本研究は、貧困家庭の増加など、子どもをめぐる成育環境の悪化が社会問題化し、家庭の社会経済的背景に由来する教育格差が拡大・再生産される懸念が生じている中で、国内外の格差是正のための先導的事例を検証し、我が国の施策に資する知見を提供することを目的としている。平成29年度は、英国に焦点を当て、子供の貧困に関する関係書籍や文献による分析を行い、併せて英国での現地調査を実施した。英国の現地調査では、英国に在住する海外共同研究協力者とともに子供の貧困問題を扱うチャリティ団体を特定し、視察・関係者への聞き取りを行った。訪問したチャリティ団体は、①就学前教育や保育の分野の研究にさまざまな助成金を提供しているNuffield Foundation、②ロンドン市長がパトロンでロンドンの貧困層の子供たちを対象にウェルビーイング、スキル、雇用と起業に関する支援を行うThe Mayor's Fund for London、③Lambeth地区の貧困家庭に対し10年計画の早期介入プログラムを多機関連携により実施しているLambeth Early Action Partnership、④ホームレスの若者に住居を提供、雇用支援、教育(英語、リテラシー、ITスキル、職業訓練、幼児教育、育児教育)などを通して雇用機会や社会復帰を支援するThe Cardinal Hume Centre、⑤貧困と子供の保護に関するプログラムを提供することを通じ課題を把握し国、地方自治体への政策提言を行っているThe Children's Society、⑥貧困、恵まれない環境、社会的孤立状態にある人々への実践的、情緒的、財政的支援を行う英国で最も古いチャリティの一つであるFamily Actionである。これらの聴取内容の一部は、雑誌『社会教育』に、英国NPO(チャリティ)の事例紹介として連載している。