著者
永井 美之 速水 正憲 内山 卓 足立 昭夫 山本 直樹 塩田 達雄 長澤 丘司 松下 修三 生田 和良
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は延べ約80名の研究者を、1。HIVの複製機構、2。病態のウイルス学的基盤、3。病態の免疫学的基盤、4。エイズの動物モデル、5。感染と病態の制御の5つの柱のもとに組織し、細胞、モデル動物、そして自然宿主であるヒトのレベルでのHIV感染機構の解明、感染に対する宿主応答の実体の解明をとおして、エイズ発症の仕組みを理解するとともに感染発症の阻止と治療のための新しい方法を開発することを目指した。3年間の取り組みの結果、HIVの複製過程におけるウイルスの各蛋白と細胞分子との新しい特異的相互作用の発見とその実体解明、病態進行速度と密接に関連するウイルスゲノムの特異的変異と宿主側蛋白および遺伝子多型の同定、ウイルス排除のための細胞傷害性T細胞エピトープの同定、HIV複製に必須のヒト因子を導入したマウスの開発、ヒト細胞移入SCIDマウスによるHIV感染評価系の確立、ウイルス病原性研究のためのサルモデルの開発、ウイルス特異的反応およびウイルスと細胞の特異的相互作用を標的とする新しい抗ウイルス候補剤の発見および開発、などの多くの成果をあげた。その結果、細胞レベルから個体レベルにわたって、感染と病態を制御する新たな局面の数々が分子レベルで解明されるとともに、それに基づくエイズ制御の新しい戦略を示唆することができた。今後の重要課題の一つとして、高リスク非感染者、長期未発症者などの解析により、HIV感受性と病態進行を決定する宿主の遺伝的基盤と免疫学的基盤の解明がある。また、多剤併用療法奏効例の解析による免疫能再構築の実体解明も重要である。さらに、エイズのすざましい世界的拡大に対処するために、ワクチン開発の取り組みの強化は必須である。
著者
野間口 雅子 宮崎 恭行 足立 昭夫
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

HIV-1 Vif とAPOBEC3Gとの拮抗はウイルス複製にとってcriticalである。HIV-1の馴化・適応研究から、SLSA1を含むスプライシングアクセプター1近傍の領域(SA1prox)に自然に存在する1塩基置換によりウイルス複製能が変動することを見出した。本研究では、このようなウイルス複製能の変動が、Vif発現量の増減により起こることを明らかにした。さらに、Vif低発現変異体の馴化実験により、vif mRNA産生に関与するSA1prox以外のゲノム領域が存在すること、また、APOBEC3Gにより強力に複製が抑制される環境下でも、HIV-1が極めて高い適応能力を持つことが示された。
著者
小柳 義夫 永井 美之 増田 貴夫 岡本 尚 塩田 達雄 志田 壽利 足立 昭夫 高橋 秀宗 生田 和良
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

小柳はウイルス感染個体内でCD4陽性T細胞がアポトーシスに陥るのに関わる細胞性因子であるアポトーシス誘導シグナルとしてFasLでなくTRAILが関与することをSCIDマウスにヒト細胞を移植した感染系を用いて明らかにした。さらに神経組織にウイルスが侵入すると同じTRAILが中枢神経細胞を殺すことを見出した。塩田はウイルスのコレセプターであるCCR5にアジア人特有の遺伝子変異をみつけ、この変異によりこの分子の細胞表面への輸送が低下しHIVに対する感受性が低下することを見つけた。さらにIL-4の遺伝子変異が起こるとエイズ発症が遅延することも見出した。岡本はHIVの転写に必須の細胞性因子としてNF-κB p65のトランス活性化領域に結合してコレプレッサーとして働くAES/TLEとコアクチベーターとして働くFUS/TLSを発見し、ウイルス発現調節機構の新たなメカニズムを明らかにした。増田はHIVインテグレースの細胞核内への移行シグナル部位が従来考えられていたものと異なることを見つけ、この分子移行に関与する細胞性因子の同定を目指している。志田はウイルスRNAの核内から核外へ移行に必須であるウイルス蛋白質Revに結合するCRM1の機能ドメインを明らかにし、Revの多量体化にCRAM1が必要であること、さらにマウス細胞内でも機能を発揮することを見つけ、マウス細胞へのヒトCRAM1遺伝子の導入は意義のあることがわかった。
著者
足立 昭夫 内山 恒夫 山下 知輝 野間口 雅子
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

HIV-1は霊長類であってもヒトとチンパンジーにしか感染せず、かつ、ヒトにのみエイズを発症させる。このため、病原性ウイルスの研究に最も重要な個体レベルの実験・解析が不可能であった。このような状況の下、我々は世界に先駆けてサル・ヒト細胞指向性HIV-1の構築に成功した。このウイルスはGag-CAの一部(シクロフィリンA結合領域)とVifとがSIVmac由来である。本研究課題では、このウイルスを基に、1.サル細胞指向性を決定するウイルスゲノム領域の決定、2.サル細胞指向性のメカニズム解明、3.サル細胞での増殖に馴化したウイルスの構築とその特徴、4.サル細胞指向性R5ウイルスの構築、5.アクセサリー遺伝子変異体の構築とその性格、などに取組んだ。プロトタイプのサル細胞指向性HIV-1(X4ウイルス)はブタオザル、アカゲザルおよびカニクイザル由来の末梢血単核細胞に感染可能であるばかりでなく、ブタオザルとカニクイザル個体にも感染し、免疫反応を惹起させることがわかり、病原性発現機構の解明に向け大きく前進した。しかし、このウイルスはサル細胞でのTRIM5αによる抑制を解除できておらず、増殖効率がSIVmacに比較するとわるかった。この抑制に関与するGag-CA領域も解明して、増殖効率の向上したウイルスが構築された。また、細胞馴化によりSIVmacと同程度の増殖性を示すウイルスクローン(X4およびR5)も得られている。現在、上記全ての変異を持つHIV-1分子クローンとそのアクセサリー遺伝子欠損体を保持しており、個体内ウイルス複製機構/病原性発現機構の解明、アクセサリー蛋白質の役割解明、臨床応用を目指した近い将来のサル感染実験に備えている。