著者
波多野 肇 増沢 武弘
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.199-204, 2008-11-30 (Released:2016-09-17)
参考文献数
15

蛇紋岩の分布する地域には、蛇紋岩植物と呼ばれる特異な植物からなる群落が成立する。本研究は北アルプス、白馬岳の高山帯の蛇紋岩地において、蛇紋岩地の特異な植生の成立要因を明らかにすることを目的とし、植物の分布調査及び土壌環境調査を行った.分布調査の結果、白馬岳の蛇紋岩地においても一般的に知られているミヤマムラサキやウメハタザオといった蛇紋岩地特有の種の生育が確認された。土壌環境調査の結果、蛇紋岩地の土壌は高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率を有することが明らかになった。本調査より、蛇紋岩土壌の高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率が、白馬岳の蛇紋岩地の特異な植生の成立要因となっている可能性が示された。
著者
波多野 肇 増沢 武弘
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.199-204, 2008
参考文献数
15

蛇紋岩の分布する地域には、蛇紋岩植物と呼ばれる特異な植物からなる群落が成立する。本研究は北アルプス、白馬岳の高山帯の蛇紋岩地において、蛇紋岩地の特異な植生の成立要因を明らかにすることを目的とし、植物の分布調査及び土壌環境調査を行った.分布調査の結果、白馬岳の蛇紋岩地においても一般的に知られているミヤマムラサキやウメハタザオといった蛇紋岩地特有の種の生育が確認された。土壌環境調査の結果、蛇紋岩地の土壌は高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率を有することが明らかになった。本調査より、蛇紋岩土壌の高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率が、白馬岳の蛇紋岩地の特異な植生の成立要因となっている可能性が示された。
著者
光田 準 増沢 武弘
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.91-97, 2005-04-25
被引用文献数
2

Mt. Apoi in Hokkaido is a massif in which olivine is the bedrock. There are many endemic plant species on this mountain, and alpine plants grow at a comparatively low altitude of 810 m. For these reasons, the characteristic soil environment is of considerable interest. In this study, metal ion exchange in the soil environment and plant distribution were investigated. The results showed that the environment has a high nickel and magnesium concentration and a low calcium concentration in areas where characteristic plant species are distributed, alpine plants growing mainly in olivine soil.
著者
増沢 武弘 光田 準 田中 正人 名取 俊樹 渡邊 定元
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.85-89, 2005-04-25
被引用文献数
3

Mt. Apoi (810 m above sea level, N 42°07', E 143°02') is located in the southern part of the Hidaka mountain range. Many alpine plants are distributed along the ridge, despite its relatively low altitude. From a botanical viewpoint, this mountain has a number of special and interesting features due to the abundance of endemic plants. The following factors may contribute to the growth of alpine, endemic and relic plants at low altitude : (1) Reduction of solar radiation as well as air temperature by fog in the summer. (2) The bedrock of Mt. Apoi is ultrabasic rock (olivine). The physical and chemical characteristics of this soil and rock environment are unfavorable for plant growth, and are the cause of the abundance of endemic plants on Mt. Apoi (Watanabe 1970, 1971). The alpine meadow plant community of this area has been altering as a result of invasion of woody plants over the last 40-50 years (Watanabe 2001). In the present study, we investigated the process of invasion of Pinus pumila and Pinus parviflora var. pentaphylla (a pioneer woody plant) in this alpine meadow by measurement of tree age. The special soil environment (ultrabasic rock) in the investigated area has helped to maintain the special alpine meadow on Mt. Apoi. The delicate relationship between the soil environment and alpine plant growth will be affected by global warming and/or acid rain, resulting in a rapid decline in the distribution area of the alpine meadow.
著者
増沢 武弘
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.387-391, 2012-11-30
参考文献数
17
被引用文献数
2

南アルプスはユネスコエコパークになりうるか、というテーマに対し、解説を試みた。ユネスコエコパークは自然保護と持続可能な利用とを考慮し、自然と人間との相互関係の構築を目指した地域であり、核心地域・緩衝地帯・移行地域に区分されて、各々が相互に関係し合って、核心地域を保全しようとするものである。本稿では、これらの区分の各々の特性を挙げ、ユネスコで定められた規準に適合するかを検証した。その結果、核心地域と緩衝地帯については、両区分を構成している素材の価値が十分あるものと思われた。移行地域に関しては、関係者に対して十分な説明と時間をかけての話し合いが必要であると判断された。
著者
土器屋 由紀子 岩坂 泰信 梶井 克純 山本 正嘉 山本 智 増沢 武弘
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

