著者
黒川 駿哉 岸本 泰士郎 真田 健史 三村 將
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.55-59, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
21

腸内細菌叢とその代謝産物が,腸を介して脳に作用し,相互に影響し合うという腸内フローラ‐腸‐脳軸(microbiota‐gut‐brain axis)が注目されている。自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD)は精神神経科領域において,microbiota‐gut‐brain axisについての報告が最も多い疾患の一つである。健常と比べてASDでは特定の菌種・構成パターンの違いや多様性の乱れ(dysbiosis)が報告されている一方で,このdysbiosisを復する目的で,腸内細菌叢移植(fecal microbiota transplantation:FMT)などの新しい試みについての報告も出てきている。本稿では,最新の腸内細菌叢の観察研究および介入研究について紹介し,治療応用や病態理解の可能性など今後の展望について述べる。
著者
三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.163-169, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
31
被引用文献数
2 2

ヒトの大脳の 1/3 を占める前頭葉は, 多くの神経科学者の関心を引きながら, いまだに解明されていない「謎」の部分が多い。神経心理学的立場からは, 前頭前野の損傷に伴って生じる問題として, 注意の持続や分配・転換の障害, ワーキングメモリや展望記憶を含むさまざまな記憶の障害, 問題解決・遂行機能の障害, 社会的行動障害などが挙げられる。これらの前頭葉損傷に伴う神経心理学的問題に対する認知リハビリテーションの技法としては, 注意障害に対する Attention Process Training や, 前頭葉性記憶障害に対する外的補助を利用した展望記憶の強化が考案されている。健常者のワーキングメモリを向上しうるツールとして, 右頭頂葉に対する磁気刺激実験を紹介し, 左右および前頭-頭頂の連絡に関する脳内ネットワーク仮説について述べた。近年, 話題に上ることの多い遂行機能障害のリハビリテーションについては, 問題解決過程を計画の立案にかかわる側面と, 計画の実行にかかわる側面に分けて考えると理解しやすい。  前頭葉損傷においては, これらの神経心理学的障害以上に, 感情・気分の障害, 強迫症状, 作話, 脱抑制や情動制御の障害, 判断や社会認知の障害といったさまざまな精神症状が問題となる。前頭葉損傷に伴うもっとも対応困難な問題の1 つは, パーソナリティ変化を基盤とした社会的認知ないし社会的行動の障害である。このような問題が生じる背景には, 大きく情動面の抑制障害の問題と, 自分の言動を相手がどう思うかが理解できない問題 (心的推測の問題) とがある。これらの社会的行動障害に対して, うつ病や不安障害に対する認知行動療法的アプローチを援用していく試みも最近ようやく広がりをみせている。
著者
三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.257-266, 2008-09-30 (Released:2009-10-27)
参考文献数
21
被引用文献数
4 2

前頭葉損傷に伴うさまざまな精神症状のなかで,もっとも対応困難な問題のひとつは,社会的認知の障害である。前頭葉損傷により,自己と他者の関係が歪み,集団のなかで適応的な生活を送れなくなる。このような社会性の障害が生じる背景には,相互に関連したいくつかの要因があると考えられる。ひとつは衝動コントロールの不良であり,また,これと関連して,自己の行動を意識的,無意識的に規定する報酬—罰の問題がある。前頭葉損傷患者では一般に,目先の報酬に引きずられ,将来的な罰に無関心になる。ギャンブリング課題施行中の反応パターンや皮膚電位反応から,前頭葉損傷患者の情動反応をある程度読み取ることができ,ときに症例の逸脱行動への対応を考える際にヒントになる。さらに,自己の言動を相手がどう思うかが理解できないこと(心的推測の問題)が対人関係障害・不適応を生んでいる場合もある。我々は対人関係トラブルを繰り返す前頭葉損傷患者を対象に,広汎性発達障害者に対する「心の理論」のワークを援用して,小グループによる訓練を試みた。前頭葉損傷患者はある程度「心の理論」を知識的に再獲得することは可能であったが,獲得した「心の理論」をみずからの日常生活に応用することは困難であった。前頭葉損傷患者の社会的認知の改善をめざす訓練はまだ予備的な検討にとどまっているが,今後さらに重要性を増していくものと思われる。
著者
徳井 達司 米元 利彰 岩下 覚 樋山 光教 稲田 俊也 三村 將 鈴木 義徳 川口 毅 川井 尚 栗原 和彦
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.31, no.9, pp.919-929, 1989-09-15

