著者
河野 俊彦 高橋 正人 立木 幸敏
出版者
国際武道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

先行研究や我々の調査では、蛋白同化ステロイドホルモン(以下AAS)を利用するスポーツマンか存在していると予想される。しかしながら、その副作用についての詳しい報告、特に血液生化学的、内分泌学的、病理組織学的検索を総合的に行われたものはあまり見あたらない。我々はアンチドーピングの精神に基づき、動物実験系を用いて、現在Dopingとして行われている使用方伝(スタッキング、ステロイドサイクル)を取り入れ実験を行った。その結果、血液生化学的検索では薬物投与群に赤血球数などが高値を示した。また内分泌学的検査では薬物投与群でテストステロン、ジヒドロテストステロン、エストラジオールか高値を示した。病理学的検索では心臓、精巣および副腎に変性が観察された。さらにAAS投与ラットにジャンプトレーニングなどの運動を行わせた実験では、AAS投与による副作用は同様に起こることが確認され、さらに赤血球の増加、心臓の肥大、GOT、LDHの上昇などの副作用が運動によって助長され、より強く現れることが確認された。ステロイドサイクル1サイクルのピーク時と比較して、休薬時にも薬物投与群の内分泌学的変化は継続しているものと考えられる。AASの注射薬としての半減期に依存するものであるが生体への影響は長期間続くものと考えられる。また心臓をはじめとした臓器にみられた変性がこれを裏付けているものと考えられる。よってスポーツの現場で競技力向上を目的に安易にAASを使用することは不公正の点ばかりではなく副作用の点でも避けるべきであるといえよう。
著者
立木 幸敏
出版者
国際武道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

Wistar系雄ラット(6週齢)を37匹を用い、1週間の予備飼育の後、実験を開始した。方法については、実際にスポーツ選手らが行っているドーピングの現状にできるだけ合わせ、複数の薬剤投与(いわゆる「スタッキング」)を行い、また、薬剤の投与方法は投与・休薬・投与を繰り返すいわゆる「ステロイドサイクル」を使用した実験を行った。A群(12匹)は薬剤3種類を1週間に1回皮下注射をする群、B群(12匹)は1種類を1週間に1回皮下注射する群、そしてC群(13匹)を対照群とした。また屠殺時期に関しては、動物の行動に『躁』の所見が得られたところで各群半数屠殺(4週後)し、残りの半数は『鬱』の飼育所見が得られたところで屠殺(8週後9を行うこととした。このような精神状態の変化が現れることは先行研究により観察されていたことからこの時期を決定した。また、ジャンプトレーニング群を作成し同系の薬物投与を行った。屠殺においてはエーテル麻酔下で心臓より血液採取し、生化学的、内分泌学的検索を行った。また屠殺後、骨格筋をはじめとした各臓器を摘出し、その湿重量を測定した後、パラフィン切片から組織染色を行い組織学的検索を行った。心筋では副作用が原因と見られる変化は8週後に起こることが明らかになった。精巣においても8週後にライディッヒ細胞の減少が明かであり、腺性肥大も認められた。内分泌学的には8週後にはエストラジオールが投薬群において有意に高値を示し、鬱的な観察所見を裏付ける結果となった。これらの実験からステロイドサイクルを1サイクル(6週)を使用しても生体へ影響は多大であり、筋へのトレーニング効果が出る以前すでに内臓諸器官に大きな副作用があることが本実験で解明された。ラットを使用した動物実験であるが、ステロイドはスポーツ選手が安易に競技力向上目的に使用すべきではない。