著者
岸田 治 西村 欣也
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.40-47, 2007
参考文献数
45
被引用文献数
1

多くの動物は、捕食者に出会うと逃げたり隠れたりするが、形さえも変化させ捕食を回避しようとするものもいる。形態の変化による防御戦略は誘導防御形態戦略とよばれ、多様な生物分類群でみられる表現型可塑性として知られる。最近の研究では、捕食者動物は、ただ捕食されにくい形に変わるだけでなく、その変化が柔軟であり、捕食者環境の時間的・空間的な変異によく対応していることが知られている。本稿では、エゾアカガエルのオタマジャクシの捕食者誘導形態の防御機能と、柔軟な形態変化能について紹介する。エゾアカガエルのオタマジャクシは、捕食者のエゾサンショウウオの幼生とオオルリボシヤンマのヤゴに対して、それぞれに特異的な形態を発現する。サンショウウオ幼生によって誘導された膨満型の形態はサンショウウオ幼生による丸のみを妨げ、ヤゴによって誘導された高尾型の形態はヤゴによる捕食を回避するために有効である。これらの形態変化は柔軟性に富んでおり、一度、どちらかの捕食者に対して特異的な防御形態を発現した後でも、捕食者が交替したときには、新たな捕食者に特異的な防御形態へ変化できる。また、捕食の危険が取り除かれたときは元の形態へと戻る。捕食者特異的な形態の互換性は、捕食者種に特異的な防御形態誘導を獲得するうえで重要な役割を果たしたと考えられる。また、形態変化の可逆性は防御にコストがかかることを示唆している。これらの形態変化の時間的な可変性に加えて、オタマジャクシは危険の強度に応じた調整的な防御形態発現を示す。このことはオタマジャクシが捕食強度に応じて費用対効果を最大化するように防御を発現している可能性を示唆している。
著者
岸田 治 西村 欣也
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.40-47, 2007-03-31 (Released:2016-09-10)
参考文献数
45
被引用文献数
1

多くの動物は、捕食者に出会うと逃げたり隠れたりするが、形さえも変化させ捕食を回避しようとするものもいる。形態の変化による防御戦略は誘導防御形態戦略とよばれ、多様な生物分類群でみられる表現型可塑性として知られる。最近の研究では、捕食者動物は、ただ捕食されにくい形に変わるだけでなく、その変化が柔軟であり、捕食者環境の時間的・空間的な変異によく対応していることが知られている。本稿では、エゾアカガエルのオタマジャクシの捕食者誘導形態の防御機能と、柔軟な形態変化能について紹介する。エゾアカガエルのオタマジャクシは、捕食者のエゾサンショウウオの幼生とオオルリボシヤンマのヤゴに対して、それぞれに特異的な形態を発現する。サンショウウオ幼生によって誘導された膨満型の形態はサンショウウオ幼生による丸のみを妨げ、ヤゴによって誘導された高尾型の形態はヤゴによる捕食を回避するために有効である。これらの形態変化は柔軟性に富んでおり、一度、どちらかの捕食者に対して特異的な防御形態を発現した後でも、捕食者が交替したときには、新たな捕食者に特異的な防御形態へ変化できる。また、捕食の危険が取り除かれたときは元の形態へと戻る。捕食者特異的な形態の互換性は、捕食者種に特異的な防御形態誘導を獲得するうえで重要な役割を果たしたと考えられる。また、形態変化の可逆性は防御にコストがかかることを示唆している。これらの形態変化の時間的な可変性に加えて、オタマジャクシは危険の強度に応じた調整的な防御形態発現を示す。このことはオタマジャクシが捕食強度に応じて費用対効果を最大化するように防御を発現している可能性を示唆している。
著者
西村 欣也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、上位捕食者(ヤゴ)、下位捕食者(エゾサンショウウオ)の幼生、餌となる生物(エゾアカガエル)のオタマジャクシの3種からなる単純な食物網における、オタマジャクシのエゾサンショウウオ幼生に対する誘導防御形態、エゾサンショウウオ幼生のオタマジャクシを捕食?攻撃するための誘導攻撃形態の発現を調べた。両者の対抗的形態発現の程度はヤゴの存在によって緩和された。互いの対抗的な可塑性は、第三者の介入によって調整される必要があり、そのような調整がなされていることが明らかとなった。
著者
西村 欣也
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

