著者
西 順一郎
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.26, no.10, pp.10_18-10_25, 2021-10-01 (Released:2022-02-25)
参考文献数
52

COVID-19 mRNAワクチンの発症予防効果は、わが国でも95%と高いことが報告された。海外では発症予防だけでなく、感染予防効果も85~92%と報告されている。ウイルスベクターワクチンも、海外で70%程度の有効率が報告され有用である。しかしいずれのワクチンも数か月で抗体価が減衰し、免疫回避力を持つデルタ株の蔓延とともに、ワクチンの有効性低下が懸念される。今後高齢者やハイリスク者を対象に、3回目のブースター接種の検討が必要である。mRNAワクチン接種後は接種部位の疼痛や発熱が比較的多く、わが国ではとくにモデルナのワクチン2回接種後の37.5℃発熱の頻度が78%と高い。しかし、重篤な健康被害はまれであり、アナフィラキシーや心筋炎も100万接種当たり数例程度である。ワクチンの利益は副反応のリスクに比べてはるかに大きく、今後接種率上昇が望まれるが、12歳未満での接種については慎重な議論が必要である。
著者
川村 英樹 徳田 浩一 川上 雅之 有村 敏明 川口 辰哉 松井 珠乃 西 順一郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.282-290, 2017-09-25 (Released:2018-03-25)
参考文献数
14
被引用文献数
3

鹿児島県JMAT(日本医師会災害医療チーム)では宇土市で感染対策チームを構成し,4月21日(本震5日後)~5月1日に被災地医師会と自治体保健活動との協働で避難所感染対策支援活動を行った.今回の研究の目的は避難所感染対策を検証し,有効性を検証することである.各避難所で把握された発熱者,呼吸器・消化器の有症者数を調査票に記録し症候群サーベイランスを実施した.期間中14の指定避難所で40名の呼吸器・8名の消化器の有症状者がみられたが,インフルエンザ・ノロウイルス感染症は除外された.設備・感染対策物品・衛生環境・隔離スペース等を巡回時に確認し,リスクアセスメントを行ったが,次亜塩素酸ナトリウムが不足し,トイレ清掃や吐物処理物品の準備が不十分であった.次亜塩素酸ナトリウム等の必要物品配布やトイレ清掃・吐物処理方法の指導,感染症発症例への対応も併せて実施した.アウトブレイクの発生はなく,リスクアセスメントと症候群サーベイランスを活用した避難所感染対策支援活動は感染拡大防止に有用と思われた.一方,情報収集や活動内容に他の医療支援チームや保健師活動と重複するものもあり,情報共有が可能なスキームの確立が望まれる.
著者
中島 利博 川原 幸一 西 順一郎 三浦 直樹
出版者
東京医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016

キルギスではRheumatic fever : (以下、RF)が未だに猛威を奮っている。さらに、顕在化しないRFの後遺症も含めたRheumatic heart diseases(以下、RHD)が食生活(肉食、ウオッカ)、環境因子(低酸素)と併せて当該地域での死因の過半数を占める60歳までの心不全の潜在的リスクファクターであることを報告していた。10年を超える継続的な医療支援によりキルギスのほぼ全土を網羅する詳細なフィールド調査を行い、RF/RHDの有無、心エコーなど理学的所見、溶連菌など細菌感染症の頻度、家族歴など2000人を超える住民から100を超える項目に関する調査を完遂していた。その結果より、溶連菌以外の細菌感染の陽性率も高く、その一因に未だに主流であるバイオマス燃料による粘膜免疫の低下が考えられることを見出した。呼吸器分野の専門家を加え、感染の遷延化・慢性化に対する宿主因子の探索を行った。さらに細菌感染に対する啓蒙活動を行いその効果を検討した。キルギスの食生活について循環器疾患や免疫に対する影響を検討するため生理活性を測定した。その結果キルギスの特産として知られるある食物が本国のものと比較して血管内皮細胞に対して高い抗酸化作用を有していることが示唆された。上記の成分を分析しRF/RHDの予防として活用できるのではないかと期待できる。啓蒙活動についてはロシア語に加えてもう一つの公用語であるキルギス語の母子手帳を作成し、現地JICAを通して国民に配布を開始した。また名誉領事会議において本活動の重要性をキルギス政府に対しても働きかけを行った。既に配布済みであるロシア語が広く使われている都市部においてはRF/RHDの減少が認められることからその効果が期待される。
著者
根路銘 安仁 西 順一郎 藤山 りか 武井 修治 吉永 正夫 河野 嘉文
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.967-974, 2004
被引用文献数
7

風疹の局地的流行は現在も続いており, 先天性風疹症候群 (CRS) の報告も増加しているが, 播した院内感染を経験した. 2003年3月から4月に計15名の院内感染者を認め, 院内感染対策として全病院関係者259名に風疹抗体検査 (赤血球凝集阻止反応;HI法) を病院全額負担で説明を行い, 同意を得て検査した. 発症者と拒否者2名を除いた251名が検査を受け, 感受性者が67名みられた. 発症者を除いた53名に風疹ワクチンを病院半額補助で勧奨接種した. その後速やかに終息し, 職員から患者への伝播は無かった. 発症者15名のうち9名は, 感染前の調査では, 既往歴または予防接種歴があると答えており問診だけでは信頼性に乏しいと考えられた. 感受性者・発症者は高年女性, 男性に多く, 全年齢層に対策が必要と考えられた. 抗体検査, ワクチン費用補助で約20万円を要した. 発症者の欠勤日数は平均6日, 平均賃金は約12,000円で, 今回の院内感染で総額約140万円が病院の損失になった. 女性の多い職場である病院では妊娠に伴う問題があり, 予防接種の時期やCRSの危険性等, 風疹感染対策は重要であると考えられる. 風疹の病院職員における流行は, 発症者の賃金の損失だけでなく病院運営に支障をきたし収入面での損失の可能性もあり, 事前の風疹感染対策は経営上充分に投資効果があると考えられる.