著者
北川 裕子 小塩 靖崇 股村 美里 佐々木 司 東郷 史治
出版者
Japanese Society of Anxiety Disorder
雑誌
不安障害研究 (ISSN:18835619)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.31-38, 2013

近年の日本では,いじめが原因と考えられる児童生徒の自殺が社会的に大きな波紋を起こしている。いじめは,被害側だけでなく加害側の児童生徒でも,不安・抑うつ,社会不適応,そして自殺問題と関連すると言われている。このような状況に鑑みて,効果的ないじめ対策教育の実施は喫緊の課題である。しかし,日本ではいじめ対策が各学校に任されたままであり,全国的な系統的いじめ対策プログラムが存在しない。また,効果検証がなされていない。そこで本研究では,日本におけるいじめ予防介入教育の構築に向けた一資料として,フィンランドの全国的ないじめ対策プログラムであり,その効果が大規模なRandomized Controlled Trial (RCT)により評価されている「KiVaプログラム」について紹介した。KiVaプログラムの効果として,いじめの減少,さらには児童生徒の不安・抑うつの低下,対人関係の改善などが確認されている。
著者
清水 栄司 佐々木 司 鈴木 伸一 端詰 勝敬 山中 学 貝谷 久宣 久保木 富房
出版者
日本不安障害学会
雑誌
不安障害研究 (ISSN:18835619)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.116-121, 2014-03-31 (Released:2014-05-02)
被引用文献数
1

日本不安障害学会では,日本精神神経学会精神科用語検討委員会(日本精神神経学会,日本うつ病学会,日本精神科診断学会と連携した,精神科病名検討連絡会)からの依頼を受け,不安障害病名検討ワーキング・グループを組織し,DSM-5のドラフトから,不安障害に関連したカテゴリーの翻訳病名(案)を作成いたしました。ご存知のように,厚生労働省は,地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病として指定してきた,がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病の四大疾病に,新たに精神疾患を加えて「五大疾病」とする方針を決め,多くの都道府県で2013年度以降の医療計画に反映される予定です。精神疾患に関しては,「統合失調症」や「認知症」のように,common diseasesとして,人口に膾炙するような,馴染みやすい新病名への変更が行われてきております。うつ病も,「大うつ病性障害」という病名ではなく,「うつ病」という言葉で,社会に広く認知されております。そこで,DSM-5への変更を機に,従来の「不安障害」という旧病名を,「不安症」という新名称に変更したいと考えております。従来診断名である,「不安神経症」から,「神経」をとって,「不安症」となって短縮されているので,一般に馴染みやすいと考えます。ただし,日本精神神経学会での移行期間を考え,カッコ書きで,旧病名を併記する病名変更「不安症(不安障害)」とすることを検討しております。そのほかにもDSM-5になって変更追加された病名もあるため,翻訳病名(案)(PDFファイル)を作成しました。翻訳病名(案)については,今後も,日本精神神経学会精神科用語検討委員会の中での話し合いが進められていく予定です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
著者
山口 智史 佐々木 司
出版者
一般社団法人 日本学校保健学会
雑誌
学校保健研究 (ISSN:03869598)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.150-153, 2018-08-20 (Released:2019-12-20)
参考文献数
24

Background: Emphasis on importance of evidence-based educational practices has been recently increasing. The US government, for example, has announced that they would not financially support new educational practices which are not evidence-based. Most of schools, however, may not acknowledge its importance and only few evidence-based practices have been developed or conducted in schools.Objective: To examine reasons why the evidence-based practices have not been prevailing in schoolsMethods: We reviewed studies addressing how often teachers participate in educational research and employ evidence from educational research in their practices. Studies about impressions and thoughts which teachers have on the research were also reviewed.Results: Only few teachers have engaged in educational research, and evidence from the research is rarely utilized in educational programs and practices. Teachers tend to think that research is not helpful or useful in practical situations. They also seem to have an impression that research is conducted without considering real-world situations of school settings. An intervention study has, however, observed that improving teachers’ access to educational research might help teachers to consider educational research helpful in schools. Researchers should respect practical situations in schools when they conduct educational research. Careful explanations of the results of research including feed-backs to teachers may be important to increase teachers’attention on, and practical use of evidence from, research in schools. In addition, pre-service teachers should be taught methodology of research and how to employ evidence from educational research.Conclusion: School teachers in general may not have positive impressions on, or use evidence from, educational research, which could be improved by researchers’attention and careful respects to schools and teachers. Curriculum for teacher education may also need to be improved.
著者
島田 隆史 金生 由紀子 笠井 清登 佐々木 司
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.201-204, 2012 (Released:2017-02-16)
参考文献数
19

