著者
山崎 しおり 稲谷 ふみ枝 野中 雅代 Masayo Nonaka
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.9, pp.57-61, 2010

近年,高齢者に対する心理的援助の技法として回想法が注目されており,国内でも福祉,介護場面で広く実践されている。本研究では,この回想がライフサイクルにおける老年期の特徴的な現象であるのか,1)日常的な回想頻度やその質的内容について,2)中年者と高齢者を比較し,さらに3)心理的ウェルビーイングと回想の質との関係について明らかにすることを目的とした。方法:65歳以上の高齢者34名(平均72.6歳)と,50歳代の中年者44 名(平均51.4歳)を対象とし,測定尺度は,①肯定的回想尺度,②否定的回想尺度,③再評価傾向尺度,④回想の頻度,⑤心理的ウェルビーイング尺度の5つを用いて,質問紙調査を2008年7月から8 月に実施した。その結果,「回想の頻度」で高齢者と中年者との間に有意差が認められ,内容としては「ひまなとき」,「何かで悩んでいるとき」,「寝るときや眠れないとき」の3場面で高齢群が中年群より有意に高いことが示された。さらに心理的ウェルビーイングが高い高齢者は良質の回想をする傾向が高く,回想の頻度も高いことが示された。これらの分析から,成人後期以降の回想の特徴と心理的ウェルビーイングとの関係が明らかとなり,高齢者に対して回想法を適用することの妥当性が示唆された。
著者
村田 伸 津田 彰 稲谷 ふみ枝 田中 芳幸
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.88-95, 2005-04-20
被引用文献数
24 29

本研究は, 在宅障害高齢者110名(平均年齢83.1歳, 男性17名, 女性93名)を対象に, 転倒歴と注意力及び身体機能を評価し, 転倒に影響を及ぼす要因を検討した。転倒経験群28名, ニアミス(転倒しそうになった)体験群33名, 非経験群49名の3群間の比較において, 転倒経験群とニアミス体験群のTrail making test-Part A(TMT-A)は, 非経験群より有意に小さく, 身体機能の自己認識の逸脱は有意に大きかった。また, 転倒経験群の最大一歩幅, 歩行速度, 足把持力, 足関節背屈角度の4項目は, ニアミス体験群と非経験群より有意に低値を示した。さらに, 転倒歴の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析の結果, 注意の指標としたTMT-A, 足把持力, 足関節背屈角度のオッズ比が有意であった。本結果は, 立位姿勢保持が不安定な在宅障害高齢者では, 身体機能の低下, とくに足把持力や足部可動性などの足部機能の低下が転倒の危険因子であることのみならず, 注意力の低下も転倒を引き起こす重大な要因であることを明らかにした。
著者
稲谷 ふみ枝 津田 彰 村田 伸 神薗 紀幸
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.7, pp.35-40, 2008
被引用文献数
1

本研究の目的は,高齢者介護施設職員の精神的健康度に対するワークストレスとその認知的評価の影響を検討することである。対象は,特別養護老人ホームとグループホームに勤務する46名(男性8名,女性38名),平均年齢43.1歳±11.8,平均勤続年数4.4年±2。7である。指標は,(1)GHQ28,(2)離職状況,(3)Zarit介護負担感尺度の改訂版,(4)介護ストレス認知評価尺度・身体的消耗感,(5)仕事の魅力・コントロール・介護信念評価尺度等。対象者のGHQの平均得点は7.6(GHQ法)で全体的に健康度が低く,GHQのハイリスク群の特徴として,年齢が若く主観的健康状態が不良で,仕事以外の心配事を抱えていた。精神的健康度の影響要因として,身体的消耗感,介護負担感の個人負担因子が抽出された。またFollow-up期間中に離職した8名全員が,第1回目調査時のハイリスク群に属していたことが明らかとなった。
著者
稲谷 ふみ枝 津田 彰
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.5, pp.81-90, 2006

本研究の目的は,高齢者デイケアにおける,老年期うつ病(回復期)の不眠や不安,抑うつ感情を主訴とする高齢女性に対するライフレビューを中心とする個人心理療法および施設で暮らすクライエントの環境調整の適用について,事例から検討するものである。利用者に対する心理アセスメント及び心理面接の経過を生涯発達的視点から分析し,高齢者施設における利用者のQOLを高める包括的アプローチの在り方を考察した。方法として(1)傾聴とライフレビュー,(2)薬物療法の自己管理に向けた支援を中心に,クライエントの不眠と不安状態の改善を目的とした弛緩法を取り入れ,(3)日常のなかでクライエントの心理的適応と活動性を向上させるための環境調整を行った。その結果,ライフレビューによる心理的変化として,高齢者の心理的安寧につながる家族(娘)との心の絆の再確認が示される一方,クライエントのうつ状態の背景となる心理的要因として「信仰と罪悪感」「居場所(心の安住)の模索と見捨てられ感」が示され,それらがクライエントの関係性を改善するためのポイントとなった。高齢者ケアの現場では,高齢者のこころの問題への接近のなかで統合的に関わることや,そのために他職種との連携をとること,さらにクライエントの心理的適応を促すための環境調整を図るなどの包括的心理的援助の重要性が示された。
著者
津田 彰 森田 喜一郎 高橋 裕子 磯 博行 矢島 潤平 辻丸 秀策 津田 茂子 福山 祐夫 稲谷 ふみ枝 森田 徹 岡村 尚昌子
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,多理論統合モデル(TTM)をストレスマネジメント行動(1日20分以上健康的な活動を行う)の変容に適用して,大学生集団を対象とする介入を行うことを目的とした。TTMをストレスマネジメント行動に適用するために,まず日本語版TTM尺度を開発した。次いで,ワークブックとエキスパート・システム(アセスメントに応じてストレスマネジメント行動を獲得維持するためのアドバイスを与える)を開発して,その効果をランダム化比較試験により比較検討したところ,個別最適化アプローチによりストレスの自覚が緩和し,ストレスマネジメント行動の実行者の割合が増加することが示された。