著者
山口 正己 土師 岳 西村 幸一 中村 ゆり 八重垣 英明 三宅 正則 京谷 英壽 吉田 雅夫 小園 照雄 木原 武士 鈴木 勝征 福田 博之
出版者
農業技術研究機構果樹研究所
雑誌
果樹研究所研究報告 (ISSN:13473549)
巻号頁・発行日
no.5, pp.39-49, 2006-03

1. 'なつおとめ'は,'あかつき'と'川中島白桃'の出荷の谷間を埋める,果実品質が優れ,大玉のモモ品種育成を目的に,'あかつき'に'よしひめ'を交雑して得られた実生から選抜された中生のモモ新品種である。交雑は果樹試験場千代田圃場(現果樹研究所千代田圃場)において1984年に行われ,1987年春に育種圃に定植,同年7月に初結実した。1990年に第1次選抜され,1992年よりモモ第7回系統適応性検定試験に供試され,1999年8月に命名登録,2002年7月に品種登録された。2. 樹勢はやや強,樹姿はやや直立する。新梢の発生は多く,花芽の着生も良好で,花は単弁普通咲きで花粉を有し,結実は極めて良好である。開花期は'あかつき'とほぼ同時期である。収穫期は'あかつき'の1週間程度後になる中生品種である。3. 果実は扁円形で果実重は230g程度であるが,場所によっては350gを超える果実も収穫されており大玉果が期待できる。果皮の地色は白,着色は多く,玉揃いも良好で外観は優れる。果肉は白色で,溶質,粗密は密~やや密,果汁多く,糖度は14%余り,酸は少なく食味は良好である。4. せん孔細菌病,灰星病の発生が見られるが慣行防除により特に大きな問題とはならない。過熟になると果肉内に水浸状の異常,いわゆるみつ症状が現れることがあるので注意が必要である。5. モモの全栽培地域で栽培が可能である。特に中生モモの出荷時期の平準化に有効であり,普及が期待される。
著者
武田 敏秀 島田 武彦 野村 啓一 尾崎 武 土師 岳 山口 正己 吉田 雅夫
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.21-27, 1998-01-15
参考文献数
16
被引用文献数
2 21

アンズの系統分類にRAPD分析法を適用した.DNA多型を効率的に検出するために, 5種類の代表的な品種を供試して, 225種類のオペロンプライマーについてスクリーニングを行い, 各系統間で複数のDNA多型を示す有効な18種類のプライマーを選抜した.次にこれらのプライマーを用いてアンズ33品種・系統と近縁の野生2種の分類を試み, 検出されたRAPDsをもとにクラスター分析と数量化理論第三類を用いてデータの解析を行った.その結果, 本実験で供試したアンズ(Prunus armeniaca)の品種・系統は中国西部からヨーロッパにかけて分布する"西方品種群"(A)と中国東部, 日本などに分布する"東方品種群"(B)の2群に大別された.しかしながら, 近縁野生種のP. sibiricaとP. brigantina, 中国の西部から北部に分布し, 諸特性が不明である'白杏', およびスモモとアンズの自然交雑種とされる'仁杏'はこれらの群に属さなかった.また, 中国の品種はA群およびB群の両方に属し, 遺伝的変異が大きいことから日本アンズ, ヨーロッパアンズの祖先種である可能性が高いと推察した.
著者
佐藤 義彦 土師 岳 叢 花 潘 儼 上田 恵理子 間瀬 誠子 山本 俊哉 山口 正己 廬 春生
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
植物遺伝資源探索導入調査報告書 = Annual report on exploration and introduction of plant genetic resources (ISSN:24347485)
巻号頁・発行日
no.23, pp.137-151, 2007-11

A survey for the distribution, utilization and conservation of fruit tree genetic resources was conducted in south-western part of Xinjiang Uygur Autonomous District of China in cooperation with scientists of Xinjiang Academy of Agricultural Sciences from September 2 to 10, 2006. The abundance and diversity of the pear and stone fruit were observed in the region visited. Local varieties and seedlings of peach (Prunus percica ) and Xinjiang peach (P. ferganensis ) were observed in the region surveyed. Local variety 'Suan Mei', which is thought to be P. domestica , is cultivated in south-western part of Xinjiang Uygur Autonomous District. Local varieties of three Pyrus species, P. × bretschneideri, P. armeniacaefolia and P. communis and their interspecific hybrids are distributed mainly in south-western part of Xinjiang Uygur Autonomous District. Besides these three species, P. betulaefolia is used as rootstock for Pyrus. But the diversity of these local varieties is rapidly declining with the spread of commercial cultivars that were introduced from other provinces. Analyses for genetic diversity of pear and stone fruits based on molecular markers were carried out.
著者
村松 昇 田中 敬一 朝倉 利員 立木 美保 土師 岳
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.541-545, 2004-11-15
被引用文献数
2 2

