著者
荒谷 邦雄
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、様々な食性を示すコガネムシ上科を対象に、形態やDNAを用いて各群の間の系統関係を明らかにし、得られた系統情報に様々な餌食物の資源的特性を加味することで、本上科の食性進化の史的概観を探ることを試みた。コガネムシ上科の各分類群の系統解析に関しては、まず、クワガタムシ科について、幼虫形態および16SリボソームRNA遺伝子を用いて世界の全亜科、アジア産のほぼ全属間の系統関係を明らかにした。また、分類学的に混乱が多いDorcus属に関してはRAPD法やCOI遺伝子による解析も行い、属内の詳細な系統関係も明らかにすることができた。16SリボソームRNA遺伝子を用いてクロツヤムシ科に関しては世界の全亜科間、コガネムシ科に関しては全世界のカブトムシ亜科の主な属間の系統解析を行った。さらにコガネムシ上科全体に関しては、16SリボソームRNA遺伝子を用いてクワガタムシ科、クロツヤムシ科、コガネムシ科、センチコガネ科、コブスジコガネ科、アカマダラセンチコガネ科、アツバコガネ科の科間の系統関係を明らかにし、後翅脈等の構造に基づいて構築されていた従来のコガネムシ上科の系統関係との比較を行った。得られた系統関係に基づき、クワガタムシ科をはじめとする食材性の群における褐色、白色、軟の各腐朽型への選好性の進化が主に幼虫の木材構成高分子に対する消化能力の獲得と深く関わっていることを明らかにした。さらに腐植物食性のテナガコガネ等や好白蟻性の群に関しては、高窒素含有量を求めて食材性のものから二次的に移行した可能性が高いことを示唆した。これは腐植物食性が原始的な食性であるとする従来の見解を大きく改めさせるものである。さらに食性とも深く関わる亜社会性の起源に関しても議論すると共に、亜社会性のクロツヤムシ科では食性の違いが前肢や体の厚み等の形態変化をもたらしていることをも明らかにした。
著者
荒谷 邦雄 細谷 忠嗣 楠見 淳子 苅部 治紀
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

近年、日本でも国外外来種に対する規制や防除がようやく本格化したが、国内外来種への対応は大きく遅れている。 移入先に容易に定着し地域固有の個体群とも交雑が生じる上に交雑個体の識別が極めて困難な国内外来種はまさに「見えない脅威」であり、その対策は急務である。そこで本研究では、意図的に導入されたペット昆虫を対象に、形態測定学や分子遺伝学的な手法を利用して、国内外来種の実態把握や生態リスク評価、交雑個体の検出、在来個体群の進化的重要単位の認識などを実施し、国内外来種の「見えない脅威」の可視化とそのリスク管理を試み、在来の多様性保全のための効率的かつ効果的なペット昆虫問題の拡大防止策の提言を目指した。
著者
八木 孝司 荒谷 邦雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1.日本産アゲハチョウ科は単系統であり、ND5系統樹は形態による分類や食性から考えられる進化の道筋と矛盾しない。2.カラスアゲハ亜属各種は大きく2つの系統に分けられる。一方にはミヤマカラスアゲハ、シナカラスアゲハ、タカネクジャクアゲハ、オオクジャクアゲハ、ホッポアゲハ、ルリモンアゲハ、カルナルリモンアゲハが含まれる。他方にはカラスアゲハ、クジャクアゲハ、ルソンカラスアゲハ、ミンドロカラスアゲハ、タイワンカラスアゲハが含まれる。3.カラスアゲハとミヤマカラスアゲハ、ルリモンアゲハとクジャクアゲハ、ホッポアゲハ♀とフィリピンのルソンカラスアゲハ♀などはそれぞれ翅紋が良く似ているが、別の系統に属し平行進化現象を呈する。4.カラスアゲハは大きく4つの系統に分けられる。それらは台湾亜種・中国大陸南部亜種、八重山諸島亜種、奄美亜種・沖縄亜種、朝鮮・日本列島亜種、トカラ列島亜種、八丈島亜種であり、これら4系統の塩基配列の違いは、種差に匹敵するほど大きい。八重山諸島と奄美・沖縄のカラスアゲハは琉球列島が大陸から分離した時に隔離されたと考えられる。5.韓国・対馬・日本本土・サハリン産、トカラ列島産、八丈島産のカラスアゲハは別亜種とされるにもかかわらず、塩基配列が全く同じであり、最近(氷河時代)朝鮮半島からトカラ海峡以北に分布を広げたものと推測される。6.クジャクアゲハとカラスアゲハ、シナカラスアゲハとミヤマカラスアゲハは、塩基配列に違いがなく、それらは同種であることを強く示唆する。7.ヒメウスバシロチョウの北海道・サハリン産と大陸産とは塩基配列が大きく異なる。ウスバシロチョウの日本産と中国産とは大きく異なる。日本産の両種は日本列島成立時に隔離されたと考えられる。
著者
小島 弘昭 荒谷 邦雄 吉富 博之 野村 周平 渡辺 泰明
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

伊豆諸島の甲虫相解明のため,研究の遅れていたゾウムシ上科,ハネカクシ科,水生甲虫類を対象に調査を実施し,固有3新種を発見した.また,遺存固有と考えられていたクワガタムシ科2種,ゾウムシ科1種について分子系統解析を行い,前2者は極最近,周辺地域に分布する近縁種から分化した種であること,ゾウムシについては人為的移入の可能性が示唆された.島としての成立年代が新しい伊豆諸島は,生息する固有種も起源的に新しい可能性が高いことが明らかとなった.さらに,甲虫相から見た伊豆諸島のホットスポットとして御蔵島がその候補となり,北伊豆諸島の利島もこれまで考えられていた以上に重要な地域であることが示唆された.