近年行われた大規模な双生児研究から,自閉症スペクトラム障害(ASD)において早期環境要因の関与は従来考えられていたよりも大きい可能性が示唆された。一方で,ASDをはじめとする,発達障害の有病率増加が問題となっており,それにはpopulation全体に影響するような環境要因が加わっている可能性が考えられる。そのような環境要因として,近年増加の一途をたどっている高齢出産や,それに伴う体外受精や顕微授精といった生殖補助医療(ART)の増加など,受精―妊娠に関わる環境の変化が候補に挙がる。これまでに,ART とASDとの関連ついての研究が複数行われているが,相反する結果が報告され,その関連は明らかでない。また注意欠如/多動性障害とARTについては,弱いながらも有意な関連を認めるとする報告がある。1990年代以降,わが国で急激に増加してきているARTは,自然妊娠とは異なり人の手が加わり,特に胚操作の時期とエピゲノム形成や初期の体細胞分裂の時期が重なることからも,発達障害を含めたART児の長期的なフォローアップ調査は重要である。このような研究から,ARTが更に安全な治療法として発展することが望まれている。
著者
佐々木 司 赤堀 正成
出版者
(財)労働科学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究は,昨今のVDT機器の小型化,軽量化,記憶蓉量の増大,高速ネットワーク化などによって、ここ5年間で増大した在宅IT労働の労働実態とそれが労働者の疲労に及ぼす影響を明らかにする目的とした。調査対象者は、2名の子どもを持つ核家族の主婦で、長子の年齢の上限が8歳であることなどの条件でスクリーニングをした15名の在宅IT労働者(平均年齢±標準偏差;34.6±3.9歳)であった。調査は、30日間にわたる生活時間調査,疲労感調査および身体活動量の測定から構成された。生活時間調査票は,労働者がIT機器に精通していることを鑑みて,表計算ソフトを用いて電子ファイル形式で作成された.具体的な調査項目は,睡眠,食事・飲酒,移動,IT労働,IT機器を用いない労働,家事,育児,入浴など全13項目であった。調査対象者には,30日間,これらの項目の有無を1マス15分の精度で,できるだけ項目の行為を行った時刻にチェックすること,もしそれができない場合は1日3度にわけて行うことを説明した.加えて起床時の疲労感および就寝時の疲労感を日本産業衛生学会産業疲労研究会撰の「自覚症しらべ」を用いて調べた.30日間の調査期間から平日延べ300日,休日(土日,祝日の意)延べ150日のデータを分析した.結果は、労働時間と疲労感の関係では、1日の労働時間が0.4時、6.8時間において疲労度の増加が示された。しかし8時間以上の労働時間は,労働時間0時間の疲労度と似ていた.そこで労働時刻分布を求めた結果、平日も休日も労働時間分布が似ており,両日とも最も労働を行っていた時刻が21時.23時,また平日では午前から夕方にかけて,休日で午後から夕方,そして深夜においても労働の挿入が示されていることが明らかになった。さらに労働の終了時刻が深夜になるにつれ、疲労感が増大することが明らかになった。
著者
渡辺 慶一郎 苗村 育郎 水田 一郎 佐々木 司 丸田 伯子 金子 稔 布施 泰子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

複数大学で一般的な学生を対象に,発達障害のスクリーニングである質問紙調査を実施した.質問紙にはAQ-J(Autism-Spectrum Quotient Japanese version)を中心に3種類を採用した.調査結果を発達障害学生のデータと比較し,カットオフ値を検討したところ,先行研究とは異なる結果であった.同様に複数大学の協力を得て一般的な大学生を対象に認知機能検査であるWAIS-Ⅲ(Wechsler Adult Intelligence Scale 3rd)を実施した.この結果を,修学支援や就労支援を受けた発達障害学生と比較したところ,両者のプロフィールが異なることが示された.
著者
山口 智史 西田 明日香 小川 佐代子 東郷 史治 佐々木 司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.45-53, 2018-10-31 (Released:2018-12-28)
参考文献数
36

