著者
海原 康孝 笹原 妃佐子 新里 法子 山崎 健次 香西 克之
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.435-441, 2017-11-25 (Released:2018-11-25)
参考文献数
22

現在,小学校には児童虐待の早期発見努力義務が課され,関係機関と連携し虐待防止に取組むことが求められている。また,歯科医療関係者の児童虐待防止への関与が期待されている。 そこで,学校歯科健康診断の結果が児童虐待の早期発見のためのスクリーニング指標となりうるかどうかについて検討し,以下の結論を得た。1 .学校歯科健康診断を受けた小学生総計3,569 名(男児1,843 名,女児1,726 名)のうち,虐待を受けた児童(「虐待あり」群)は89 名(男児43 名,女児46 名)であった。2 .「虐待なし」群および「虐待あり」群のそれぞれ約90%が,乳歯の未処置歯数が2 本以下であった。3 .「虐待なし」群の95.00%,「虐待あり」群の93.26%が,永久歯の未処置歯数が0 本であった。4 .「虐待なし」群の84.94%,「虐待あり」群の87.64%が,歯垢状態のスコアが0 であった。5 .「虐待なし」群の87.04%,「虐待あり」群の91.01%が,歯肉状態のスコアが0 であった。以上より,「虐待あり」群と「虐待なし」群との間で口腔内の状態に違いが認められないことから,学校歯科健康診断の結果だけで児童虐待のスクリーニング指標とすることは困難であることが示唆された。したがって,歯科医療関係者が児童虐待の早期発見・防止に貢献するためには,診療室での診察のようにある程度時間をかけて児童の口腔内や言動,保護者の様子などを観察できる状況が必要であると考えられた。
著者
笹原 妃佐子 河村 誠 清水 由紀子
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.196-207, 2004-07-30
参考文献数
14
被引用文献数
15

選挙人名簿抄本から無作為に抽出した広島市住民に対して,郵送による質問紙調査を行った.質問紙では,性別や年齢などの属性,健康状態や歯科への受診行動について尋ねた.郵送した1,200名のうち,635名より返送があり,「定期的に歯科健診を受けていますか」の質問に回答のあった611名分について,定期的な歯科健康診断を支える要因を検討した.その結果,5つの要因が抽出された.Logistic回帰分析を行ったところ,この5つの要因のうち,最も定期歯科健診への影響力が大きかったのは『歯の健康に対する関心の因子』であり,学校や地域における歯科保健教育の重要性が示唆された.2番目に影響力が大きかったのは『歯科治療に対する感情の因子』であり,歯科診療時の麻酔薬や麻酔方法,切削器具等の改良により,歯科治療を受ける者の疼痛や不快感を減じる不断の努力が望まれた.3番目の要因は『地域密着性の因子』であり,歯科医が患者の信頼を受けるにたる治療を行い,定期歯科健診の必要性をアピールすることが必要であると考えられた.4,5番目の要因はそれぞれ『医師信頼性の因子』,『経済面の因子』であった.
著者
中居 伸行 貞森 紳丞 河村 誠 笹原 妃佐子 濱田 泰三
出版者
社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会雑誌 (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.163-172, 2004-04-10 (Released:2010-08-10)
参考文献数
18
被引用文献数
7 9

