著者
篠田 道子 上山崎 悦代 宇佐美 千鶴
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.129, pp.15-38, 2013-09-30

本研究の目的は, グループインタビュー法により, 特別養護老人ホームと医療療養病床での, 終末期ケアにおける多職種の連携・協働の実態を明らかにすると共に, 両者の結果を比較し, 異同を明らかにすることである. その結果, 特養と医療療養病床の連携・協働で類似していたカテゴリーは, 多職種による情報交換, 本人・家族の希望に合わせたケア, 看取りのみに集中できないジレンマなど 8 つであった. 一方で, 異なっていた点は, (1)特養は縦型の指示体系を, 医療療養病床では横のつながりを重視, (2)特養は脆弱な人員体制を, 医療療養病床では医師や家族の指導・教育を改善すべきと考え, (3)特養は個人の力量不足を悔やみ, 医療療養病床では自分の力をもっと活用したいという意欲が見られた.
著者
松田 実樹 杉本 浩章 上山崎 悦代 篠田 道子 原沢 優子
出版者
岡山県立大学保健福祉学部
雑誌
岡山県立大学保健福祉学部紀要 (ISSN:13412531)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.167-176, 2015

本研究は、特別養護老人ホームでの終末期ケアにおける専門職間協働の現状と課題を明らかにし、特別養護老人ホームでの看取りのための専門職間協働のあり方を検討することを目的とした。 調査対象は、終末期ケアに携わる看護師、介護福祉士、社会福祉士(2 名)の計4 名とし、グループインタビューを行った。得られたデータは、内容分析を行いカテゴリー化した。 その結果、専門職間の役割を理解した上での支援、看取りケアに対する認識など10 のカテゴリーが生成された。 現状として、連携と協働を意識したチームケアの試みがされていたが、多職種で情報共有するための仕組みについては、専門価値に基づく思いまで共有するに至っていないことが挙げられた。利用者の状態が変化する中、チームで利用者を支える為には、ケアの背景にある専門職の思いをいかにして他職種に伝えていくかが課題となり、それらを共有、理解できるシステムつくりが求められることが示唆された。This study aims to reveal the current situation and issues of Inter Professional work in End-oflife Care at special nursing homes for the aged and consider the roles of inter professional work. The subjects of the study are four people including a nurse, a certified care worker, and social workers engaged in end of care, and a group interview was conducted with them. The data obtained was analyzed and then categorized. As a result, 10 categories including support based on understanding of the roles of the professionals and recognition about nursing care were generated. Although the interviewed professionals are currently attempting to provide teamwork-based care on the basis of partnership and cooperation, when it comes to information-sharing systems among various professionals, they fall short of sharing their thoughts based on their professional values. Therefore, there exists a need to consider how the thoughts of professionals, that form the basis of care to the aged, are conveyed to other professionals to support users as a team when the situations of the users are changing and that systems on Inter Professional work is required to facilitate such information exchange.
著者
篠田 道子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.142, pp.99-112, 2020-03-31