2004年に無人化された富士山測候所を有効に活用し、国際的な視点に立って、多方面に開かれた総合研究施設とすることを目的として調査研究を行った。主要な行事としては、2006年11月22,23日に国際ワークショップ/シンポジウムを開催した。以下に内容を要約する。(1)富士山は工業発展の著しい東アジア大陸の東に位置しており、偏西風の通り道であり、大気汚染の観測サイトとしての価値は大きい。(2)富士山測候所の施設はまだ十分利用可能であり、利用されずに放棄されるのは資源の無駄と考えられる。最近、中国のWaliguan山、台湾のLulin山に大気化学観測地点が新設されている。ハワイのマウナロア、さらに中央アジアの山などを含めた高所観測ネットワークの中で富士山の観測が不可欠である。(3)航空機の宇宙線被爆の観測にとっても、富士山はユニークな連続観測地点である。(4)日本で唯一永久凍土が確認された富士山におけるコケ類の調査は地球温暖化を目視できる「指標」であり、今後、より詳しい継続的な観測には測候所を基地として利用することが望ましい。(5)富士山頂で7年間サブミリ波望遠鏡による冬季観測を成功させた技術を活かすことによって、天文学並びに超高層大気化学への利用が可能である。(6)高山病の原因の究明や高所トレーニングにとって富士山測候所は有用な施設である。(7)脂質の代謝機構の解明や、耳の蝸牛機能に対する低圧低酸素環境の影響など医学研究にも測候所の施設は有用である。(8)廃止になった筑波山測候所を生き返らせ、リアルタイムの気象データの配信を含めて水循環の研究に用いている筑波大学の業績に学ぶところが大きい。(9)新しい分析化学的な手法や新素材の開発・応用などにも低温・低圧の高所研究施設として測候所は利用できる。
著者
大場 秀章 SUBEDI Mahen 宮本 太 寺島 一郎 黒崎 史平 増沢 武弘 若林 三千男 菊池 多賀夫 SUBEDI Mahendra N.
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

世界最大のヒマラヤ山脈では、植生の明瞭な垂直分布構造がみられる。高山帯最上部の亜氷雪帯は海抜4000mから5000mにあり、そこでは高等植物はまばらにしか生えていない。いわば、植物にとっては極限環境ともいえるこの亜氷雪帯に生える植物には特殊な形態をした種が多々ある。なかでも特異なものは温室植物とセ-タ-植物で、これらはヒマラヤとその周辺地域にしかみられない。本研究ではこれら温室植物・セ-タ-植物を中心に亜氷雪帯にのみ生育する特殊形態をした植物の形態学・生理学的特性、ならびにこれらの植物が生育する地域の植物相と植生を解析することを目的に計画された。1)調査地域としてネパ-ル東部のジャルジャル・ヒマ-ルを選定した。対象とする植物を豊富に存在すること、交通の便などを考慮した結果この地域を選んだ。2)ジャルジャル・ヒマ-ルの海抜4300mの無名地を主たる観測場所とし、ここで実験を行なった。3)光合成、蒸発散、温度、湿度、日照量などの経時変化を、種々の実験機器を用い測定・記録した。これらの機器は電気で作動するものであったが、発電機を携行した。これらは、ヒマラヤ高山の現地で得た、世界ではじめてのデ-タである。4)目下デ-タは解析の途上にあるが、代表的温室植物のRheum nobileでは、晴れると気孔を閉じて光合成が停止するといった特性が発見され、温室植物・セ-タ-植物がヒマラヤ東部の湿潤環境と関連していることを示唆された。5)温室植物・セ-タ-植物は亜氷雪帯を中心に分布するが、高山帯中部でのテ-ラスやモレ-ンの砕礫地に、生育している。様々な実験を行なった観測基地の周辺で、Rheum nobileが生育する場所の立地条件、群落密度、微地形に対応したミクロスケ-ルでの植生、繁殖法を調査した。6)温室・セ-タ-植物の細胞遺伝学的特性を明らかにするため、様々な種々根端、茎頂、未熟胚、花粉母細胞を固定し持ち帰った。現在、染色体数、核型などの解析を進めている。7)代表的温室植物である、Rheum nobileにおける胚発生を観察するための材料を採集し、持つ帰った。8)上記の種の成長過程を解剖学的に解析するための材料を採集した。9)ジャルジャル・ヒマ-ルには温室・セ-タ-植物を多産するこことが判明したので、同地高山帯の全植物相を調査し、その特性を明らかにした。10)温室・セ-タ-植物の地理的分布を明らかにするため、環境上乾燥ヒマラヤに傾斜したネパ-ル西部ジュムラ奥地と、ジャリジャル・ヒマ-ルより一層湿潤なインド・ダ-ジリン地区シンガリラ山地において調査し、これらの植物の分布調査を行なった。11)上記の諸調査・解析で得た成果はすでに14篇の論文その他として専門学術誌などに発表あるいは投稿中である。その他専門学術誌に発表予定の論文を数篇準備中である。12)上記成果の一部として、「ジャルジャル・ヒマ-ルの植生と植物相」(英文)を刊行する。これは、ヒマラヤ地域における初の地域植物誌である。これらの研究を通じてヒマラヤ山脈に固有な温室植物・セ-タ-植物の存在が湿潤ヒマラヤの環境と深く関係している可能性が示唆された。ひと口にヒマラヤといっても、植物学的にみれば実に多様であり、ヒマラヤ内部での地域性の存在を示すものである。今後、ヒマラヤの植物学的特性の一般化に向けて、特性を有する地域間での比較研究の必要性が改めてクロ-ズアップされたともいえる。
著者
内藤 靖彦 ELVEBAKK Arv WIELGOLASKI フランスエミル 和田 直也 綿貫 豊 小泉 博 中坪 孝之 佐々木 洋 柏谷 博之 WASSMANN Pau BROCHMANN Ch 沖津 進 谷村 篤 伊野 良夫 小島 覚 吉田 勝一 増沢 武弘 工藤 栄 大山 佳邦 神田 啓史 福地 光男 WHARTON Robe MITCHELL Bra BROCHMANN Chirstian ARVE Elvebak WIELGOLASKI フランス.エミル 伊村 智
出版者
国立極地研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