目的: Oral Health Impact Profile (OHIP) はオーストラリアで開発された口腔QOLの評価法であり, 近年では, ほかの国々でも徐々に使用され始めている. 今回われわれは, OHIPの原版 (英語版) を日本語に翻訳し, 日本での使用の妥当性を確認した。方法: 本研究は2力国語に通じたもの (39名) を対象に, 原版と邦訳版の回答を比較・検討した. OHIPの翻訳の妥当性は項目ごとの一致率とλ係数 (対象性評価の指標) によって分析した.結果: 尺度ごとの平均一致率はそれぞれ, 「機能的な問題」75%, 「痛み」76%, 「不快感」69%, 「身体的困りごと」79%, 「心理的困りごと] 77%, 「社会的困りごと」90%, 「ハンディキャップ」85%であった. 全49項目中41項目は0.4以上のλ係数を有し, 高い一致性が認められた. 上記7尺度のα信頼性係数は, 原版では0.76-0.90, 翻訳版では0.77-0.89にあり, 日英両版の尺度の内的妥当性が変わらないことが示唆された. 日英両版における7尺度のSpearmanの順位相関係数は0.83-0.92 (p<0.001) で, 優位な相関性を示した.結論: 日本語版OHIPは, このように高い信頼性と翻訳の妥当性を有することから, 日英の2言語間で使用可能であることが示唆された.
著者
笹原 妃佐子 河村 誠 河端 邦夫 戸田 信彦 土田 和範 岩本 義史
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.807-814, 1995-10-30 (Released:2017-10-06)
参考文献数
10

近年,自然科学系の研究者のみならず社会科学系の研究者においても,解析手段としての統計学はますますその重要性を増している。しかし,研究者は,通常,統計学における検定結果を第1種の過誤を犯す確率αによって解釈し,第2種の過誤を犯す確率βについて考慮することはほとんどない。本研究では,既存の有限母集団から,ある一定の大きさの標本を繰り返し抽出する実験を行った。母相関係数の異なる二つの有限母集団(母相関係数; 0.215,0.650)それぞれについて,標本の大きさとβについて検討し,再現性のある結果を得るための妥当な標本の大きさについて考察を加えた。有限母集団の一つは,幼児の母親から得られた2847組の歯科保健行動目録(HU.DBI)と口腔評価指数(ORI)のデータであり,その相関係数は0.215であった。他の一つは,2885組の大学新入生の身長と体重のデータで,その相関係数は0.650であった。それぞれの母集団から,標本の大きさが25,50,100,200,300,400の標本をランダムに100回ずつ抽出し,得られたすべての標本において. HU-DBIとORIの順位相関係数,ならびに,身長と体重の相関係数を計算した。その結果,母相関係数0.215 (P<0.001)のHU-DBIとORIのデータでは,有意水準を5%(α=0.05)とすると,標本の大きさが100の場合,全体の51%の標本で帰無仮説が棄却され,標本の大きさが400の場合, 99%の標本で帰無仮説が棄却された。つまり,標本の大きさが100の場合,βは0.49,標本の大きさが400の場合,βは0.01であった。一方,母相関係数0.650 (p<0.001)の身長と体重のデータでは,標本の大きさが50以上では,帰無仮説はすべての標本で棄却された。つまり,標本の大きさが50以上で,βは0.00を示した。以上の結果から,ある標本において,2変数間の相関係数の有意性が危険率5%以下で確認されたとしても,その標本の大きさが小さい時には,別の標本において同様の結果を得る確率は必ずしも高くないことが示唆された。即ち,第1種の過誤を犯す確率(危険率)が5%以下であったとしても,ある程度の標本の大きさが確保されていない場合には,結果の再現性はあまり期待できないと考えられる。
著者
笹原 妃佐子 島津 篤 河村 誠 田口 則宏 小川 哲次
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.53-60, 2012-01-30
被引用文献数
1

中学生という時期は,身体的,精神的に大きな変動を遂げる時期である.そのため,歯科保健指導を行うにしても,中学生という年齢に特化した方法を検討する必要がある.本研究では,研修歯科医による歯科保健指導の1か月後,指導を受けた中学生に健康や身体に関わる身の回りに対する考え方と,歯科保健指導後の変化を尋ねる質問紙調査を行い,その回答から,歯科保健指導の効果に影響する要因を分析した.その結果,[自分で健康を守るべきだ]と考える中学生に歯科保健指導後に[以前よりよく歯をみがくようになった]と回答した者が多かった(オッズ比1.96).それに対して,[ファッション]に興味のある中学生には歯科保健指導内容の多くの項目が印象の薄いものであった.この結果から,中学生には,個々の疾病に対する健康教育を行うだけでなく,健康は保護者任せではなく,自分で守るものであるという意識を植え付けるための教育が必要と考えられた.また,歯口清掃は,[ファッショナブルである]と思わせるような指導方法を行えば,[ファッション]に興味のある中学生にも興味を抱かせることができるのではないかと思われた.
著者
宮城 昌治 藤岡 道治 山崎 俊二 福永 真佐美 笹原 妃佐子 河端 邦夫 長尾 誠 河村 誠 森下 真行 岩本 義史
出版者
広島大学歯学会
雑誌
広島大学歯学雑誌 (ISSN:00467472)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.24-30, 1993-05-06
被引用文献数
7

