著者
西村 将洋
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.33-47, 2015 (Released:2016-08-02)

谷崎潤一郎の日本文化論「陰翳礼讃」(一九三三年一二月~翌年一月)が、どのような国際的環境で生成したのかを二つの視点から考察する。第一点は一九二六年の上海旅行である。この時の中国知識人との交流を通じて、谷崎は日本文化や自らの幼少期を再発見し、「陰翳」に関する重要なイメージを獲得した。第二点は一九二七年の芥川龍之介との論争である。その際、谷崎は芥川の影響を受けつつ、ジャポニスムの問題に注目し始めるとともに、美術工芸などのモノではない、非実在的な文化に関する思索を展開していくことになる。以上の点を踏まえながら、「陰翳礼讃」のテクストを検討し、連続的な差異化という叙述方法や、一人称複数の攪乱的使用について考察する。
著者
伊藤 徹 秋富 克哉 荻野 雄 笠原 一人 昆野 伸幸 西川 貴子 西村 将洋 松隈 洋 長妻 三佐雄 若林 雅哉
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

1890年代から1950年代の日本において、知識人や芸術家たちを支えた≪語り≫を主題とする本研究は、哲学、政治学、経済学、文学、建築、美術工芸、演劇などの諸局面で、それが、どのような形で生産され、また消費されていったのか、その具体相を明らかにした。≪語り≫とは、近代化によって従来の生の地盤を掘り崩された後に生じた空隙を埋めるべく創出された、共同的な基礎的虚構群を意味する。本研究は、自己産出的な幻想によって自己を支える構造を、当該の時代の精神史の内に見出した。
著者
西村 将洋
出版者
西南学院大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、19世紀から20世紀へと移行する世紀末転換期から、1945年の第二次世界大戦終結までの期間を対象として、ヨーロッパで形成されたジャポニスムの内実を検討しつつ、その上で、日本人がジャポニスムをいかに受け入れ、そして、いかなる日本イメージを再構築したのかを調査・考察した。研究成果は大きく以下の4点にまとめられる。(1) ロンドンでの文献調査ロンドンの専門機関を利用して、1910年に開催された日英博覧会や、同時期のロンドン演劇界に深く関わった劇作家・舞踏研究家の坪内士行の足跡を調査し、1910年代の日英異文化交渉の一端を明らかにした。(2) ジャポニスムに関する日本語文献の収集と分析当時の日本人によるヨーロッパの旅行記やジャポニスム関連文献を収集することで、日露戦争(1904-1905年)前後から第二次世界大戦終結までの期間を対象として、通史的な観点から、ジャポニスム概念の質的な変化を析出した。(3) 1910年代のイギリス・ジャポニスムと日本人についての考察イギリスのジャポニスムと日本人の関係を探るために、特に1910年代に注目し、日英博覧会、演劇批評、文芸批評の観点から、日英異文化交渉の一面を明らかにした。具体的には、1910年代前後にイギリスを訪れた長谷川如是閑、坪内士行(作家・坪内逍遙の息子)、長谷川天渓らの異文化体験について考察を加えた。(4) 1930年代~1940年代の日仏文化交流についての考察1930年代から1940年代にかけてのパリにおける日本文学紹介や、異文化交渉の状況を調査した。具体的には、川路柳虹、松尾邦之助、坂本直道(坂本龍馬の末裔)、藤田嗣治について考察を加えた。