精神疾患の発症は思春期に急増する。精神不調を抱える若者は援助を求めにくく,周りの大人がそれに気づき適切に援助する必要がある。若者は多くの時間を学校で過ごすため,教員はこの役割を担うのに適した立場にある。本研究は,教員が生徒の精神不調,特に不安・抑うつ症状に気づく力をどれ位有するかを明らかにすることを目的に,生徒の不安・抑うつ症状についての生徒本人と教員による報告の一致率を調べた研究の系統的レビューを行った。PubMed, ERIC, CINAHL, PsycInfo, Web of Science, CiNii, 医中誌で検索しヒットした13,442件のうち,上記一致率を調べた8件の論文を検討した。教員は抑うつ症状のある生徒の38~75%に気づいたのに対し,不安症状のある生徒への気づきは19%と41%であった。教員研修では不安症状についてもきちんと教育する必要があると考えられる。
著者
山合 洋人 早貸 千代子 菱山 玲子 北村 篤司 小塩 靖崇 佐々木 司 Hiroto YAMAAI Chiyoko HAYAKASHI
出版者
筑波大学附属駒場中・高等学校研究部
雑誌
筑波大学附属駒場論集 = Bulletin of Junior & Senior High School at Komaba, University of Tsukuba (ISSN:13470817)
巻号頁・発行日
no.58, pp.130-138, 2019-03

成人の精神疾患全罹患者のうち50%は思春期で発症するといわれている1).しかしながら,現行の教育課程では精神疾患とその対処に関する正しい知識を学ぶ機会がないために,本人も周囲も不調になったことに気付きにくく,本格的な病気の進行・長期化といった状態を招いている可能性が高い.そこで,中学生を対象に心の不調や病気の予防・早期発見・早期対応の正しい知識と対処法(=メンタルヘルスリテラシー.以下,MHL)に関する教育プログラムを実践し,その教育的効果について検討した.MHL 教育プログラム実施前後の自記式質問紙調査で「精神疾患と対処の知識」「援助希求行動及び援助行動の認識・意思」「心の不調時における相談先」のそれぞれにおいて数値の向上・改善が示され,教育的効果が認められた.
著者
北川 裕子 小塩 靖崇 股村 美里 佐々木 司 東郷 史治
出版者
日本不安障害学会
雑誌
不安障害研究 (ISSN:18835619)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.31-38, 2013-08-31 (Released:2014-01-31)
参考文献数
35

近年の日本では,いじめが原因と考えられる児童生徒の自殺が社会的に大きな波紋を起こしている。いじめは,被害側だけでなく加害側の児童生徒でも,不安・抑うつ,社会不適応,そして自殺問題と関連すると言われている。このような状況に鑑みて,効果的ないじめ対策教育の実施は喫緊の課題である。しかし,日本ではいじめ対策が各学校に任されたままであり,全国的な系統的いじめ対策プログラムが存在しない。また,効果検証がなされていない。そこで本研究では,日本におけるいじめ予防介入教育の構築に向けた一資料として,フィンランドの全国的ないじめ対策プログラムであり,その効果が大規模なRandomized Controlled Trial (RCT)により評価されている「KiVaプログラム」について紹介した。KiVaプログラムの効果として,いじめの減少,さらには児童生徒の不安・抑うつの低下,対人関係の改善などが確認されている。
著者
松元 俊 佐々木 司 吉川 徹
出版者
公益財団法人労働科学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