本論文の要旨は平成4年6月の日本口腔衛学会近畿・中国・四国地方会総会において発表した。本研究は一部平成3年度文部省科学研究費(一般研究(C)No.01571122)によった。
著者
笹原 妃佐子 貞森 紳丞 津賀 一弘 河村 誠
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.148-155, 2006-04-30
被引用文献数
2

本研究では,質問紙により顎関節症の罹患状況の現状と経過を把握し,その現状や経過とデンタルプレスケール^[○!R]を使用した咬合の状態との関連を検討することを目的に疫学調査を行った.最初に,大学もしくは専門学校の1年次生に,顎の状態を尋ねる質問紙調査を行った.その後,1名の検者が感圧フィルム-デンタルプレスケール^[○!R](50H: Rタイプ,富士フィルム社製)を用いた咬合の状態の診査(有効咬合面積の割合,咬合面積,平均咬合圧,最大咬合圧および咬合力),および最大開口量の測定を行った.分析は,18歳から20歳までの男性359名,女性336名の計695名について行った.その結果,約半数の学生が顎の異常を経験していたが,調査時点で日常生活の不都合を訴えたものは少なかった.顎の異常を経験した学生のほとんどで症状は改善もしくは無変化であり,悪化を経験した者はまれであった.しかし,治療で症状の改善した者はわずか21名であった.顎関節症の罹患状況と咬合の状態との関連では,女性において,顎の状態の良い者ほど咬合接触面積が広く,咬合力が大きかったが,男性では,顎の状態の良い者ほど有効咬合接触面積の割合が小さく,最大咬合圧が大きかった.そこで,顎関節症は思春期には非常に一般的な疾患ではあるが,重症者は少なく,自然治癒が起こりうる疾患であると思われた.しかし,顎関節症の自覚症状と咬合の状態との関連については,性差の原因が不明であり,今後の検討が必要である.
著者
河村 誠 笹原 妃佐子 岩本 義史
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.151-157, 1997-04-30
被引用文献数
8

喪失歯数に関する患者の主観的評価の妥当性を検討する目的で,一般歯科医院に来院した40歳以上の患者145名(男性74名,女性71名)に質問紙調査と口腔診査を実施した。その結果,以下の点が明らかになった。1. 喪失歯数(実際の喪失歯数)と患者の年齢との間に正の相関関係が認められた(r=0.397,n=145 ; p<0.001)。しかし,喪失歯数は個人間のバラツキが大きく,患者の年齢から喪失歯数を推定することは困難であった。2. 自己申告された喪失歯数と実際の喪失歯数の関係は,2次回帰式で表現するのが適当と考えられた(R=0.832, n=137 ; p<0.001)。また,喪失歯数が中程度の者では,実際よりも喪失した歯の数を少なめに報告していた。3. 40歳代の患者に比べ,60歳以降の患者では喪失歯数を実際より少なめに報告する傾向が強かった(p<0.01)が,性差はみられなかった。以上のことから,自己申告された喪失歯数と実際の喪失歯数の間には,ある程度違いはあるものの,患者の報告から喪失歯数を推定することの妥当性が確認された。また,このような患者のセルフチェックは8020運動を推進する上で有用であることが示唆された。