したテフラとレスの互層からなる火山砕屑物の層厚分布を推定し,現地で実測した層厚と比較した。その結果,テフラの降下量が均質でほぼ同じ層序・層厚をもつと考えられた範囲(大金沢流域:1.2km2)において,テフラ層厚および累積層厚に,推定値との比でそれぞれ0.2~2.2倍と0.8~1.9倍の較差があることが明らかになった。
著者
大八木 規夫
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.10-21, 2003-05-25 (Released:2010-03-16)
参考文献数
64
被引用文献数
1

1997年に発生した澄川地すべりの研究を契機として, 東北地方に見い出される大規模な地すべり地形はカルデラ火山に関係しているものが多いことが明らかになってきた。 東北地方には後期中新世から後期更新世にかけて形成されたカルデラが80箇所ほど存在している。 これらカルデラと大規模地すべり地形との関係をカルデラ火山の解体期における削剥過程に沿って次の3亜期に区分して概観した。 1) 後カルデラ火山体および外来火山岩削剥亜期では, 中小規模の地すべりや火山体の山頂部での変形がみられる。 2) 湖成堆積物削剥亜期では, 湖成堆積物の上位に残存している火山体には大規模な地すべり地形が認められ, また, グラーベンと放射状地すべりからなる変形がある。 湖成堆積物の地表面では中小規模の地すべりが多発して不規則な地形を示す。 3) カルデラ形成期の火砕流堆積物削剥亜期では, 崩壊や土石流の発生が著しく, 土砂災害としても注目される。 なお, 湖成堆積物は, その塑性変形をしやすい物性, 上位の後カルデラ期火山岩類とによるキャップロック構造の形成, 差別的侵食作用, 熱水作用の側方への拡大など, 地すべり形成に対して多面的に重要な素因となっている。
著者
菊池 聡
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.286-292, 2018 (Released:2019-01-08)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

一般市民が災害リスクを正しく認識して適切な対処行動をとることができるか, という点は, 災害にかかわる心理学の重要なテーマのひとつである。特に, 発災時に迫り来る危険を適切に判断できず, 避難や対策が遅れて大被害につながる例は多く知られている。人の思考や判断過程における認知情報処理を扱う心理学の諸研究からは, 緊急時にこうした不適切な意思決定を引き起こす認知バイアスが数多く指摘されている。本稿ではリスク認知心理学の観点から, 正常性バイアスをはじめとした災害時の認知バイアスの性質について概観した。その上で, 防災減災のための施策においては, こうした認知バイアスの特性を考慮した計画立案とリスクリテラシーの向上が重要であることを提言した。
著者
日浦 啓全 有川 崇 バハドゥール ドゥラドゥルガ
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.323-334, 2004-11-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
17
被引用文献数
22 17

近年の関東以西の市街地周辺の山麓部での放置竹林の拡大は目に余るものがある。平成10年9月に高知市を中心とする地域をおそった前線性豪雨では市街地の洪水被害のみでなく, 都市を取り巻く山地の山麓部で多くの崖崩れ災害が発生し, しかもその約1/3の地点に竹林が見られた。竹林と崩壊現象の因果関係の解明は, まだ緒についたばかりであるが, 今後, 都市域での土砂災害の典型となることが懸念される。土壌の物理的性質からは表層部の透水性が大きく, そのため表層部に雨水が集中し, 斜面の不安定化を惹起する懸念がある。筆者らは, 竹林土壌の物理性を調べると共に竹林内において貫入試験を実施した。これらの結果をもとに崩壊モデルを提案した。このモデルは今後, 放置竹林の管理のあり方を考えていく上で, さらには土地利用や斜面の不安定化と竹の存在の関連を考えていく上で有効なものとなることが期待できる。
著者
阿部 和時 黒川 潮 竹内 美次
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.225-235, 2004-09-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
16
被引用文献数
5 6