モモ果実由来の細胞壁中のアルカリ性溶液に可溶のペクチン性多糖類の単離及び分析を行った.モモ果実の粗細胞壁から,水とキレート剤(CDTA)によって溶出される多糖類を取り除いた後50mM Na_2CO_3, 1 M KOH及び4 M KOHを使って分画した.分画された多糖にイオン交換カラム・クロマトグラフィー(DEAE-Sepharose 5 cm×30 cm)を用いて,さらに分画を試みた.その結果,50mM Na_2C0_3画分の多糖類は更に分画できなかったが,1 M KOHでは3つ(1 M KOH-a, b, c), 4 M KOH (4 M KOH-a, b, c, d)では4つに,それぞれ分画できた.1 M KOH可溶性画分のうち酸性多糖類を含む分画(1 M KOH-b, c)についてさらに分析を行った.分画b及びcの主要な糖はそれぞれキシロースとアラビノースであった.分画bとcにゲルろ過(Sepharose CL 4B 1.5 × 30 cm)を行った結果,分画bの方が分画cよりも明らかに分子量が低かった.また,未熟果(8月7日収穫)から得られた細胞壁は過熱果(8月24日収穫)よりも分子量が両分画とも高かった.さらに,キシラナーゼ処理と糖分析の結果から,分画bはキシランとラムノガラクツロナンの複合糖鎖であると推定された.また,分画cは糖分析と加水分解の結果から,キシログルカンとラムノガラクツロナンの複合糖鎖であると推定された.
著者
島田 武彦 土師 岳 山口 正己 武田 敏秀 野村 啓一 吉田 雅夫
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.543-551, 1994
被引用文献数
14 20

95種類の10m erのオペロンプライマーを用いて, RAPD分析法により59品種•系統のウメの品種分類を行った. ウメを小梅•台湾梅品種群, 中梅品種群, 大梅品種群, 杏梅品種群に分け, 各々の品種群について分類を行った. 小梅と台湾梅のグループは遺伝的変異が小さく, アンズの形質をほとんど含んでいなかった. 台湾野生梅は中梅品種群とは遠縁で, 明らかに異なっていた. '室谷'と'藤之梅', '小向'と'古城', '鈴木白'と'太平'では相互の識別ができず, これらは異名同品種である可能性が高いと考えられる'豊後'はウメとアンズの雑種であることが証明された. '高田梅'はアンズにかなり近縁であることが確かめられた.RAPD分析法は近縁な品種問でもDNA多型を十分に検出できるので, 従来の方法では識別できなかった異名同品種や同名異品種を識別することも可能であると推察される.<BR>RAPD分析の結果, 実ウメは次の7つのグループに分類できた. 1) 台湾梅品種群, 2) 小梅品種群, 3) 中梅品種群, 4) 大梅 (白花) 品種群, 5) 大梅 (桃花) 品種群, 6) 杏梅品種群, 7) 李梅品種群. 花ウメは実ウメと遺伝的特性は近いものと考えられ, 中梅品種群, 大梅品種群, 杏梅品種群のいずれかに属するものと推察される.
著者
山本 俊哉 持田 耕平 今井 剛 土師 岳 八重垣 英明 山口 正己 松田 長生 荻原 勲
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, 2003-03-01

17種類のマーカーを用いて,交雑育種で育成されたモモ9品種,枝変わり2品種,偶発実生由来5品種の合計16の日本のモモ栽培品種の親子鑑定を行った.交雑育種により育成された9品種では,すべてのSSR座において親の対立遺伝子が矛盾なく子供に伝達されていたことから,親子の関係が確認された.枝変わり品種の「暁星」は,原品種の「あかつき」と全く同じ遺伝子型を示したことから,枝変わりであることが示唆された.一方,枝変わり品種とされる「日川白鳳」では,原品種の「白鳳」と比較して,12ヶ所のSSR座で異なる遺伝子型を示した.このことから「日川白鳳」は「白鳳」の枝変わりではないことが明らかとなった.偶発実生由来と考えられている4品種「阿部白桃」,「川中島白桃」,「高陽白桃」,「清水白桃」では,各SSR座で推定親の「白桃」の対立遺伝子の一方を持っていた.これらの結果から,この4品種は,枝変わりではなく,「白桃」の子供であることが示唆された.以上のことから,SSRマーカーは,限られた遺伝資源に由来しているとされる日本の栽培モモ品種の親子鑑定に有効に利用することができた.
著者
土師 岳 八重垣 英明 山口 正己
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.97-104, 2004-03-15
被引用文献数
19

日待ち性が異なる生食用モモ品種について,果実の肥大,成熟および老化の過程を通して果実重,果皮の地色のa値,果肉硬度,糖度,滴定酸音量,エチレン生成量の推移を調査し,熱度の指標の相互関係すなわち成熟特性の差異とエチレン生成特性との関連を検討した.溶質品種の'あかつき','櫛形白桃'および'長沢自派'はいずれも満開後日数の経過とともに果実肥大,地色の抜け,桧皮の上昇,滴定酸音量の低下が進み,特定の日以降収穫によりエチレン生成と軟化が明瞭に促進されるようになった後,樹上でのエチレン生成が認められるようになった.しかしエチレン生成と熱度の指標の進行との間には大きな品種間差異が見出され,'櫛形白桃'は果実肥大の途中で地色が残り,精度が急速に増加する前であってもエチレンを多く生成し軟化が進んだのに対して,軟化が遅延する'長沢自派'では果実肥大と植皮の上昇を終え地色が抜けた後にエチレン生成が始まった.また硬肉品種の'有明'ではエチレン生成と収穫後の軟化が認められず,樹上での果肉硬度は4.0kg前後までしか低下しなかったものの,果実肥大,地色の抜け,糖度の上昇,滴定酸音量の低下は溶質品種と同様に進んでいた.以上の結果から,モモでは果実の軟化特性とともに成熟特性にも大きな品種間差異が認められ,その発現にはエチレン生成開始時期の遺伝的差異が重要な働きをしていると考えられた.