抄録 大麻の長期乱用による大麻精神病の6例を経験したので報告した。発病にいずれも連続大量使用かTHC高濃度の製品を使用しており,発病の契機に心理,状況的要因の関与が目立った。病像的には中毒性精神病の特徴をもち,無動機症候群,幻覚妄想状態が全例に認められた。これに意識変容,知的水準低下,気分欲動の変化,衝動異常,観念湧出,散乱等が加わり,組み合わさって経過した。精神病体験の持続は治療開始後1〜3カ月であったが,その間病状の改善は動揺を示し,フラッシュバックの挿間もみられた。陽性症状が消褪しても無動機症候群は多かれ少なかれ残遺するのが常で,3カ月以上経過後も完全に回復に至らない例もみられた。施用者の生活状態や臨床的所見から,場合によっては慢性人格障害に移行する可能性も示唆された。
著者
飯干 紀代子 岸本 泰士郎 江口 洋子 加藤 佑佳 松岡 照之 成本 迅 三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.220-227, 2017-06-30 (Released:2018-07-02)
参考文献数
25
被引用文献数
3

テレビ会議システムを用いて遠隔で行う時計描画検査 (clock drawing test: CDT) の信頼性を, 対面検査との一致度, 加齢性難聴の影響, 利用満足度の観点から検証した。対象は, 健常高齢者 (NC) 38 例, 軽度認知障害者 (MCI) 15 例, アルツハイマー型認知症患者 (AD) 24 例, 計77 例 (女性39 例, 平均年齢75.6 ± 6.5 歳) であった。一人につきCDT を遠隔と対面の2 回, ランダムな順序で実施した。 全対象における遠隔と対面のCDT 得点の級内相関係数 (ICC) は0.83 以上, 疾患別でもNC が0.67 以上, MCI が0.59 以上, ADが0.84 以上であり, 十分な一致を認めた。施行順序別では, 遠隔・対面どちらを先に行ってもICC は0.81 以上であり結果に差はなかった。難聴が疑われる群においても, ICC は0.91 以上と一致度は高かった。遠隔検査に対する利用満足度調査では, 恐怖心や緊張感を多少なりとも感じる者が7 割いたが, 答えやすさについては, 対面と同等, あるいはそれ以上であった者が7 割を占め, 強い拒否感はないことが示された。
著者
三村 將
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.311-317, 2014 (Released:2014-04-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

統合失調症とうつ病に関する機能局在について概説した. 統合失調症においては, 前頭葉や側頭葉を中心に, さまざまな脳領域の形態的・機能的異常が指摘されている. これらの一部は幻聴や妄想といった陽性症状と関連する以外に, 社会性を担うとされる「社会脳」と呼ばれる神経ネットワークの異常を生じることが近年明らかになっている. うつ病の病態生理と関連する神経ネットワークの異常についても, 近年のSPECT・PET・NIRS・fMRI等を用いた機能画像研究では主にhypofrontalityが示唆されている. うつ病の薬物療法, 認知行動療法, 脳深部刺激 (DBS) などに関する縦断的画像研究は, 症状の回復や神経ネットワークの修復に関わるメカニズムの理解に大きく貢献している.

3 0 0 0 OA 血管性うつ病

著者
三村 將
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.9-13, 2003-02-28 (Released:2010-11-19)
参考文献数
14
著者
岸本 泰士郎 吉村 道孝 北沢 桃子 榊原 康文 江口 洋子 藤田 卓仙 三村 將 Taishiro Kishimoto Michitaka Yoshimura Momoko Kitazawa Yasubumi Sakakibara Yoko Eguchi Takanori Fujita Masaru Mimura
雑誌
SIG-AIMED = SIG-AIMED
巻号頁・発行日
vol.001, 2015-09-29

Most of the severity ratings are assessed through interview with patients in psychiatric filed. Such severity ratings sometimes lack objectivity that can lead to the delay/misjudgment of the treatment initiation/switch. A new technology which enables us to objectively quantify patients’ severity is needed. We here aim to develop a new device that analyzes patients’ facial expression, voice, and daily activities, and provides us with objective severity evaluation using machine learning technology. This study project was accepted by Japan Agency for Medical Research and Development (AMED) and will launch this year. The background of the study purpose and methods will be presented.
著者
三村 將 坂村 雄
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.314-322, 2003-05-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
34
被引用文献数
3 1