間伐は健全な人工林を成立させ, 良質な木材を生産するために欠くことのできない重要な施業である。近年, 日本の人工林では森林・林業を取り巻く情勢が悪化して間伐を実施することができず, 細い木が林立した立木本数密度の高い人工林が増えている。このような林分では根系の発達が悪く, 森林が持つ表層崩壊防止機能が劣るのではないかとの懸念が強い。このため, 既往の研究をもとに間伐の影響も加えた森林の崩壊防止機能を評価できる方法を提案することを目的とした。ここでは日本の主要造林樹種であるスギの人工林を対象とした。本手法を提案するに当たり, 立木密度1400本/haの間伐林分と3400本/haの非間伐林分における根系分布状態を比較調査した結果, 根の全体積や深さ方向への体積分布, 最大分布深さ等について両者の間に明瞭な違いがなかったため, 根の分布量推定には同じ方法を用いることにした。また, 間伐された木の根が徐々に腐朽して崩壊防止機能が減少する過程を根の引き抜き試験によって調査したところ, 間伐後約10年で根の引き抜き抵抗力は消失することが明らかになった。これらの調査結果を加え, 間伐・非間伐林分における崩壊防止力の変化を評価できる手法を完成した。この手法を用いてシミュレーションしたところ, 強い間伐を多く実施した林分の方が崩壊防止力は低いことが示された。特に, 30~40年生以上の壮齢林における間伐は崩壊防止力の上昇傾向を大きく鈍らせた。しかし, 一般的に間伐が15年生頃から行われることを考えると, 表層崩壊が多発しやすい20年生以下の幼齢林では間伐の影響が現れることはなかった。また, 20年生以上の林分で一般的な強度の間伐が行われても, 斜面安全率が1.0を下回らないことが示された。この結果から, 間伐は病中害や気象害などに強い健全な森林を造成するために実施し, このような健全な森林が形成されることで必然的に崩壊防止機能も発揮されると考えるべきであることを指摘した。
著者
井口 隆
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-9, 2003-05-25 (Released:2010-03-16)
参考文献数
65
被引用文献数
3 5

日本列島には多くの火山が分布している。 火山地域は特有の地形地質条件を持つ為そこで生じる土砂移動現象も他の地域とは大きく異なる。 日本の火山地域では各種の地すべり災害がしばしば起きてきたため, それらを対象として様々な角度からの研究が行なわれて来た。 本稿は特集号の総説として, 火山地域で発生する地すべり災害の特徴, 火山地域における地すべり災害の歴史的経緯と研究史について並行的に論述する。 また最近の研究成果について概観するとともに今後の研究課題についても論じてみたい。
著者
佐藤 剛 木村 誇 廣田 清治 鄒 青穎 八木 浩司
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.129-134, 2019 (Released:2019-06-07)
参考文献数
6
被引用文献数
3 4

A heavy rain event in July 2018 caused many natural disasters such as landslides and floods in western Japan. Many shallow landslides were induced by heavy rain between the night of July 6 and the morning of July 7 in Gogoshima Island, which is located offshore of Matsuyama City, Ehime Prefecture. The main industry of the island is the cultivation of oranges. However, the orange farming infrastructure was devastated by shallow landslides across a large portion of the island. We created a spatial distribution map of the shallow landslides, based on interpretation of the SPOT-7 satellite imagery, to understand their characteristics. Moreover, the mass movement processes were clarified using the results of geomorphological and geological field surveys. The analysis revealed the following : 1) The shallow landslides induced by the heavy rain event were distributed across the island, and the total number of landslides was 207. 2) Relatively elongate, shallow landslides are distributed on the slopes of Mt. Kofuji. The shallow landslide materials changed to debris flows. 3) The field survey revealed that the heads of shallow landslides are located on the geological boundary between granodiorite and andesite. The landslide material was formed of loose, highly weathered granodiorite, called “masa” in Japanese, and thermally metamorphosed granodiorite. 4) The previous debris flow deposits that filled the gullies were eroded by the new debris flows and flash floods.
著者
日浦 啓全 有川 崇 バハドゥール ドゥラドゥルガ
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.323-334, 2004
被引用文献数
1 17

