著者
佐方 功幸 西澤 真由美 古野 伸明 渡辺 信元 岡崎 賢二
出版者
久留米大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1992

c-mosキナーゼ(Mos)は、細胞分裂抑制因子(CSF)として、脊椎動物の卵成熟を第2減数分裂中期で止める生理活性を有する。一方、Mosは体細胞で発現するとがんをひきおこす。本年度の研究では、MosのCSF活性の発現制御機構、およびMosのがん化活性と細胞周期・細胞内局在性との関係について調べた。1.卵成熟および受精におけるMosのCSF活性の制御機構Mosはツメガエルの卵成熟過程において、代謝的に不安定型から安定型へ、また機能的にも、卵成熟誘起活性からCSF活性へと変換する。40種をこえるMos変異体を用い、Mosの代謝的安定性がMosのN末端の単一のアミノ酸(Pro^2)によって規定されていること(2nd-codon ruleと命名)、CSF活性のためにはPro^2に隣接するSer^3のリン酸化による代謝的安定化が必須であることを示した。また、Mosの代謝が、ユビキチン経路によることをはじめて明らかにし、細胞周期制御におけるユビキチン系の重要性を指摘した。さらに、受精に際するMosの分解がSer3の脱リン酸化を伴うユビキチン経路によることも明らかにした。2.Mosのがん化活性と細胞周期・細胞内局在性Mosは生理的(卵成熟)には細胞周期上のG_2→M転移で機能し、がん化の際にどの細胞周期の時期で機能するかが問題となっている。そこで、M→G_1期に特異的な分解を受けるサイクリンとMosのキメラ遺伝子を作製しNIH3T3にトランスフェクトすることにより、Mosが細胞をがん化するときにはG_1期での発現が必須であることを明らかにした。この結果は、原がん遺伝子の生理活性とがん化活性の違いを細胞周期上での発現の違いとしてはじめてとらえたものである。さらに、Mosキナーゼの基質が、細胞質から核に移行する物質(たとえば、転写因子等)であることを示した。
著者
岸本 健雄 佐方 功幸 稲垣 昌樹 竹内 隆 浅島 誠 山本 雅 正井 久雄
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

特定領域研究「細胞周期フロンティア-増殖と分化相関」(細胞増殖制御)は、平成19年度から5ヶ年計画で発足し、平成23年度末で終了を迎えた。本研究では、この特定領域研究の総括班業務を引き継ぎ、以下のように、領域終了にあたって領域としての研究成果をとりまとめ、その公開をはかった。(1)「研究成果報告書」を、全班員(前期あるいは後期だけの公募班員や途中辞退者も含む、総計91名)をカバーした冊子体で作成した。本報告書は8章からなり、領域としての研究成果の概要だけでなく、各班員毎の研究成果の概要も掲載し、総頁数456頁の冊子となった。班員、関連研究者、文科省等に配付した。(2)公開の領域終了シンポジウム「細胞増殖制御」を、平成24年8月30、31の両日、東京工業大学・蔵前会館(目黒区大岡山)で開催した。領域メンバーのうち、前後両期の参画者を中心として31名が講演発表した。参加者総数は約100名で、評価委員も出席した。領域としての主な研究成果を、概観できるシンポジウムとなった。(3)領域の終了に伴う事後評価のためのヒアリングを、平成24年9月12日に文部科学省で受けた。後日、評価結果は「A」(研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)であるとの通知が届いた。(4)領域ホームページで、上記の公開シンポジウムもアナウンスし、領域としての成果を発信した。これらにより、本領域の設定によって得られた研究成果を周知するとともに、領域メンバー間の有機的な連携を再確認し、細胞周期制御関連分野の研究の今後の発展に資することができた。
著者
岡山 博人 佐方 功幸 石見 幸男 白髭 克彦 大矢 禎一 石見 幸夫
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

当研究の主たる課題であり、発癌の根底機構をなす足場依存性・非依存性細胞周期機構の解明に向けて研究を推進し、重要な進展を得た。特に、足場消失に伴い、染色体DNAの複製開始に必須なCdc6タンパクの発現が転写停止とタンパクの分解促進によって遮断されること、このタンパク分解に、少なくとも2種類のユビキチンリガーゼと1種類のカテプシン様システインプロテアーゼが関わっていること、その一つはG1期で作用することが示されているCdh1-APであり、その働きに癌抑制因子p53が必要であること、更にこれらの系によるCdc6タンパクの分解制御にTsc-Rhebシグナル伝達経路が深く関わっていることを見出した。一方、G1期サイクリン依存性キナーゼのなかでCdk6/サイクリンD3の複合体が、阻害タンパクの影響を受けないこと、その結果、増殖刺激が無い状態で細胞の増殖促進効果を発揮し化学発癌に対する細胞の感受性を著しく引き上げること、更に、骨細胞分化を負に抑制することを明らかにした。他方、細胞周期チェックポイント制御に関して、以下の知見を得た。Myt1キナーゼはCdc2の抑制的キナーゼであり、ツメガエル卵の減数分裂においては、Mos/MAPK下流のp90rskキナーゼがMyt1と結合し、その活性を阻害している。また、体細胞周期においてPolo様キナーゼPlx1がMyt1と結合しリン酸化することによってその活性を阻害することを見出した。更に、様々な基質中の二重にリン酸化されたDSGモチーフ(DpSGFXpS)を認識するSCFb-TrCPユビキチンリガーゼが、ツメガエルおよびヒトのCdc25Aにある新規な非リン酸化型DDGモチーフ(DDGFXD)を認識し、分解に導くことを見出した。