著者
西田 正規 オダックス マブラ 木村 有紀 網谷 克彦
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

先史社会の復元は、それが定住社会であれば生活遺物もまた集落周辺に集中的に堆積しているため、集落遺跡の発掘によってその全体を把握できる。しかし、生活拠点を頻繁に移動させる遊動社会は、生活遺物を広大な地域に分散させるため、遺跡の発掘によって十分な情報を得ることが困難である。実際、遊動社会の先史学的研究は、定住以後の社会復元との比較において、きわめて未熟な段階に留まっている。これを克服するため本研究は、タンザニアのセレンゲティ国立公園南部の約2.5000平方キロを調査地として地表面に広く薄く散乱している石器の分布調査を行い、調査データを高度な統計処とGISを用いて解析し、それらの石器を廃棄した遊動社会の空間利用と資源利用、および遊動パターンの復元的研究に取り組んだ。石器の分布調査は50メートル四方の方形区を設定して地表の石器を採集して行い、また、地下に埋もれている石器を把握するため2平方メートルのテストピット調査を行った。計測エラーなどの資料を除外するなどして、最終的な解析は98の方形区と9ヶ所のテストピットのデータを用いて行った。テストピット調査の結果、地下に埋没している石器の大半は地表下20センチまでの浅い所に集中しており、その密度は地表面の石器密度と高く相関する(R2=0.94)。これにより、地表面の石器密度からその地域に残存する石器の全量の推定が可能であり、埋没している石器密度は、地表面の石器密度の42000倍であった。また方形区データから得られた石器密度分布を、地表水や森林、風避け地形など、「ヒトの住みやすさ」に影響する環境因子と関連づけて解析した。その結果、一年を通じて涸れない水場までの距離や遠方まで見渡せる地形などの環境因子によって石器密度分布の80パーセントが説明できることが明らかになった。以上をもとに調査地における石器予想分布図を作成した。
著者
西田 正規
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.p234-255, 1981-06
被引用文献数
1

Among the several kinds of nuts used for foods during theJomon Period chestnuts (Castanea crenata) and walnuts (Juglancemandshurica)w ere the most important. However, being sun plantsthey are rare in primary forests.Several researchers analyzed charred wood from 12 sites,ranging in age from the Earliest to the Late Jomon Periods, andfound charred chestnut wood in all sites and charred walnut woodin 2 sites. In addition, at the Torihama site the Early Jomonsediment contained seeds of many sun plants, whereas the Earliestsediment contained few. This seems to suggest a difference in theresidential style between the two periods; temporary gatheringcamps in the Earliest Jomon vs. sedentary villages in the EarlyJomon. Inhabitants of the sedentary villages seem to have exploitednearby primary forests, converting them secondary forest,which should have provided suitable habitats for chestnuts andwalnuts. This seems to have been the most likely first step towardintentional food production by man. Speculating thus, it is suggestedhere that intentional nut cultivation emerged in the CentralHonshu highland region during the Middle Jomon Period.
著者
西田 正規
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.277-285, 1973
被引用文献数
1

遺跡から出土する木炭片からその樹種を同定する試みを行った.これを木炭分析とよぶことにする.これによって遺跡周辺の植生と当時の人々の生活を復元するための資料の一つとして利用できることが明らかになった.<br>木炭試料は京都府桑飼下遺跡出土のものでこの遺跡は縄文後期中葉のものと判定されている.<br>樹種同定法は,多数出土した木炭片から任意に選んだ100個の木炭片をミクロトームで切り切片プレパラートにして細胞構造を顕微鏡観察することによった.これは木材は炭化した後にも,その細胞構造の空間的配置がほとんど変っていないことが判明したからである,この研究の結果を要約すると.<br>1.100個の標本中,切片作成不可能のもの5個,細胞構造が著しく壊されていたもの14個で,残る81個は同定可能であった.<br>2.81個中,種名の確認ができたものは52個で15種,属名までの確認ができたものは27個で4属であった.2個は針葉樹とのみ確認できた.(表1)<br>3.この中ではアカガシ亜属(<i>Cyclobalanopsis</i>)がもっとも多く20個,クリ(<i>Castanea crenata</i>)が13個,オニグルミ(<i>Juglans mandshurica</i>),ケヤキ(<i>Zelkova serrata</i>) の順である.
著者
西田正規 [著]
出版者
講談社
巻号頁・発行日
2007
著者
西田 正規 マブラ オグックス スプレイグ デービッド MABULA Audax マブラ オダックス 伊藤 太一 マゴリ C.C. 安仁屋 政武
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

今日のアフリカ狩猟採集社会は原初的人類社会の理解に不可欠の情報源である。だがこれらの社会は農耕・牧畜社会と接触し変容してきた歴史があり、原初的社会のモデルにすることに疑いがある。本研究は農耕・牧畜以前のサバンナ狩猟採集社会を復元することでこの問題に解答する。またこの目的を果たすため、タンザニアのセレンゲティ国立公園の地表面に散乱している後期石器時代の石器の分布状況を把握することから約1万年前の狩猟採集社会の空間と資源利用パターンを復元する方法を開発する.3年間の調査でおよそ10000平方キロの範囲を踏査し、50メートル四方の方形区を126ヶ所、それ以外のポイントを約200ヶ所設定し、位置をGPS測量し、地表の石器を採集し、地形、植生、土壌特性を記録した。採集した石器約1万点を筑波大学に持ち帰り分析中である。諸データをGISデータベースに入力中である.すでに把握した点は以下のとおり。1)公園の地表面には前期石器時代から金属器時代までの数十万年にわたる文化遺物が散乱しており、中期および後期石器時代石器の密度が高い。2)前期および中期石器時代石器には公園内に産出するクオ-ツァイトが、後期石器時代石器には黒曜石とクオ-ツが主に使われている。黒曜石の原石は公園内になく、大地溝帯の火山帯から運ばれたと推定できる。3)後期石器時代の石器の分布密度は平方kmあたりおよそ1万点である。4)石器密度は調査方形区により0点から500点以上まで大きく変化する。5)特に高密度に分布する場所を4カ所発見した。いずれも大きな岩に囲まれた場所であり頻繁に人の訪れるキャンプサイトと予想できる。6)河川や池に近い場所の石器密度は比較的高い。7、地表水から遠く離れた場所にも比較的低い密度の分布がある。以上の点を手がかりにGIS上でさらに解析を進め初期の目的を達成する。