著者
北野 晃祐 今村 怜子 山本 匡 菊池 仁志 小林 庸子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.57, 2011

【背景】<BR> 排痰補助装置(カフアシスト:以下MAC)は、排痰補助の他に胸郭の拡張効果などが期待できる。MACの気道への陽圧や急速な陰圧が強い違和感となり、実際の排痰困難時に、導入困難な例をしばしば経験する。<BR>【目的】<BR> 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者におけるMAC導入困難症例への対応のため、発症早期より胸郭拡張の目的でMACを使用し、その導入の円滑化を図る。<BR>【対象・方法】<BR> 対象は、平成22年4月以降に当院にてMACを導入した喀痰排出能力を保つALS患者9名。MACの初回導入は、排痰ではなく胸郭拡張の目的で使用する旨を説明した。導入時は、フルフェイスマスクを使用してINHALE (IN)のみを10~15cmH<sub>2</sub>Oより開始し、徐々に40cmH<sub>2</sub>Oを上限に圧を上げ、1日に1回(5サイクルを3セット)実施した。INを違和感なく実施可能となった患者に対しては、15~30cmH<sub>2</sub>OよりEXHALEを開始し、40cmH<sub>2</sub>Oを上限として継続的に実施した。継続的な使用が可能となった患者には、担当理学療法士(PT)により「導入時の感想」「現在の感想」に関するアンケート調査を施行。また、導入時と現在のMACへの違和感をPT1名によりVASで定量化した。本研究は当院倫理員会の承認を受けて実施した。<BR>【結果】<BR> ALS患者群のPeak Cough Flowは、264.4±65.0L/min。9名全員が継続的に使用可能となり、MACに慣れるまでに要した回数は多くが1~2回で、1名が5回の機会を必要とした。導入時の感想は、「何ともない」「スッとした」「面白い。自分で買おうかな」「喉のあたりが押し込まれる感じ」「少しきつい」が聴取された。現在の感想は、「INがビックリする」「気持ちが良い」「続けていきたい」「タイミングが取れれば大丈夫」「何ともない」「胸の方まで押し込まれる感じ」が聴取された。VASは導入時5.4±1.8/10から現在4.1±2.6/10と変化した。対象患者1名が導入3ヵ月後に肺炎で死亡、さらに1名が導入1カ月後に突然死となり、調査中止となった。<BR>【考察】<BR> MACを早期より導入した9名全員が継続的に使用可能となった。理由として、発症早期は、呼吸機能が保たれており、MACと呼吸の同調が容易であることが考えられる。しかし、違和感はVASにおいて現在も消失していない。MACは気道への陽圧と急速な陰圧という非生理的刺激を利用することから、違和感を完全に消失させることは困難と思われる。そこで、早期導入には、初回から入念なオリエンテーションと10cmH<sub>2</sub>O程度の圧より開始し、徐々に慣れていくことが重要と考える。今回2名の死亡中止例が見られている。死亡へのMACの因果関係は否定的であるものの、気胸や不整脈のリスクを伴う機器であり、今後在宅や施設での普及の為にも、導入基準決定のための評価シートが必要である。病状の進行により排痰補助を必要とした際に、MACを問題なく使用できることが重要であり、継続した検討が必要である。
著者
齋藤 豊 菊地 研 鍛 良之 大西 俊彦 魚住 翠子 菊池 仁 正和 泰斗 越路 暢生 和氣 晃司 小野 一之
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.685-688, 2018-10-31 (Released:2018-10-31)
参考文献数
8

症例は62歳男性。車の運転中に突然の前胸部灼熱感を自覚し,救急要請となった。救急指令員は救急車の出動に続いてドクターヘリの出動も要請した。救急隊(EMS)は現場で12誘導心電図(12-lead ECG)を記録し,当院へ伝送を行った。そのECGでST上昇を示し,フライトドクターが現場で行った心エコーでECG所見に一致した壁運動低下を認めた。ST上昇型心筋梗塞の診断で,硝酸イソソルビドとアスピリンの投与後に当院へ搬送し,緊急冠動脈造影で左前下行枝に99%狭窄を認め,同部位にカテーテル治療を行って,再灌流に成功した。入院後のCKの最高値は正常域内で心筋障害はほぼ認めなかった。発症からEMSの接触まで28分,door-to-balloon 時間は38分,EMS-to-balloon 時間は78分,発症から再灌流までの時間は106分であった。本症例は,救急車での搬送に40分以上を要する地域でありながら,伝送ECGとドクターヘリを組み合わせることで,発症から再灌流までの時間を120分以内に短縮でき,心筋障害を最小限にすることができた。
著者
重藤 寛史 谷脇 考恭 菊池 仁志
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

目的:難治性てんかんの焦点切除術以外の方法として,頸部を冷却することによりてんかん閾値を上げる方法をラットで試みた.方法:1.電位に依存して温度が低下するペルチェ素子を用い,電圧をコントロールして素子の表面温度を計測. 2.ペルチェ素子を用いず直接凍結エチレングリコールを頚部に接触循環させ冷却開始15分後の脳深部温度を計測(6匹).3.刺激・記録電極を設置し,非麻酔下覚醒状態で頚部冷却群と非冷却群でてんかん性放電(afterdischarges:ADs)誘発刺激閾値,ADs持続時間を比較(7匹).4.追加実験として冷却による皮質イオン分布に着目し,両側海馬周囲皮質外側硬膜下に5mm×5mmの銅板設置.非麻酔覚醒下で左海馬周囲皮質に2mA,3秒の陰性,続いて1mA,6秒の陽性直流電流を通電.陰極刺激時と非刺激時で海馬内電極によるADs誘発刺激閾値を計測(10試行).結果:1.冷却面と反対側の放熱面の温度上昇がペルチェ素子全体の温度を招き冷却効果を得られなかった. 2.非冷却側30.3±0.7℃,冷却側29.0±0.7℃で有意差を認めなかったものの冷却側で1℃の温度低下が観察できた.3.ADs誘発刺激閾値は冷却群2.0±0.7mA,非冷却群1.9±0.4mA. ADs持続時間は冷却群10.3±6.3秒、非冷却群9.2±3.7秒で有意差を認めなかった. 4.計10対記録.直流下3.7±2.7mA,非直流下2.3±1.2mAで,直流下で誘発閾値が有意に高かった.(P=0.0149)結論・考察:頚部冷却で15〜20度の脳温低下を得ることは困難であった.冷凍エチレングリコールで頚部冷却しても誘発4閾値に有意差は得られなかった.追加として行った直流電流を皮質に面分布させた電極に流すとてんかん性後放電の誘発閾値が上昇した.今後はこの方法が非侵襲的な難治性てんかんの治療方開発の礎になると期待している.