Baddeley and Hitch proposed a fundamental framework for working memory in 1974, emphasizing its transiently activated memory aspect for performing various cognitive tasks. This concept of working memory is quite useful in understanding human cognitive processes and has been widely used in the fields of cognitive and developmental psychology and neuropsychology. The idea of working memory has also been introduced to consider cognitive rehabilitation for patients with brain damage. In the present review, we first described a current theoretical framework of working memory and then reported on recent studies on the conceptualization of working memory. We subsequently reviewed neural substrates of working memory subsystems, i. e., the phonological loop, the visuospatial sketch pad and the central executive. We further referred to the contribution of working memory in understanding various language-related symptoms in patients with aphasia, one of the major targets in the field of cognitive rehabilitation. Working memory plays a crucial role in the everyday life of brain damaged patients. Future research is warranted to focus on the improvement of deficient working memory in order to ameliorate clinical problems of brain damaged patients.
著者
浦野 雅世 三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.422-429, 2011-12-31 (Released:2013-01-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1

複数の事象の空間的な関係を表す文の理解能力を調べる目的で「関係の理解テスト」を作成し, この検査が統語処理能力の低下では説明できない水準の障害を検出しうるか, それは左頭頂葉病変に特異的な障害であるかを検証した。対象は左頭頂葉に病変のある軽度流暢型失語症例 5 名, 左頭頂葉に病変のない失語統制群 5 名 (軽度流暢型 3 名・軽度非流暢型 2 名), 左頭頂葉病変群と年齢をマッチさせた健常統制群 10 名である。統制群 2 群は「関係の理解テスト」で良好な成績を示したが, 左頭頂葉病変群では全例で低下を示した。しかし, 失語症構文検査, トークンテスト, 助詞理解検査では左頭頂葉病変群の成績は良好で, 「関係の理解テスト」の成績とこうした従来の文理解検査の成績との相関は明らかでなかった。これらの結果から「関係の理解テスト」は文の統語的側面とは性質の異なる, 空間的な関係を表す文の理解障害を検出するのに鋭敏であることが示された。
著者
船山 道隆 前田 貴記 三村 將 加藤 元一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.40-48, 2009-03-31 (Released:2010-06-02)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

両側前頭葉損傷後,強制的に人物とりわけ人の眼を中心に凝視ないしは注視 (forced gazing) を続ける2 症例を報告した。この2 例では,人が視界に入れば必ず凝視ないしは注視が誘発され,人が視界から消えるまで持続した。すなわち,この行動は,外部環境刺激に対して戸惑うことなく駆動され継続した。  forced gazing は,能動性がほとんどみられない患者に出現する,外部の環境刺激に対して視線が自動的に反応する被影響性が亢進した現象と考えられ,また前頭葉の損傷による抑制障害のため頭頂葉の機能が解放された結果,これらの行為/行動が出現したと考えた。本2 症例は前頭眼野を含む広範な両側前頭葉損傷であった。本2 症例に随伴した把握現象や道具の強迫的使用から両側前頭葉内側面損傷がforced gazing の責任病巣の中で最も重要と考えられ,前頭眼野も責任病巣の1 つと考えられた。
著者
三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.26-33, 2009-03-31 (Released:2010-06-02)
参考文献数
11
被引用文献数
5 1

脳損傷,特に前頭葉損傷患者が示す社会的能力の障害には,自分の言動を相手がどう思うかを理解できない「心の理論」(心的推測)の問題と,衝動コントロールの問題とが複合的に関与している。本稿では,衝動コントロールの問題への介入技法について,精神科的観点から整理を試みた。衝動コントロールが悪いと,脱抑制行動や対人関係トラブルが目立ったり,一方で思うようにいかないと激しい怒りの爆発( anger burst )が生じたりする。脱抑制に対しては,種々の向精神薬が奏効することがあるが,薬物療法の効果はまだ十分なエビデンスが得られていない。心理的介入については,精神科領域で広く用いられている認知行動療法は,前頭葉損傷患者が示す anger burst に対してもしばしば有用なアプローチとなる。原則として,患者の機能や気づきのレベルが低いほど行動的アプローチが中心となり,反対に機能や気づきのレベルが高いほど認知的アプローチの導入が可能となる。これらの具体的アプローチについて概説した。衝動の背景には動機を形成する快(報酬)─不快(罰)体験がある。本稿では,前頭葉損傷例に試みた予備的な長期報酬学習訓練について紹介した。衝動コントロール不良な前頭葉損傷患者がいかにして即時的報酬を抑えて,将来的・長期的な報酬を学習・強化できるかが今後の重要な研究ターゲットであろう。
著者
小海 宏之 加藤 佑佳 成本 迅 松岡 照之 谷口 将吾 小川 真由 三村 將 仲秋 秀太郎 江口 洋子 飯干 紀代子 園田 薫 岸川 雄介 杉野 正一
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.29-37, 2014-03