看護師の労働負担の実態と軽減策について、16時間2交代勤務と8時間3交代勤務の違い、16時間2交代夜勤における仮眠の効果、8時間3交代勤務における日勤短縮の効果を調べた。その結果、16時間夜勤では日勤-深夜勤の組合わせのある8時間夜勤と比べて疲労感に差がみられず、生活の質も改善していなかった。また生体リズムが日勤志向型を維持する16時間夜勤は,どの時刻帯に仮眠を取っても夜勤後半の眠気の訴えが多く患者の安全に係る潜在的な問題をはらんでおり,とりわけ後仮眠条件で問題が突出していた。8時間3交代勤務における半日勤-深夜勤への変更は夜勤前の睡眠時間を延長し、夜勤中の疲労感を抑制した。
著者
前原 直樹 佐々木 司 松元 俊
出版者
(財)労働科学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は,1週間から10日前後の実験研究およびフィールド調査において,睡眠脳波による睡眠構造の変化と,尿中17-KS-Sと17-OHCSのバランス,主観評定,生活時間調査および疲労感の評定尺度との関連を捉え,「睡眠不足」状態を定義,新しい疲労観測法を開発することを目的として行った。実験研究は,10日間にわたる5時間睡眠短縮実験であり,フィールド調査は16時間連続夜勤を行う病棟看護師であった。実験室実験の結果は,数週間にわたる慢性疲労状態では,労働日,特に勤務週の後半日において眠気や身体のだるさなどの疲労感の増大や熟眠感の低下が見られ,勤務や勤務後の生活に意識的な努力が必要となる事態が出現,その睡眠時の尿中S/OH値も低下した。また,休日でもこれらの値は回復せず,主観評価値や尿中S/OH値の低下が持続し,2日程度の休日では休息効果が認められなかった。またフィールド調査では,休日日数が1日の場合より2日以上の連続となった場合のS/OH値は大きい値を示した。2連続休日における健康水準が良好であることが示された。中でも特に3日以上の場合に有効性が高い結果が示された。2勤務サイクル調査での連続休日が2日以上配置されていた例の解析からは,尿中S/OHの変化の結果は3パターンが見られた。また,休日後の尿中S/OHの変化が次第に低下する事例において,連続休日が健康水準を回復させる上でどの程度有効となっているのかを検討した結果,図示された3例とも尿中S/OHは上昇していた。休日における生活調整の結果が示唆された。したがって,これらのことから,尿中17-KS-Sと17-OHCSのバランスは,睡眠短縮実験の疲労回復度との相関が高く,測定時点も少なく,調査対象者の負担も少ないことから,慢性疲労指標として有効性が高いと結論付けた。
著者
西田 明日香 山口 智史 東郷 史治 佐々木 司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.16-26, 2020-11-30 (Released:2021-01-09)
参考文献数
44

精神不調を予防・緩和するためにはソーシャルサポートが重要であることが知られている。中でも相談相手から受けるサポートは,ストレスを緩和し困難への対処を助けることからも,特に重要性が高いとされている。本研究は,相談相手の有無や数が精神不調と関連するかを明らかにすることを目的に,相談相手の有無や多寡と不安・抑うつ症状との関連を調べた先行研究に関するレビューを行った。PubMed, PsycInfo, CINAHL, CiNii,医中誌Webで検索しヒットした341編のうち,14編が採用基準を満たしていた。抑うつ症状を調査した研究では,相談相手がいない・少ないと,抑うつ症状を有するリスクや症状の程度が高いことが認められた。不安症状を調査した研究2編でも抑うつ症状と同様の関連がみられた。相談相手がいない・少ない人は精神不調のリスクが高いため,周囲からのサポートを増やす工夫を一層考えていく必要がある。
著者
栃木 衛 桑原 斉 垣内 千尋 佐々木 司 池淵 恵美 赤羽 晃寿
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

統合失調症、双極性障害、パニック障害などを含む精神疾患、および自閉症、トゥレット障害などを含む発達障害などの精神科領域の疾患について、多発家系、孤発例家系や一卵性双生児不一致例についてDNAサンプルの蓄積を図った。また、これらのサンプルについて、次世代シークエンサーを利用したエクソーム解析や、マイクロアレイを利用した解析を行うことにより、統合失調症およびトゥレット障害の有力な候補遺伝子の同定に至った。
著者
本田 由美 貝谷 久宣 境 洋二郎 坂元 薫 佐々木 司 高橋 美保
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.24-37, 2021-11-30 (Released:2022-01-14)
参考文献数
32

