- 著者
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新見 治
鈴木 裕一
肥田 登
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.1, pp.23-34, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 90
- 被引用文献数
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わが国の地理学研究者による最近の水文学研究には, 2つの潮流が存在する。一つは水文循環の物理的過程を究明する水文学研究であり,もう一つは水文環境,すなわち水と人間の関係を総合的に扱う水文誌的研究である。この報文では,特に水文誌の基礎となる地理学分野での研究動向を把握し,今後の研究上の課題について考察した。 地域レベルでは,日本の水収支や水文環境の特性のほか,降水の時空間的な変動特性が研究されてきた。水利用に関しては,高度経済成長期の水資源開発や水問題,工業用水道事業の成立と展開,都市化と農業用水などについて論議が深められた。 流域レベルにおいては,マンボなどの在来の地下水利用技術,地下水を利用した融雪システム,水利用と環境問題,地下水管理など,地域の地下水環境と水利用に関する研究が数多く行われた。都市化と水との関係に着目し,水利秩序の再編成過程,水利転用の展開,灌漑用溜池の潰廃のほか,都市化地域の水文環境と水利用に関する事例研究も進められた。このほか,洪水と水害,ダム建設と社会問題,離島の水などにも関心が向けられた。 このように,水と人間の関係を扱った研究は地理学の様々な分野において多数存在するにもかかわらず,これら基礎的研究によって得られた地理学的情報は水文誌の視点から総合的に整理されていないのが現状である。水文環境や水利用に関する情報の表現方法の開発,水循環と水収支を基本的概念とする水文誌記載の具体的な試み,そして水文誌の記載方法の確立などが,今後のこの分野での重要な研究課題である。