著者
叢 敏 菊池 多賀夫
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-5, 1998-06-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1

山火事跡地の先駆植物として,種子から発芽して来る代表的な種のうちヒヨドリジョウゴ,ヒメコウゾ,ヨウシュヤマゴボウ,ノブドウ,ヤマブドウ,サルトリイバラ,オオイヌタデ,ツユクサ,サンショウ,モミジイチゴ,クマイチゴ,ニガイチゴについて,一旦発芽培養を行って発芽するものは発芽させ,その後,未発芽で残った種子に対する加熱発芽反応を調べた.その結果,ヒヨドリジョウゴ,ヒメコウゾ,ヨウシュヤマゴボウ,ノブドウ,ヤマブドウ,サルトリイバラに加熱による発芽促進効果が見られた.このような発芽特性は乾燥保存種子の特性とは異なる独自のものであり,湿潤気候に適合する特性であることが示唆された.
著者
菊池 多賀夫 菊池 庸子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.69-71, 1991-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
9

仙台市中心部の街路に植裁されたシナノキの葉の展開時期が,郊外に生育する個体にくらべて約10日早いことが見いだされた。この早期の葉の展開はヒートアイランドの影響とみられ,葉の展開時期の差から逆算される市街中心部と郊外の温度差は, 1ないし1.5°C程度と見積られた。
著者
田淵 隆一 藤本 潔 持田 幸良 平出 政和 小野 賢二 平田 泰雅 菊池 多賀夫 倉本 恵生
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

ポンペイ島マングローブ林はI.Rhizophora stylosa群落、II.sonneratia alba群落、III.rhizophora apiculata・Bruguiera gymnorrhiza群落の3タイプに大別され、I、II群落は高密度の支柱根や呼吸根で特徴づけられる。泥炭層厚と^<14>C年代値とから主要群落の泥炭層厚と形成に要する期間を推定した。海側前縁部に成立するI、II型群落が深さ0〜0.5mで400年以内、最も分布面積が広いIII型では1〜2mで850〜1700年、ほとんどで1700年前後の時間が経過している。地上部現存量は、サンゴ礁原上の成熟林は2004年時点で566ton/ha、エスチュアリ域の発達した林で2005年に704ton/haと推定されなお旺盛に成長中であり、成熟林での炭素蓄積はポンペイ島で160〜300ton/ha程度、炭素蓄積速度は年当りおよそ0〜3ton/ha/yr程度と非常に高い。炭素貯留はほとんど泥炭によるものであり、年間15ton/ha程度供給される小型リターの貢献度は低い。また年平均で3〜4ton/ha程度の大型リターが枯死個体として供給される。泥炭としての炭素量は高く、2000ton/ha程度にも達する林がある。森林の更新は成熟林分下では大型ギャップができない限り暗く困難である。材分解特性を明らかにし、分離された木材腐朽担子菌Fomitopsisi pinicolaからいくつかの機能性遺伝子を単離し、厳しい環境条件を許容する能力をみとめた。高分解能衛星データを同島におけるマングローブ林域を抽出、種組成によるゾーニングと個体サイズからの林分タイプのマッピングを行ない炭素蓄積量の面的評価を行なった。
著者
大場 秀章 SUBEDI Mahen 宮本 太 寺島 一郎 黒崎 史平 増沢 武弘 若林 三千男 菊池 多賀夫 SUBEDI Mahendra N.
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

世界最大のヒマラヤ山脈では、植生の明瞭な垂直分布構造がみられる。高山帯最上部の亜氷雪帯は海抜4000mから5000mにあり、そこでは高等植物はまばらにしか生えていない。いわば、植物にとっては極限環境ともいえるこの亜氷雪帯に生える植物には特殊な形態をした種が多々ある。なかでも特異なものは温室植物とセ-タ-植物で、これらはヒマラヤとその周辺地域にしかみられない。本研究ではこれら温室植物・セ-タ-植物を中心に亜氷雪帯にのみ生育する特殊形態をした植物の形態学・生理学的特性、ならびにこれらの植物が生育する地域の植物相と植生を解析することを目的に計画された。1)調査地域としてネパ-ル東部のジャルジャル・ヒマ-ルを選定した。対象とする植物を豊富に存在すること、交通の便などを考慮した結果この地域を選んだ。2)ジャルジャル・ヒマ-ルの海抜4300mの無名地を主たる観測場所とし、ここで実験を行なった。3)光合成、蒸発散、温度、湿度、日照量などの経時変化を、種々の実験機器を用い測定・記録した。これらの機器は電気で作動するものであったが、発電機を携行した。これらは、ヒマラヤ高山の現地で得た、世界ではじめてのデ-タである。4)目下デ-タは解析の途上にあるが、代表的温室植物のRheum nobileでは、晴れると気孔を閉じて光合成が停止するといった特性が発見され、温室植物・セ-タ-植物がヒマラヤ東部の湿潤環境と関連していることを示唆された。5)温室植物・セ-タ-植物は亜氷雪帯を中心に分布するが、高山帯中部でのテ-ラスやモレ-ンの砕礫地に、生育している。様々な実験を行なった観測基地の周辺で、Rheum nobileが生育する場所の立地条件、群落密度、微地形に対応したミクロスケ-ルでの植生、繁殖法を調査した。6)温室・セ-タ-植物の細胞遺伝学的特性を明らかにするため、様々な種々根端、茎頂、未熟胚、花粉母細胞を固定し持ち帰った。現在、染色体数、核型などの解析を進めている。7)代表的温室植物である、Rheum nobileにおける胚発生を観察するための材料を採集し、持つ帰った。8)上記の種の成長過程を解剖学的に解析するための材料を採集した。9)ジャルジャル・ヒマ-ルには温室・セ-タ-植物を多産するこことが判明したので、同地高山帯の全植物相を調査し、その特性を明らかにした。10)温室・セ-タ-植物の地理的分布を明らかにするため、環境上乾燥ヒマラヤに傾斜したネパ-ル西部ジュムラ奥地と、ジャリジャル・ヒマ-ルより一層湿潤なインド・ダ-ジリン地区シンガリラ山地において調査し、これらの植物の分布調査を行なった。11)上記の諸調査・解析で得た成果はすでに14篇の論文その他として専門学術誌などに発表あるいは投稿中である。その他専門学術誌に発表予定の論文を数篇準備中である。12)上記成果の一部として、「ジャルジャル・ヒマ-ルの植生と植物相」(英文)を刊行する。これは、ヒマラヤ地域における初の地域植物誌である。これらの研究を通じてヒマラヤ山脈に固有な温室植物・セ-タ-植物の存在が湿潤ヒマラヤの環境と深く関係している可能性が示唆された。ひと口にヒマラヤといっても、植物学的にみれば実に多様であり、ヒマラヤ内部での地域性の存在を示すものである。今後、ヒマラヤの植物学的特性の一般化に向けて、特性を有する地域間での比較研究の必要性が改めてクロ-ズアップされたともいえる。