社交不安症(SAD)の患者が専門的支援に繋がることを阻害あるいは促進する要因,および専門的支援を受けることが患者にとってどのような体験であるかを調査した。SAD患者5名に対し実施したインタビュー内容についてKJ法を援用した質的分析を行った結果,促進要因としては症状悪化が挙げられ,SAD認知度の更なる向上が必要であることが示唆された。阻害要因としては「病気ではなく性格」と考えたことや周囲の無理解,心理的・物理的ハードルが挙げられ,阻害要因の低減のためにはインターネット情報の活用が有効と考えられた。専門的支援を受ける体験においては,支援先を変更する患者が多く見られ,適切なSAD対処や丁寧な説明姿勢など,支援を受け続けるモチベーション維持の必要性が窺われた。また,適切な心理教育により,自らの症状を性格とは捉えなくなるなど,症状との向き合い方が変容する様子が見られた。
著者
佐々木 司 松元 俊
出版者
公益財団法人大原記念労働科学研究所
雑誌
労働科学 (ISSN:0022443X)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.11-23, 2017 (Released:2019-11-16)
参考文献数
65
被引用文献数
1

本論説では,過労死の発症メカニズムのモデルを睡眠の質の点から検討した。睡眠は,質の異なる徐波睡眠とレム睡眠から構成される。前者はホメオスタシス性,後者はリズム性で出現する特徴がある。通常の睡眠構築では,レム睡眠出現量が徐波睡眠出現量より多い。しかし労働時間が長くなり,その結果,睡眠時間が短くなると,徐波睡眠圧が強まり,レム睡眠出現量が減少する。同時にレム睡眠圧が高まり,やがて通常の睡眠では生じない睡眠開始時レム睡眠も出現する。この時,徐波睡眠のホメオスタシス性とレム睡眠のリズム性の同調が崩れ,アロスタシス負担状態となる。このアロスタシス負担状態が繰り返されると,やがて通常のレム睡眠時に亢進する交感神経が一層亢進し,循環器負担が強まり,過労死へ至ると考えられる。(図2,表1)
著者
佐藤 陽彦 佐々木 司 杉本 洋介
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.223-229, 1992-08-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
3

“いらいら”の実態と構造を明らかにするために, 2種類の質問紙調査を行った. その結果, イライラの頻度では週2~3回が, イライラの対象では人間関係が, イライラの状況としては時間因子が関与しているときが最も多かった. イライラの構成要素は自分と状況である. イライラを生じさせる状況は, 自分がある目標に向かって計画に沿って行動している過程で, 自分の思いどおりにならないときである. しかも, その状況がある程度持続し, 自分の努力によってその状況を変えることができず, 目標が達成できるかどうかまだ不明なときである. そして, イライラの感じ方は本人の身体的・精神的状態によって大きく左右される.
著者
佐々木 司 松元 俊
出版者
公益財団法人大原記念労働科学研究所
雑誌
労働科学 (ISSN:0022443X)
巻号頁・発行日
vol.89, no.5, pp.174-194, 2013

国際線運航乗務員の年齢構成,乗務編成,睡眠-覚醒パターンを模擬して,調査対象者X(男性,36歳)とY(男性,47歳)の2名が,睡眠脳波,直腸温,パフォーマンスを測定する予備調査を行った。乗務条件は,往復夜間乗務でシングル編成のデリー便および,往路昼間乗務,復路夜間乗務でマルチプル編成のムンバイ便であった。両便の往路乗務直後の睡眠は,睡眠間隔が通常より長いにも係らず短縮した。復路乗務前に現地の昼間時刻帯にとる予防的仮眠は,勤務開始時刻に制限されて出発時刻の早いムンバイ便でより短縮した。これらの睡眠の劣化は,若年者であるXより熟年者であるYで大きかった。また昼間乗務より夜間乗務,また往路乗務より復路乗務の反応時間の劣化が著しく,その対策として現地の昼間にとる補償的仮眠と,とりわけ熟年者には夜間乗務中の仮眠が重要と結論付け,調査方法を再検討して本調査に資することにした。(図4,表4,写真2)
著者
山本 義春 北島 剛司 佐々木 司 森田 賢治 吉内 一浩 中村 亨
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