北極の氷河末端域における生態系の変動は温暖化に強く関連するといわれているがあまり研究はなされていない。とくに今後、北極は4〜5℃の上昇が予測されているので調査の緊急性も高い。本研究では3年間にわたり(1)植生及び環境条件の解明、(2)繁殖過程の解明、(3)土壌呼吸と温度特性の解明、(4)土壌節足動物の分布の解明、(5)人工環境下での成長変化の解明を目的として調査、観測が実施された。とくに気候変動がツンドラの生態系に及ぼす影響を、遷移初期段階である氷河モレーン上に出現する動物、植物の分布、定着、生産、繁殖、移動について研究を行った。調査、観測は海洋性気候を持つスバールバル、ニーオルスンの氷河後退跡地で実施した。初年度は植生及び環境条件の解明を目的として6名の研究者を派遣した。氷河末端域のモレーン帯の植物の遷移過程の研究では、氷河末端域から約50メートル離れたモレーンに数種の蘚類が認められ、これらはパイオニア植物として考えられた。種子植物は100メートル過ぎると出現し、地衣類の出現はむしろ遅いことが明らかになった。また、遷移段階の古いチョウノスケソウ群落は立地、土壌中の窒素量の化学的特性の違いによって7個の小群落に区分された。2年度は植生と環境条件の解明を引き続き実施すると共に、遷移初期段階における植物の繁殖、土壌呼吸と温度特性、土壌節足動物の生態の解明を目的として実施された。現地に6名の研究者が派遣された。観測の成果としては昨年、予備的に実施したスゲ属の生活形と種子繁殖の観察を踏まえて、本年度はムカゴトラノオの無性繁殖過程が調査された。予測性の低い環境変動下での繁殖特性や繁殖戦略について、ムカゴの色、大きさ、冬芽の状態が環境の変化を予測できるという実装的なアプローチが試みられた。パイオニア植物といわれているムラサキユキノシタは生活型と繁殖様式について調査され、環境への適応が繁殖様式に関係しているなど新たな知見が加わった。また、氷河末端域の土壌呼吸速度は温帯域の10%、同時に測定した土壌微生物のバイオマスはアラスカの10%、日本の5%程度であることが始めて明らかにされた。土壌節足動物の分布の解明においては、一見肉眼的には裸地と見なされるモレーン帯にもダニ等の節足動物が出現し、しかも個体数においては北海道の森林よりもむしろ多いなど興味深い結果が得られた。最終年度は2年度の観測を継続する形で、6名の研究者を現地に派遣した。実施項目は氷河後退域における植生と環境調査、土壌と根茎の呼吸調査、および繁殖生態調査が実施された。観測の成果としては植生と環境調査および土壌と根茎の呼吸速度の観測では興味深い結果が得られ、すなわち、観測定点周辺のポリコンの調査では植物および土壌節足動物の多様性が大きいことと、凍上および地温に関する興味深いデータが取得された。また、土壌および根茎の呼吸速度の観測では、実験室内での制御された条件での測定を行い、温度上昇に伴って呼吸速度は指数関数的に上昇するが、5度以上の温度依存性が急に高くなり、これは温帯域のものより高かった。これらを更に検証するためにより長期的な実験が必要であるが、今後、計画を展開する上で重要なポイントとなるものと考えられる。さらに、チュウノスケソウの雪解け傾度に伴う開花フェノロジー、花の性表現、とくに高緯度地域での日光屈性、種子生産の制限要因についての調査では、生育期間の短い寒冷地での繁殖戦略の特性が明らかにされた。初年度および最終年度には、衛星による植物分布の解析し環境変動、北極植物の種多様性と種分化について、ノルウェー側の共同研究者と現地で研究打ち合わせを持った他に、日本に研究者を招聘して、情報交換を行った。最後に3年間の調査、観測の報告、成果の総とりまとめを目的として、平成9年2月27、28日に北極陸域環境についての研究小集会、北極における氷河末端域の生態系に関するワークショップが開催された。研究成果の報告、とりまとめに熱心な議論がなされた。