フランスとイタリアの医療・介護制度は異なっているものの,終末期ケアについては国主導のインフラ整備により,量・質ともに大きく進んだ.本人の意思決定を支えるために,後見人や事前指示書を位置付け,多職種で支える体制を整えている.本論文では,フランスとイタリアの終末期ケアに関する基本法を概説し,事前指示書による意思決定支援の取り組みと課題を整理する. 特に事前指示書については,わが国でも取り組んでいるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)に引き付けながら光と影について論じる.また,両国ともネットワーク形成を推奨するなど,終末期ケアを点で支えるのではなく,制度や場所を越えて多職種・他機関で支える仕組みづくりに舵を切っている.このような取り組みは地域包括ケアシステムを構築するうえで参考になる.
著者
木村 圭佑 篠田 道子 宇佐美 千鶴 櫻井 宏明 金田 嘉清 松本 隆史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】医療保健福祉領域において専門職連携(以下IPW)は必要不可欠な技術となっている。しかし,リハビリ専門職の養成課程において専門職連携教育(以下IPE)カリキュラムを導入している養成校は少数である。多くのリハビリ専門職は臨床場面において,他の専門職との連携を通して自ら実践的に学んでいる。今回ケースメソッド教育を用いた研修会後に調査した,カンファレンス自己評価表の分析から,経験年数によるIPWに必要な課題を検討する。【方法】ケースメソッド教育は,日本では1962年から慶応義塾大学ビジネススクールで用いられるようになった教育手法である。現在ではビジネス領域だけではなく教職員養成や医療保健福祉領域にまで用いられている。高木ら(2006)によるとケースメソッドは「参加者個々人が訓練主題の埋め込まれたケース教材を用い,ディスカッションを通して,ディスカッションリーダーが学びのゴールへと誘導し,自分自身と参加者とディスカッションリーダーの協働的行為で到達可能にする授業方法」であると定義している。本研究の対象は平成24年~平成25に実施したIPWを目的とした研修会に参加した,異なる職場で働くリハビリ専門職34名である。内訳は,1~3年目以内(以下新人)19名(理学療法士17名,作業療法士2名),4年目以上(以下経験者)15名(理学療法士3名,作業療法士12名)である。尚,全てケースメソッド教育は未経験であった。研修会では日本福祉大学ケースメソッド研究会に登録されている退院時カンファレンス場面のIPWを題材としたケース教材を用いた。参加者にはケース教材の事前学習を促し,研修会の開始前にケースメソッドに関する講義を行った。そして,グループ討議を行った後,筆者がディスカッションリーダーとなりクラス討議,振り返りを実施し最後に篠田ら(2010)が開発したカンファレンス自己評価表を記入してもらった。カンファレンス自己評価表は主に「参加後の満足感」「カンファレンスの準備」「ディスカッションに関するもの(参加者としての気づき,発言の仕方・場づくりへの貢献等)」の全12項目で構成され,各設問に対し5段階評価(「5そう思う」「4:ややそう思う」「3:ふつう」「2:あまりそう思わない」「1:そう思わない」)で回答してもらった。得られた結果を新人と経験者とに分け,カンファレンス自己評価表の各項目を分析した。統計学的処理は,Mann-WhitneyのU検定を用いた(p<0.05)。【倫理的配慮】本研究は,日本福祉大学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会が作成したチェックシートに基づき実施した。【結果】カンファレンス自己評価表は全員から回収した。新人と経験者間で有意差が認められた項目は,「積極的な参加」「受容的・許容的な雰囲気づくりへの貢献」「自分の意見・考えを他者へ伝達」「疑問への質問」「参加者の立場から討議の流れをリード(以下討議をリード)」「他者の発言の引用・改良」「多様な対応策の提案」であった。しかし,「討議をリード」に関しては,経験者は2割が「5:そう思う」「4:ややそう思う」と答えるのみに留まった。また,IPWに必要な技術の一つである「主張(結論)+理由(根拠)のパターンでの発言(以下結論根拠の発言)」では両者に有意差は認められず,経験者の中でも実施できている例は少数であった。【考察】新人ではIPWにおいて最も重要である積極的な発言,頷きや受容的な態度といった「人とつながる」技術の未熟さが確認された。新人の課題としては,対立を恐れずに自らの意見を伝える勇気,そしてすべてを受け入れる温かいムード作りに貢献することである。それらが習得でき,初めて専門職同士の力の貸し借りを上手に行い,多様な対応策の検討の実践が可能と考える。一方,経験者では「討議をリード」することも十分に遂行できているとは言い難く,ファシリテーション技術が未熟であることも示唆された。また,「結論根拠の発言」の実践もできていない。そのため他の専門職への情報共有時やカンファレンス時に,専門的評価や分析をもとにして発言の根拠を明確にできていない可能性がある。経験者の課題は自らの専門性から発言の根拠を明確にするだけでなく,反論や対立意見を上手く扱い,他者の意見を重ねて創発的な意見を積極的に発言することである。ケースメソッド教育で養われる能力の中に「人とつながる」「人を束ね,方向づける」が含まれる。今後もケースメソッド教育を通し,リハビリ専門職におけるIPWの課題を解決できるようさらに検討を続けていく。【理学療法学研究としての意義】医療保健福祉領域におけるIPWの重要性は高く,マネジメント教育や患者の健康行動への教育とその目的は拡大しつつある。そのため,リハビリ専門職におけるIPW・IPEに関する取り組みは急務であり,本研究もその一助になりうると考える。