近年の関東以西の市街地周辺の山麓部での放置竹林の拡大は目に余るものがある。平成10年9月に高知市を中心とする地域をおそった前線性豪雨では市街地の洪水被害のみでなく, 都市を取り巻く山地の山麓部で多くの崖崩れ災害が発生し, しかもその約1/3の地点に竹林が見られた。竹林と崩壊現象の因果関係の解明は, まだ緒についたばかりであるが, 今後, 都市域での土砂災害の典型となることが懸念される。土壌の物理的性質からは表層部の透水性が大きく, そのため表層部に雨水が集中し, 斜面の不安定化を惹起する懸念がある。筆者らは, 竹林土壌の物理性を調べると共に竹林内において貫入試験を実施した。これらの結果をもとに崩壊モデルを提案した。このモデルは今後, 放置竹林の管理のあり方を考えていく上で, さらには土地利用や斜面の不安定化と竹の存在の関連を考えていく上で有効なものとなることが期待できる。
著者
八反地 剛 森脇 寛
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 : 地すべり = Journal of the Japan Landslide Society : landslides (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.45-51, 2011-01-25
参考文献数
21
被引用文献数
3

神奈川県・静岡県の丹沢地域および箱根地域の地すべり地形分布図を用いて地すべり斜面の地形解析を行ない, 各地域の等価摩擦係数 (以下H/Lとする) , 土塊の拡散性の違いについて議論した。いずれの地域においても, 地すべりの規模 (発生域の面積) とH/Lの関係は不明瞭で, H/Lは発生域の斜面勾配に比例する傾向が明瞭であった。また, 箱根地域における斜面勾配とH/Lの比例関係から得られたH/Lの予測下限値が, 箱根地域で発生した早雲山地すべりのH/Lの実測値とよく一致し, 地すべり地形分布図から得られるH/Lの予測下限値の有用性を確認した。地すべり地形斜面の発生域と流下堆積域を含む全体の面積と発生域の面積の比 (土塊拡散率) は多くの地すべりで1. 0から2. 0の範囲にあったが, 箱根地域では2. 0を超える地すべりが3例あった。箱根地域は丹沢地域に比べてH/Lが小さくなりやすく土塊拡散率が高いことから, 地すべり災害が発生した場合被害が拡大しやすいことが予想される。
著者
Alexander STROM
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.309-324, 2010-11-25 (Released:2011-09-22)
参考文献数
44
被引用文献数
24 51

The Central Asia region has been a scene of numerous large-scale bedrock landslides that have blocked river valleys producing landslide-dammed lakes, more than 100 of which still store water. The largest one is the Usoi dam 2.2 km3 in volume and more than 550 m high in Pamirs (Tajikistan) that originated in 1911 due to strong (M7.2) earthquake. It forms the 500 m deep Sarez Lake - the world deepest natural reservoir that poses a threat to Central Asian countries located downstream in the Pianj - Amu Daria River basin. Though many of landslide-dammed lakes should be considered as stable and safe features, catastrophic outburst floods that occurred in 20th Century, emphasize high potential hazard of such natural blockages. Several prehistoric landslide-dammed lakes in Pamirs and Tien Shan with intact dams were filled by lacustrine sediments, but most of natural dams were breached and deeply eroded providing excellent opportunity to study their internal structure and grain-size composition - parameters determining dams' short-term and long-term stability at a large extent. Additional factors, increasing or decreasing rockslide dams stability are exemplified by case studies from the Central Asia region.
著者
山野井 徹
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.17-25, 2005-05-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
6

道路開設によって地すべり地の頭部に良好な露頭が現れ, この露頭の観察を行った。この区域での堆積物の地質学的記載を行い, 成因的に3つの相に区分した。それらの相は地すべり侵食の1サイクルとしての堆積シーケンスである。すなわち,(1) 斜面にマスムーブメントとしての地すべり事件が発生する (「事件相」の形成) 。この際, 凹凸のある低地ができて堆積の場が生ずる。 (2) 低地の凹凸は, そこに流入する水の作用が主体となって, 侵食と埋め立てが速やかに進行して平滑化が進む (「修復相」の形成) 。 (3) やがて侵食物質の供給が弱まると風成層の堆積が卓越し, ゆっくりとした堆積により表層が覆われていく (「被覆相」の形成) 。地すべり地のシーケンスや多重シーケンスを解析することにより地すべり地の詳細な履歴を知ることができる。