著者
桝元 敏也 桝元 智子 吉田 真 西川 喜朗
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.121-124, 1998 (Released:2007-03-29)
参考文献数
16
被引用文献数
2 4

ミズグモ (Argyroneta aquatica) は水中で生活を行う唯一のクモであるが, 日本では生息環境の分断化と悪化から限られた水域にしか生息しておらず, 早急に保全の対策が必要とされている. ところが, ミズグモの生息環境に関する情報はこれまで報告されていなかった. ミズグモを保全するための研究として, 我々は1996年の5月に京都府深泥池において, ミズグモの生息水域と生息しない水域の水の温度, pH, 溶存酸素 (DO) を比較した. その結果, ミズグモの生息する水域は pH と DO が共に低かった. 特に DO は魚の生息のできないほどの低い値であり, このことによってミズグモは天敵である魚から逃れることができるとみられる. また, この低 pH と DO は深泥池に分布するミズゴケによる環境形成作用によって維持されており, ミズグモの保全にはこのミズゴケ群落を維持することが重要である.
著者
日浦 勇 宮武 頼夫 冨永 修 西川 喜朗 桂 孝次郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.97-110, 1978-06-01

日本列島の生物地理を考えるにあたって,アジア大陸との中間に位置する対馬が重要な鍵をにぎるのはいうまでもない.われわれはこの島の昆虫・クモ相に興味をもち,1968年から計10回にわたって調査を行い,いくらかの新しい知見をえた.また,1973年には朝鮮半島南部で採集し,比較標本の入手につとめた.そのひとつとして,タイワンモンシロチョウPieris canidiaについて判明したことを報告したい.
著者
西川 喜朗
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.123-136, 1983
被引用文献数
1

1982年8月23日から9月3日にかけて, 東北地方の主として秋田県, 山形県そして新潟県北部のヤチグモ類(Coelotes 属)について調査した。ヤチグモ類は地表性または地中性のクモで, ほとんどの種の成熟期は秋から春であるが, 今回の調査の時期は, 成体の出現期としては少し早すぎたように思われた。したがって, 亜成体の個体が多く採集されたが, 採集後に飼育を続けることにより, そのうち約半数の個体がガラス管中で脱皮して成体となった。 今回の調査の結果, これらの東北地方の山地に分布するヤチグモ類は6種が確認され, ファウナの空白地帯をかなりうめることができた。うち3種は新種で, 本文に記載した。6種の種名と産地は次のとおりである。 1) クロヤチグモ C. exitialis L. KOCH, 1878-鳥海山(秋田県矢島町), 三方倉山, 摩耶山, 温海岳(以上山形県温海町)。既知産地は本州, 四国, 九州 2) フタバヤチグモ C.hamamurai YAGINUMA, 1967-太平山(秋田市), 柴倉峠(秋田県田沢湖町)。既知産地は本州(東北, 関東, 中部地方) 3) アズマヤチグモ C. kitazawai YAGINUMA, 1972-大平山(岩手県雫石町), 小友峠(秋田県本庄市)。既知産地は本州(東北, 関東, 中部地方) 4) アキタヤチグモ C. erraticus NISHIKAWA, 1983(新種)-岩木山(青森県岩木町), 本山, 真山(以上秋田県男鹿市), 河北林道の大滝(同河辺町), 兵治沢(同阿仁町), 柴倉峠(同田沢湖町), 駒ケ岳(同田沢湖町), 鳥海山(同矢島町), 三方倉山, 摩耶山(以上山形県温海町) 5) マサカリヤチグモ C. kintaroi NISHIKAWA, 1983(新種)-真山(秋田県男鹿市), 三方倉山, 温海岳(以上山形県温海町), 鳴海山(新潟県朝日村), 蔵王山(山形市)。既知産地は新潟県北部(黒川村, 大石山)(八木沼, 1981) 6) オバコヤチグモ C. obako NISHIKAWA, 1983(新種)-本山, 真山(以上秋田県男鹿市), 太平山(秋田市), 兵治沢(同阿仁町), 駒ケ岳(同田沢湖町), 鳥海山(秋田県矢島町および山形県八幡町) なお, 山地での調査に主眼をおいたので, 北海道から九州まで広く分布し, 都市近郊や神社や人家の周辺などからよく採集され, 当然分布しているだろうと考えられるヤマヤチグモ C. corasides, シモフリヤチグモ C. insidiosus, ヒメシモフリヤチグモ C. interunus, メガネヤチグモ C. luctuosus などは, 残念ながら採集できなかった。 調査地域の気候帯は, 水平的にはかなりよく似ていて単純であるが, 垂直的には温帯から高山帯にわたり, かついくつかの山塊が含まれているので, それらの山塊ごとに特産種が見られるかも知れないと考えられた。しかし, 調査の結果は当初の予想がはずれ, 3種の新種においても, その分布域は多少異ってはいるものの, 東北地方のうちである広がりをもって分布しており, 中部地方などで見られるような, 特定の山塊の固有種は認められなかった。また, 既知の3種も全国または東日本に広く分布する種であった。 以上のことから, ヤチグモ類に関するかぎり, 東北地方における山塊や平野などが, 種分化に大きな影響をおよぼすほど地理的隔離の要因にはなっていないものと考えられる。