うつ病の予防を目指した日常生活下における行動・心理動態のモニタリングシステムを構築するとともに、疾患発症・病態変化に伴う行動・心理動態の変容を評価・予測する客観的・定量的指標の開発を行った。さらに、行動・心理動態の変容とその移現象に関わる背後の生体システムの動力学的構造をデータ駆動型で推定することにより、開発指標の動力学的意味付けを行った。また、疾患発症・病態遷移の早期検知に資する動力学的機序に関する知見を得た。
著者
丹波 寛子 高橋 久美子 大倉 雅絵 佐藤 栄子 佐々木 司郎 伏見 悦子 竹内 雅治 高橋 俊明 関口 展代 林 雅人
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第54回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.68, 2005 (Released:2005-11-22)

[はじめに]たこつぼ型心筋障害(以下TAKO)は冠動脈攣縮やカテコラミン上昇など種々の原因が想定されているが、その詳細は不明であり、また経過中に心尖部肥大(以下APH)様を呈した報告は非常に稀である。我々は、TAKO経過中にAPH様を呈した2症例を経験したので報告する。[症例]〈症例1〉76歳女性。平成16年8月冷や汗を伴う胸痛が出現し前医を受診。心電図(以下ECG)のV3-4でST上昇、心エコー図(以下UCG)で心尖部領域に壁運動異常があり急性心筋梗塞(以下AMI)あるいはTAKOが疑われ、当院へ救急搬送された。緊急冠動脈造影(以下CAG)で有意病変は認められなかったが、左室造影(以下LVG)では心尖部がakinesisであることからTAKOと診断された。胸部X-pで心拡大、肺うっ血像、胸水は認められなかった。peak CK 279IU/l、CK-MB 9.9ng/ml。UCG所見として初診時は、乳頭筋レベルの前壁中隔から心尖部でakinesis 、壁の菲薄化と内腔拡大があった。また左室基部が過収縮なため、左室流出路では60mmHg程の圧較差が認められ、左室全体の収縮能としてはEF20-30%に低下していた。血圧低下があり少量のβ遮断薬が使用された。第16病日、内腔が縮小、EF87%と改善され、左室流出路の圧較差も消失していた。しかし、心尖部短軸断面では急性期のakinesis部に一致して壁が肥厚し、拡張期の内腔狭小化と拡張障害の所見があり、心尖部肥大型心筋症様の形態を呈していた。6か月後のUCGでは肥厚はみられず、収縮拡張ともに良好に改善されていた。ECG変化として、初診時はV2-6の軽度ST上昇のみで、第16病日にはI,II,III,aVL,aVF,胸部誘導に陰性T波、特にV3-5は巨大陰性T波を示したが6か月後には消失していた。〈症例2〉65歳女性。前医にて平成14年12月くも膜下出血術後、約1か月後にV-Pシャント術を施行。術後よりECGのV3-6でST上昇があり、AMI疑いで当院へ救急搬送された。緊急CAGでは有意病変は認められなかったが、LVGでは心基部が過収縮で、中部から心尖部にかけてdyskinesisであった事より、TAKOと診断された。胸部X-pで心拡大、肺うっ血像、胸水は認められなかった。peak CK 276IU/l、CK-MB 29ng/ml。UCG所見として初診時、基部の収縮は良好だったが乳頭筋レベルから心尖部でakinesis、壁の菲薄化も認められた。第4病日、心尖部側は縮小していたが、心尖部短軸断面では肥厚があり、内腔の拡張期狭小化と収縮拡張能の低下があった。また乳頭筋レベルの前壁中隔も厚い印象をうけた。ECGは初診時、I,II,III,aVL,aVF,V2-6でST上昇があり、第4病日には同誘導は陰性T波へ、特にV2-4では巨大陰性T波と変化した。第10病日には前医へ転院し、5か月後のECGでは発症前にほぼ戻っていたが、その後、不慮の事故により他界されたため改善後のUCGのfollowはされていない。[考察]今回報告した症例は、一例はくも膜下出血術後、もう一例はβ遮断薬が奏功したことより内因性カテコラミンの過剰分泌状態であったことが示唆される。一方、心尖部肥大型心筋症においては、心尖部の交感神経受容体異常が知られ、その成因に内因性カテコラミンの関与が報告されている。以上より、今回の2症例が経過中にAPH様を呈したことにおいて、カテコラミンの過剰分泌の関与が強く疑われた。[結語]TAKO経過中にAPH様を呈する2症例経験したが、その原因は不明である。今後多数例の検討を重ね、その病態および原因を追究していく必要がある。