繁殖行動(繁殖の時期、産卵場所の選択、産卵する子の大きさなど)は、子孫を残すことに密接に関係をしている。そのため、繁殖行動は自薦選択によってどの様にデザインされてきたかを考えることは、行動の進化を研究する上で重要となる。産卵のためのコストと産卵された子どもの適応度の間にトレードオフの関係があるとき、産卵行動はそのトレードオフによってどの様の影響を受けるだろうか。寄生蜂(Dinarmus vasalis)を用いた実験から、寄生蜂の寄主選択は、産卵する雌が、交尾を受けているかどうかによって変わることが明らかになった(Nishimura,in MS)。生活史進化の数理生物学的解析によると、産卵のこめのコストと、産卵された子どもの適応度のバランスによって、寄主選択の仕方は左右される。寄生蜂は、未受精卵は雄となり受精卵は雌となる。卵の大きさに雌雄で違いはないので,寄主の条件が同じであれば、産卵のためのコストは、受精を受けた雌、未受精の雌の間で違いはない。産卵のためのコストと産卵された子どもの適応度の間にトレードオフがあるような2つのタイプの寄主(一方は、産卵しやすいが産みつけられた子どもの適応度が低くなる、他方はその逆)の利用の仕方は、産卵にかかるコストによって現在の生存率が減ることと、産卵のコストをかけることによって子どもの適応度が上がる事のバランスによって決まる。交尾を受けた雌では、よい発育条件のもとで、より適応度が上がる雌を産めるので、産卵に、よりコストをかけ、子どもの適応度が高くなるような寄主に産卵する、一方、未交尾雌では、よい発育条件のもとで雄の子が適応度を上げる利点よりも、産卵コストの少ない寄主に産卵して、生存率を高めた方が進化的に有利は方法となる。寄主選択は、生活史進化の解析から、交尾の有無、産卵にかけるコスト、産みつけられた子どもの適応度よって変化することが分かる。
著者
西村 欣也 三浦 徹 岸田 治 道前 洋史 北野 准
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

北海道の固有種であるエゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)の幼生は、捕食者生物、餌生物、同種幼生の存在に呼応して生態学的機能を有する表現型可塑性を示す。そのため、進化生態学、発生生物学を融合する研究の優れたモデル生物である。本研究では、エゾサンショウウオ幼生が捕食者生物存在下、餌生物存在下で可塑的に発現される形態変化について、幾何学的形態解析法を用いて定量的に明らかにし、その分子発生学的メカニズムを調べる出発点として形態変化と関連するゲノム情報の探索を行った。さらに、生息域全域を網羅する5地域集団間で、表現型可塑性に伴う形態変化の反応規範と、遺伝マーカーの変異を調べた。
著者
西村 欣也 森 司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

エゾアカガエル(Rana pirica)のオタマジャクシとエゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)の幼生は、雪解けの後の北海道の池に成立する生物群集の創始者である。エゾサンショウウオ幼生は発生時のある条件で、口顎が発達した「広顎型」になる。広顎型の個体はオタマジャクシや同種の幼生を丸のみで捕食する「捕食型」である一方、エゾアカガエルのオタマジャクシは、エゾサンショウウオ幼生の捕食危機に曝されると、頭胴部を膨らませた「膨満型」になる。膨満型は、広顎型エゾサンショウウオ幼生の丸のみ型の捕食に対抗する「防御型」である。このように、これら2種の両生類の形態は可塑的で互いの捕食-被食関係に対して適応をはかっているものと解釈できる。この事実を出発点として、誘導防御・攻撃形質に関する理論的・実験的研究を発展させた。エゾアカガエルのオタマジャクシは、池の生物群集内の捕食者一般に対しても、防御形態を発現する。もっとも頻繁に出会う強力な捕食者であるヤゴによって防御形体誘導実験を行った結果、その誘導形体は、エゾサンショウウオ幼生によって誘導される防御形態とは異なっていた。エゾアカガエルのオタマジャクシは、,丸のみ型捕食者(エゾサンショウウオの幼生)に対するスペシャリスト的防御形態と、被丸のみ型の捕食者に対するジェネラリスト的防御形態の2つの異なる形態を臨機応変に発現する能力を有していることが分かった。