著者
荘厳 舜哉
出版者
大阪学院大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

平成3年は,アメリカの5歳児との比較研究を,同一の観察パラダイムを利用することで試みた。現在,このデータ解析を日米両国で分析中であり,直接比較できる数値データは末だ出ていない。そこで両国で観察した印象を中心報告する。アメリカの子どもには遊んでいる玩具を,実験者が片づけてしまうストレス場面において,自分で箱を空けていったん片づけられた玩具を取り出す行動が散見され,また母親がお片付けの指示を出したとき,男女共にその理由を問いただす行動が目立った。翻って日本の子どもでは玩具を取り出す行動は皆無であり,また理由を問いただすのは男児に散見された。このような事実は,日米間の子どもの情動コントロールのあり方に大きな違いが存在するということを示唆する。6歳の観察では,前期に遊びたいのだがお母さんの言いつけに従ってお勉強を済ましてしまわなければ遊べないというストレス課題を,後期では男女別の3人集団の遊び内容の性差を見る課題を準備した。いずれの観察においても男女の性差が際立った結果となった。お勉強課題にあっては,男の子が女の子の約2倍の時間を必要とし,床に並べてある玩具で遊びたいという気持ちが,課題に集中することを妨害する傾向がはっきりと認められた。集団遊びでは男の子は互いの間にインタラクションが多く,会話も非常に豊富で,向社会的行動が豊かに出現した。また,全体のインタラクションでは,その状況がどのように変化するか全く予想がつかず,遊びのバリエションは非常に豊かであった。逆に女の子集団では会話すら行われないことが多く,一人遊びに終始する傾向が強く出現した。3人組にした女の子集団の約1/3のみに,不活発ながら相互作用が見いだされたが,互いが相手を意識して,結局相互作用を行うことが出来ないままに観察時間が終了する集団が目立った。
著者
荘厳 舜哉 山本 登志哉 亀島 信也 河合 優年 竹内 伸宜 坂元 章 藤永 保 上原 明子
出版者
大阪学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

全部で6つの大きな課題が,4つの研究集団の手によっておこなわれた。最初の3つは研究代表者を中心としたグループの,条件統制観察研究,乳児保育所の自然観察研究,それに河北と上海における感情意識構造の質問紙研究である。それぞれの結果は報告書にまとめられているが,全体を通じて,日本の母親や保育者が受け身姿勢であるのに対して,中国の母親や保育者の,指導をすることに対する強い姿勢が描き出された。坂元のグループは,最近日本でも話題になっている青少年の暴力犯罪に関する調査研究をおこなった。結果は多岐にわたるが,日中両国共,青少年犯罪の原因は家族内コミュニケーション不足といった後天的要因が作り出しているという見解において共通であった。日本ではメディアによる悪影響が問題にされるが,実際にはそれは青少年犯罪の本質ではないということも明らかにされた。山本のグループは,子どもが小遣いをどのように使うかということに視点を当て,日本民族,吉林省延辺に居住する朝鮮族,同じく延辺に居住する漢民族,上海市の漢民族とい4集団の比較研究をおこなった。その結果,民族間というよりも,居住地域において小遣いの使い方に違いが認められた。また,小遣いの使途に関する親子間の認識のずれは,これも当然のことながら,年代が上昇するにつれて拡大する。しかしながら,小遣いで購入する物品の価値判断については文化・地域において違いが認められなかった。河合のグループは,内モンゴル自治区の満州族を対象として,据え付けカメラを固定して日常を撮影するという手法,及び日記の分析を通じて,民族に特異的な養育観の研究をおこなった。幼稚園教育自体においては日中間に大きな違いはないが,集団の中での役割や行動規範の獲得において,中国側に強い強制力が働いていることが明らかになった。