著者
上村 一貴 山田 実 紙谷 司 渡邉 敦也 岡本 啓
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.101-110, 2021-01-25 (Released:2021-02-25)
参考文献数
35
被引用文献数
4 3

目的:本研究の目的は,高齢者のヘルスリテラシーが2年後のフレイルの有無に及ぼす影響を検討することとした.方法:解析対象は,65歳以上のフレイルでない地域在住高齢者218名〔平均年齢72.5±4.9歳(範囲:65から86歳),男性81名〕とした.機能的ヘルスリテラシーをNewest Vital Signにより,包括的ヘルスリテラシーをEuropean Health Literacy Survey Questionnaireにより評価した.包括的ヘルスリテラシーは総得点に加えて,ヘルスケア,疾病予防,ヘルスプロモーションの3領域の得点についても算出した.2年後のフォローアップ評価(郵送調査)における基本チェックリストの合計点が8点以上の場合をフレイル有とした.結果:フォローアップ評価の対象者253名のうち,226名から回答が得られた(追跡率:89.3%).欠損値ありの8名を除いた218名のうち,2年後にフレイル有となったのは25名(11.5%)であった.年齢,性別,教育年数,BMI,歩行速度,認知機能,Comorbidityで調整したロジスティック回帰モデルにおいて,包括的ヘルスリテラシーの得点のみがフレイルと有意な関連を示した〔1SDあたりのオッズ比(95%信頼区間)=0.54(0.33~0.87)〕.包括的ヘルスリテラシーのヘルスケア,疾病予防領域の得点についても同様に有意な関連を示し,いずれも得点が高いほど,フレイルのオッズ比が低いことを示した.結論:包括的ヘルスリテラシーが高い高齢者では,2年後にフレイルを有する危険性が低いことが明らかになった.
著者
飛山 義憲 谷口 匡史 紙谷 司 和田 治 水野 清典
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.263-271, 2017 (Released:2017-08-20)
参考文献数
29

【目的】人工膝関節置換術(以下,TKA)後運動機能について標準的な入院期間のプログラム(Standard Program;以下,SP)に対する早期退院プログラム(Early-discharge Program;以下,EP)の非劣性の検証を目的とした。【方法】二施設間前向きコホート研究とし,対象は初回TKA を行うSP 施設59 名,EP 施設45 名とした。主要アウトカムは術後6 ヵ月のTimed Up & Go test(以下,TUG),副次アウトカムは同時点の膝関節可動域,膝関節伸展筋力,患者立脚型膝機能とした。TUG は非劣性の検証を,副次アウトカムは施設間の差の検証を行った。【結果】傾向スコア・マッチングにより患者背景を調整した43 ペアにおいて,EP 施設のTUG の非劣性が示され,副次アウトカムはいずれも有意差を認めなかった。【結論】TKA 後早期退院プログラムは標準的な入院期間のプログラムに対して,術後運動機能の回復は劣らないことが示された。
著者
紙谷 司 上村 一貴 山田 実 青山 朋樹 岡田 剛
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI2415, 2011

【目的】<BR> 高齢者の活動範囲を拡大し、活動量を増やすことは運動機能、認知機能の維持・向上に寄与する。このため、自宅退院後の疾患患者や地域在住高齢者の活動範囲を可能な限り確保することは重要な課題と言える。活動範囲の拡大には、屋内に比べ圧倒的に外的要因の増える屋外環境を転倒や事故を起こさないよう安全に移動する自立歩行能力が必要不可欠となる。そのような活動内容の一つとして道路横断行為が挙げられる。この活動を安全に行うためには道路を転倒することなく安定して歩行できる能力を備えているだけでは十分とは言えない。自己で車の往来を視覚的に確認し、安全に横断可能なタイミングを瞬時に判断する能力が必要となる。本研究では、地域在住の高齢者を対象に歩行シミュレーターによる道路横断疑似体験を実施し、高齢者の道路横断行為について分析を行った。本研究の目的は道路横断中の安全確認行為という要素に着目し、非事故回避者の特徴を明らかにすることで、屋外自立歩行者に要求される能力的要素を検証することである。<BR>【方法】<BR> 対象は京都府警察が実施した交通安全教室にて歩行シミュレーターを体験した地域在住高齢者525名(平均年齢74.3±6.0歳)とした。使用したのはAPI株式会社製のシミュレーターで、三面鏡様に組み立てたスクリーン上に片側一車線の道路及び通行車両が映し出される。体験者はスクリーン前のトレッドミル上を歩行することで歩道から奥車線を通過するまでの道路横断を疑似体験することができる。体験者の頭頂部には6自由度電磁センサーLiverty (Polhemus社製)を装着し、水平面上の頭部の運動学的データから左右の安全確認回数、時間を測定した。なお、安全確認とは30°以上の頭部回旋を1回の確認と定義し、この動作を行った延べ時間を安全確認時間とした。解析対象は奥車線到達までの歩道及び手前車線での右・左各方向への安全確認行為をとした。対象者は事故回避の可否と事故遭遇地点から事故回避群、手前(車線)事故群(右側から向かってくる車と接触)、奥(車線)事故群(左側から向かってくる車と接触)に分類した。統計処理にはMann-WhitneyのU検定を用い、事故回避群と手前事故群、奥事故群の各安全確認回数、時間の比較を行った(有意水準5%)。<BR>【説明と同意】<BR> 参加者には紙面および口頭にて研究の目的および方法などに関して十分な説明を行い同意を得た。<BR>【結果】<BR> はじめに確認行為が0回にも関わらず事故を回避している偶発的な事故回避の疑いがある者を除外した496名のデータを統計解析に採用した。496名のうち事故回避群は461名(平均年齢74.5±6.0歳)、手前事故群は20名(平均年齢73.6±6.7歳)、奥事故群は15名(平均年齢71.6±4.7歳)であった。各群の年齢に有意差は認めなかった。事故回避群の歩道での右確認回数、時間はそれぞれ9.1±5.4回、44.2±21.4secであり、手前事故群の6.3±6.8回、29.1±18.5secに対し有意に高値を示した(p<0.01)。また、事故回避群の左確認回数は歩道7.9±5.6回、手前道路2.4±2.3回、確認時間は27.9±20.0secであり、奥事故群の確認回数(歩道8.9±6.3回、手前道路2.7±2.2回)、確認時間29.6±21.6secと有意差を認めなかった(確認回数 歩道p=0.53、手前道路p=0.46、時間p=0.95)。<BR>【考察】<BR> 手前車線での事故に関しては、手前事故群は事故回避群に比べ歩道での右確認行為が回数、時間ともに有意に少なかった。したがって右方向を十分に見たという行為が事故回避に繋がったと考えられる。しかし、奥車線での事故に関しては手前車線まででの左確認回数、時間ともに事故回避結果に影響を及ぼさなかった。つまり左方向を十分に見ていたにも関わらず事故を回避できなかったことになる。これは奥車線の安全確認は手前車線を歩行しながら行わなければならないという運動条件の付加による影響が考えられる。つまり、奥事故群においては、歩行という運動課題に注意配分が奪われることで、視覚での確認行為、または情報処理の過程に影響が及び、誤った状況判断に繋がった可能性が考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回は道路横断という屋外活動での一場面について検証したに過ぎないが、運動課題中の視覚認知、状況判断能力が屋外を安全に移動するために重要な要素である可能性が示唆された。したがって、通常の歩行訓練にこのような要素を付加することがより実践的であると考えられる。高齢者の活動範囲の拡大に向けて、理学療法学領域において運動時の視覚について更なる検討を行う意義は大きい。