本研究は、各神経心理検査の一つの下位検査から言語性記憶指数(VMQ)を推定するための基礎資料を得ることを目的とする。対象は軽度認知障害者およびアルツハイマー病者の計71 名である。方法は対象者にMMSE、ADAS、WMS-R を個別実施し、VMQ との相関分析を行った。また、VMQ と各神経心理検査の下位検査との間で最も高い相関係数値となった下位検査についてVMQ との単回帰式を求めた。その結果、推定VMQ=50.203+6.661×(時間的見当識素点)、推定VMQ=39.469+6.762×(平均単語再生数)、推定VMQ=68.921+1.439×(論理的記憶II(遅延)素点)の単回帰式が得られた。さらに、これらの単回帰式から得られた各下位検査と推定VMQ に関する判定基準を導き出した。医療同意能力を予測する因子の一つとして記憶の機能は重要であると考えられるため、本研究結果の指標は有用になるであろうとも考えられる。
著者
髙尾 昌樹 美原 盤 新井 康通 広瀨 信義 三村 將
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3+4, pp.158-163, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1

【要旨】110歳以上(超百寿者)4例の脳病理所見を検討した。アルツハイマー病の変化は、3例ではintermediateレベルにとどまり、十分な老人斑と神経原線維変化の存在を認めた症例はなかった。1例はprimary age-related tauopathyであり、老人斑はほとんど無く、神経原線維変化が優位であった。パーキンソン病やレビー小体型認知症病理は認めなかった。高齢者認知症の原因疾患として注目されている海馬硬化症は認めなかったが、一部の海馬でTDP-43沈着を認め、“cerebral age-related TDP-43 pathology and arteriolosclerosis” (CARTS)の初期ともいえる状態であった。近年注目される、aging-related tau astrogliopathy (ARTAG)という、加齢に関するアストロサイトのタウ沈着が全例でみられた。脳血管疾患は軽度であった。加齢とともにアルツハイマー病は増加するとされているが、超百寿者まで検討すると、そういった予想は当てはまらないかもしれない。また、アルツハイマー病以外の加齢に関する病理学的変化も目立たず、脳における加齢変化を検討する上で、超百寿者の脳を解析することは重要である。
著者
高畑 圭輔 加藤 元一郎 三村 將 島田 斉 樋口 真人 須原 哲也
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.276-282, 2016-09-30 (Released:2016-10-01)
参考文献数
23
被引用文献数
2

近年, 頭部外傷の分野で, 国内外においてトピックとなっているのが, 受傷から数年以上のインターバルを経て出現する遅発性の症候である。本総説では, 頭部外傷後にみられる代表的な遅発性病態である慢性外傷性脳症 (CTE) と頭部外傷後精神病 (PDFTBI) について解説する。CTE は, ボクシングやアメリカンフットボールなど反復性軽度頭部外傷を受けた個体にみられる進行性の神経変性疾患であり, 精神症状, 認知機能低下やパーキンソニズムなどが出現する。神経病理学的には神経原線維変化などのタウ病変によって特徴付けられる。一方, PDFTBI は, 重度の頭部外傷から数年後に出現する精神病状態であるが, 詳しい病態はわかっていない。近年, PET によってタウ病変やアミロイド病変の検出が可能となりつつあり, 頭部外傷による遅発性病態の生前診断や背景病理の評価が可能となると期待されている。本総説では, 我々が行っている頭部外傷患者を対象としたタウイメージング研究の結果についても紹介する。
著者
山田 恭平 加藤 貴志 外川 佑 藤田 佳男 三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.239-246, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
27
被引用文献数
7 2

