著者
渡辺 慶一郎 苗村 育郎 水田 一郎 佐々木 司 丸田 伯子 金子 稔 布施 泰子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

複数大学で一般的な学生を対象に,発達障害のスクリーニングである質問紙調査を実施した.質問紙にはAQ-J(Autism-Spectrum Quotient Japanese version)を中心に3種類を採用した.調査結果を発達障害学生のデータと比較し,カットオフ値を検討したところ,先行研究とは異なる結果であった.同様に複数大学の協力を得て一般的な大学生を対象に認知機能検査であるWAIS-Ⅲ(Wechsler Adult Intelligence Scale 3rd)を実施した.この結果を,修学支援や就労支援を受けた発達障害学生と比較したところ,両者のプロフィールが異なることが示された.
著者
平野 均 坂元 薫 北村 俊則 苗村 育郎 湊 博昭 岡野 禎治 佐々木 大輔 田名場 美雪
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

【目的】(1)青年期の季節性感情障害(SAD)有病率と罹患者の特徴、ならびに(2)Global Seasonality Score(GSS)規定因子を解明し、治療法の確立を目指す。【対象と方法】(1)平成16〜17年度全国7大学新入生を対象とし、SAD有病率と罹患学生に認められる特徴を調査した。GSS得点13点以上(高GSS群)は全員を、12点以下(低GSS群)は40名から高GSS群数を引いた人数を無作為に抽出して構造化面接を実施した。(2)平成16年度全国8大学新入生を対象とし、GSS・TCI・出身高校所在地平年値日照環境との関係を調査した。【結果】(1)対象学生12,916名中、8,596名が回答に応じた。高GSS群202名中151名と低GSS群118名中110名がSCID-Iを用いた構造化面接に応じ、それぞれ7名と1名がSADと診断された。SAD有病率は0.96%で、罹患率に性差は無かった。また14名が社会恐怖(social phobia ; SP)と診断され、GSSは高得点であった。SAD罹患学生は、高率にSPを合併していた。(2)対象学生10,871名中、GSS・TCI・日照環境情報に不備が無かったのは61443名であった。GSS総点・平均日照時間・同日射量・TCI 7項目を変数として、パス解析を行った。その結果高GSS得点を規定したのは、低い自己指向性と協調性、高い自己超越・新奇追求・損傷回避で、分裂病型人格に該当した。日照環境とには関連は見出されなかった。【考察】構造化面接による今回の大規模調査から、SAD有病率は凡そ1%で性差が無いことが示された。罹患学生にSPが高率に併存すること、GSS得点が特定の人格傾向を反映することは、SAD・SPに共通する生物学的基盤が存在する可能性を示唆している。このことは両疾患の病態と成因を解明する上で、また治療法を確立する上で貴重な所見と考えられる。
著者
苗村 育郎
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.413-421, 2014-05-15

はじめに 本稿のテーマは大学生と大学教職員のメンタルヘルス問題の展望ということである。しかし現状をふまえた詳細な将来展望を期待されているならば,これはなかなか難しい。その訳は第1に,大学の数はすでに800校近くもあり,学生数だけで310万人を超えている5)(高等教育全体の学生・教職員を合わせると関係者の数は400万人前後になるのではないか)。それぞれが設立母体や歴史や規模や性格を異にする複雑な対象である。第2に,教育改革・大学改革とならび憲法改正やグローバル化が叫ばれているわが国の現状では,大学の使命や将来像もその細部は刻々変わっていくだろう。この状況変化に適応できる学生と不適応を生じる学生の性格や特性も変化していくに違いない。第3に,メンタルヘルスは何よりもまず個人の心の問題であるが,個性や人格は百人百様であり,これを精緻に論じることはなお困難である(性格学や人格学が成立していない)8,9)。したがってこれらの問題を限られた原稿で十分論じるのは難しく,本稿もある程度おおざっぱで,筆者の主観でまとめた見解も多いことを,あらかじめお断りしておかねばならない。 第1の状況を補足すると,国公私立の諸大学のうち国立大学法人は85校前後であり,この部分に関しては,(国立大学法人)保健管理施設協議会で緊密な連携と情報交流があるし,休退学や自殺者の実数も把握されている3,4)。しかしさまざまな私学や公立大,さらに国立高等専門学校や各種の専門学校,また各種の予備校や資格取得のための教育期間(企業も含む)などについては,その細部を把握しきれない。引きこもりや不適応の学生を集めて支援教育活動を行っている各種施設などについても,筆者は断片的な情報しか持たない。大学という名称ではなくとも,これらも重要な高等教育機関であり,時代の中で若者達が示す同じような問題に直面していると推定される。若者のメンタルヘルスは,これらも含めて議論されるべきであるが,詳細はそれぞれの組織に身を置いて問題に取り組んでいる方から別の機会に述べていただくべきだろう。 本稿では,中規模の国立大学を中心とした視点から問題を取り上げており,私学の経営や旧帝国大学の国際戦略などに関わる観点は抜けていることもお断りしておく。以下ではまず,(1)大学メンタルヘルスの領域拡大について述べ,次に(2)この問題を担当する学内組織の要点を述べる。さらに(3)最近重視されているいくつかの各論を簡単に解説し,最後に(4)今後の大学教育とメンタルヘルス支援の課題について述べることにしたい。