- 著者
-
中森 泰三
- 出版者
- 日本菌学会
- 雑誌
- 日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
- 巻号頁・発行日
- pp.3, 2009 (Released:2009-10-30)
菌類の子実体は菌類の繁殖器官であると同時に,多くの動物の餌ともなる.子実体のいくつかの形質(形態や毒成分など)は菌食動物に対する防御として進化してきたと考えられているが,実際の菌食動物に対する防御効果はほとんど調べられていなかった.本研究では,子実体食トビムシCeratophysella denisanaの食性を明らかにした上で,子実体のいくつかの形質に防御機能があることを明らかにした.
まず,野外調査・実験により,C. denisanaは特定の子実体菌種を選択的に利用しており,餌選択を決める要因が子実体にあることを明らかにした.これは,子実体の形質がトビムシの餌選択に影響し,場合によっては防御として機能しうることを示唆する結果である.また,C. denisanaの子実体上での摂食部位,および,胞子の摂食耐性の調査により,C. denisanaは糞によって胞子を分散する可能性が低く,捕食者的性格が強いことが示唆された.
次に,C. denisanaにほとんど摂食されないヘラタケ(Spathularia flavida)およびツバキキンカクチャワンタケ(Ciborinia camelliae)の子実体は,傷を受けるとC. denisanaに対し忌避作用を示すことを明らかにし,この忌避作用が,これらの菌種が摂食されない一要因であり,被食防御として機能していると推察された.同様に,C. denisanaに利用されない菌種に着目することで,スギエダタケ(Strobilurus ohshimae)とニオイコベニタケ(Russula bella)のシスチジアにはC. denisanaに対して致死作用があり,被食防御効果があることを明らかにした.シスチジアは多くの菌種に見られるが,その生態的機能はこれまでほとんど知られていなかった.本研究はシスチジアの生態的機能を明らかにしたものとしてインパクトは大きいと思われる.