著者
船坂 徳子 吉岡 基 柿添 裕香 神田 幸司 白水 博
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.305-310, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
16

シャチにおける視覚器の構造を把握するため,眼球とハーダー腺の形態学的特徴を調べた.眼球は多数の眼筋に覆われており,眼球壁は角膜と強膜からなる眼球線維膜,毛様体,虹彩と脈絡膜からなる眼球血管膜,網膜からなる眼球内膜の3層によって構築されていた.網膜は,組織学的に暗所適応型の特徴を有していた.眼球内の各部位を計測し,他鯨種と比較したところ,シャチの眼球は数種のマイルカ科鯨類と同様の形態を有することがわかった.ハーダー腺は,眼球の周囲をベルト状に囲む管状腺であった.結膜円蓋や眼瞼結膜には,ハーダー腺分泌物である粘液性物質を排出するための無数の導管開口部が存在していた.以上から,シャチには効率的な集光機能を有する眼球や,それを保護するための眼粘液を分泌するハーダー腺が備わっていることが明らかとなった.
著者
神田 育子 古山 歩 若林 郁夫 若井 嘉人 船坂 徳子 吉岡 基 Kanda Ikuko Furuyama Ayumi Wakabayashi Ikuo Wakai Yoshito Funasaka Noriko Yoshioka Motoi
出版者
三重大学大学院生物資源学研究科
雑誌
三重大学大学院生物資源学研究科紀要 = The bulletin of the Graduate School of Bioresources Mie University
巻号頁・発行日
vol.47, pp.13-23, 2021-12

In this study, we aimed at clarifying the recent trends in narrow-ridged finless porpoise stranding on the west coast of Ise Bay. We analyzed the annual/monthly change in the number of stranded individuals, the status found, the length and sex of the individuals, and the seasonality of the geographical distribution data from 486 individuals collected along the northern central coast of Mie Prefecture for 10 years from January 2011 to December 2020. The annual number of stranded individuals fluctuated between 2011 and 2015, although it was stably around 60 individuals after 2016 when a local stranding network of universities, aquariums, museums, and local governments were established. As for the status of stranding, 96.5% of the individuals were found alone and they were dead except one. More males were observed among the stranded individuals than females with a sex ratio of 1.4. The body length frequency data showed that 75-85 cm individuals, approximately of birth length, accounted for 51.1% and 39.1% in the male and female groups, respectively, and stranding during the newborn period was overwhelmingly predominant. Several individuals below the birth length were found in April-July while the peak of calving season was considered to be April-June. The monthly number of stranded individuals peaked in May-June every year, and dead newborn calves were major factors in boosting the number of stranded individuals found during this period. The geographical distribution of stranded individuals displayed seasonal changes. Most stranded animals were recorded in the central part of the west coast of Ise Bay in April-June, exhibiting a gradual decrease and becoming scarce by January-March.
著者
橋田 佳央梨 船坂 徳子 前田 ひかり 貝 良文 吉岡 基
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
pp.22-00016, (Released:2023-02-22)
参考文献数
47

和歌山県太地町における,鯨類追込網漁業により得られた鯨類発見記録を用いて,熊野灘南部海域における鯨類の来遊状況を調べた。秋季から冬季の操業で得られた計31漁期の記録から22種(ヒゲクジラ類5種,ハクジラ類17種)の鯨類が確認された。発見数が多かった13種は,来遊時季のピークによって4つのグループ(9–10月,11–12月,1–2月,ピークなし)に大別された。黒潮大蛇行により発見率が減少する4種が確認され,特にコビレゴンドウとマダライルカの分布は黒潮の影響を強く受けている可能性が示唆された。
著者
船坂 徳子 吉岡 基 植田 啓一 柳澤 牧央 宮原 弘和 内田 詮三
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-11, 2010-06-30
被引用文献数
1

ミナミバンドウイルカ(ミナミハンドウイルカ)<i>Tursiops aduncus</i>の成熟オス4個体を対象として,日長が大きく異なる冬至,春分,夏至に3時間間隔で24時間の連続採血を行い,血液学的検査7項目(冬至,春分,夏至)および血液生化学的検査17項目(冬至,夏至)の日内変動を調べた.ヘマトクリット(HT),尿素窒素(BUN),尿酸(UA),中性脂肪(TG),ヘモグロビン濃度(HGB),赤血球数(RBC),白血球数(WBC),総コレステロール(T-CHO),アルカリフォスファターゼ(ALP),カリウム(K)に日内リズムが認められ,このうちHT,BUN,UA,TGのリズムは特に明瞭であり(<i>P</i><0.01),HTは18時に低値を示し,BUN,UA,TGはいずれも夕方から夜間にかけて高値を示した.これらの日内リズムの頂点平均時刻は,いずれの季節においても日長とは無関係にほぼ同時刻であったことから,そのリズムは内因性の概日時計に制御されている可能性が示唆された.他の項目の日内変動は,不規則なパルス状(好酸球分画,Eos;アルブミン,Alb;グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ,GOT;グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ,GPT;総ビリルビン,T-Bil:クレアチンフォスフォキナーゼ,CPK;ナトリウム,Na;クロール,Cl),経時的上昇あるいは下降(クレアチニン,Cre;血糖,Glu),ほぼ不変(好中球分画,Neut;リンパ球分画,Lym;総タンパク,TP;乳酸脱水素酵素,LDH)に区別できた.<br>
著者
吉岡 基 鈴木 美和 船坂 徳子
出版者
三重大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-04-01

「鯨類において,陸生哺乳類にはない,特殊に発達する脂肪組織(脂皮:ブラバー)が,彼らの繁殖の制御に深く関わり,繁殖成功の鍵を握っているのではないか?」.本研究では,鯨類の繁殖生理学研究でこれまで主流であった血中性ステロイドに焦点を当てた研究展開の枠を脱却し,この学術的問いを出発点として「ブラバーを主軸とした器官間のクロストークが鯨類の繁殖を制御する」という仮説を立てた.この正誤を科学的に確かめることにより,鯨類の繁殖機構を新たな切り口から解明し,飼育下鯨類の繁殖成功に貢献することに挑戦する.