4 つの下位検査からなる脳卒中ドライバーのスクリーニング評価日本版 (J-SDSA) が開発されたが, 本邦における参考値は明確になっていない。そこで本研究の目的は, 脳損傷者において J-SDSA を用いて運転可能と判断される各下位検査のカットオフ値を示すこと, さらに得られたカットオフ値と下位検査の組み合わせから実車評価結果の予測精度を明らかにすることとした。対象は 7 施設, 94 名の脳損傷者である。対象者には J-SDSA を施行し, その後実車評価を行った。実車評価の結果は, 教習所指導員の判定に基づいて運転可能群と運転不適群に分類された。群間比較では, J-SDSA の方向, コンパス, 道路標識の得点で有意差を認め, 可能群の成績が良好であった。上記 3 つの検査のカットオフ値を算出し, 検査の組み合わせを検討したところ, 3 検査ともカットオフ値を上回った対象者については 80%以上の精度で運転可能と予測できた。また, 3 つとも下回った対象者については運転不適と予測できた。
著者
浦野 雅世 石榑 なつみ 谷 永穂子 中尾 真理 三村 將
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.188-197, 2017-09-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
29

右半球病変で錯文法を呈した矯正右手利きの症例を報告した.呼称障害はごく軽微でありながら,自由発話/説明発話の別を問わず助詞の誤用が著明であり,脱落は皆無であった.逸脱語順や統語構造の単純化は明らかでなかった.理解面では語義理解は良好に保持されながらも,平易な会話の理解からしばしば困難を呈した.側性化の異なる失文法症例では統語的側面と形態論的側面の障害が共起しているのに対し,本例は形態論的側面のみに障害を呈しており,側性化の異なる失文法とは発現機序が異なると考えられた.本例の錯文法の発現は異常側性化に起因するものとであると推察された.
著者
中村 泰久 / 穴水 幸子 / 山中 武彦 / 石井 文康 / 三村 將
出版者
日本福祉大学健康科学部, 日本福祉大学健康科学研究所
雑誌
日本福祉大学健康科学論集 = The Journal of Health Sciences
巻号頁・発行日
vol.21, pp.25-35, 2018-03-30

Based on the test outcomes of divergent and convergent thinking tasks, we examined the characteristics of patients with schizophrenia through an intergroup comparison with a control group, as well as through an intragroup comparison. The study involved the schizophrenia group and healthy control group. Both groups were administered the divergent thinking tasks, and convergent thinking tasks. Psychological symptoms were assessed of the schizophrenia patient. The outcome of the intergroup comparison showed that patients with schizophrenia show a decline in multiple The Tinkertoy Test (TTT) revised version subitems and Idea Fluency Task (IFT) Task-modified response number in the divergent thinking tasks. Furthermore, the result of a logistic regression analysis concerning the items that showed a decline indicated intergroup discrimination for TTT revised version name and IFT Task-modified response number. Subsequently, in the intragroup comparison of patients with schizophrenia, there was a positive correlation between positive symptoms and Design Fluency Test (DFT) Score. From these outcomes, we suggest that patients with schizophrenia tend to score lower on divergent thinking tasks, and that among the divergent thinking tasks, the TTT revised version and IFT are capable of measuring independent cognitive functions that are less susceptible to the influence of psychological symptoms.
著者
三村 將
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1007-1009, 2010 (Released:2011-03-28)
参考文献数
7
被引用文献数
3 2

The neural substrates of moral judgments have recently been advocated to consist of widely distributed brain networks including the orbitofrontal cortex (OFC), anterior temporal lobe and superior temporal gyrus. Moral judgments could be regarded as a conflict between the top-down rational/logical processes and the bottom-up irrational/emotional processes. Individuals with OFC damage are usually difficult to inhibit emotionally-driven outrages, thereby demonstrating severe impairment of moral judgments despite their well-preserved moral knowledge. Individuals with OFC damage frequently present with anti-social less moral behaviors. However, clinical observation indicates that some OFC patients may show "hypermoral" tendency in the sense that they are too strict to overlook other person's offense. Two representative cases with OFC damage were reported, both presented with extreme rage against others' offensive behaviors. To further elucidate the "hypermorality" of OFC patients, an experiment was performed in which patients with OFC damage and healthy control participants were asked to determine punishments for other's fictitious crimes that varied in perpetrator responsibility and crime severity. Individuals with OFC damage punished more strictly than healthy controls those persons for mitigating circumstances. The results are consistent with clinical observation of OFC patients' highly rigid and inflexible behaviors against third person's offense.